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商標権行使と権利濫用1〜商標権に無効理由がある場合

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権利濫用法理のアウトライン

権利濫用とは

 商標権は法律で定められた権利であり、これを第三者に行使できるのは当然です。

 しかし、一見法律に即した権利の行使に見えても、それが著しく公共の利益や信義に反するような結果になることがあります。

 この点、民法1条3項は「権利の濫用は、これを許さない。」と定めています。つまり、上のような結果になる権利の行使は、形式論理上は適法に見えても、「濫用」として許されないのです。

権利濫用の判断に関する裁判所の考え方

 権利濫用という考え方は、明治時代以来判例法理として定着している概念です。

 そして、権利濫用の判断については、究極的には一切の事情が考慮されるわけですが、主な要素としては以下のようなものが挙げられます。

  • 権利行使が相手方をいたずらに目的でなされたか否か
  • 当該権利行使が権利者にもたらす利益に比べ相手方に生じる損害が著しく大きいといえるか
  • その権利行使が社会の倫理概念や公序良俗に反するか否か

商標権行使と権利濫用の例1〜商標登録に無効理由が存在する場合

 以下、商標権の行使が権利濫用とされたケースにつき、パターン別にご説明したいと思います。本ページでは、「商標登録に無効理由が存在する場合」につき取り上げます。

概要

 商標登録に無効理由が存在することが明らかであるという場合です。もっとも、この類型は現在は商標法39条(特許法104条の3を準用)に明文化されていますが、現在でも権利濫用が機能する余地がないことはありません。

 以下、具体例をご紹介します。

カンショウ硫酸事件(東京高裁平成13年10月31日判決)

 このケースは、普通名称につき商標登録がなされているという無効理由を認定し、権利濫用を認めました。

判決文
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/224/012224_hanrei.pdf

ADAMS事件(東京高裁平成15年7月16日判決)

 このケースは、海外で注目されている商標を、これに便乗して不正な利益を得る目的で出願しているという理由で無効理由を認定したものであり、以下のような趣旨のことを述べました。

  • 本件登録商標の出願当時、被控訴人アダムスゴルフの名称あるいは同社が使用するADAMSの標章は、我が国においてはいまだ周知著名であるとはいえなかった。
  • しかし、上控訴人は、同標章が米国では注目されるようになっていたことを知った上で、近い将来、我が国においても同商標が注目されるようになる可能性が高いとの判断の下に、我が国で登録されていないことを幸い、被控訴人アダムスゴルフの名声に便乗して不正な利益を得るために使用する目的をもって、同被控訴人の許諾を得ることなく、本件登録商標の商標登録出願をした。
  • 本件登録商標は、公正な商取引の秩序を乱し、ひいては国際信義に反するものとして、同項7号にいう公序良俗を害するおそれがある商標に該当する。
  • よって、商標権の行使は無効理由が存在することが明らかな商標権に基づくものであって、権利の濫用に当たる。

判決文
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/957/010957_hanrei.pdf

グレイブガーデン事件(東京地裁平成24年2月28日判決)

 商標登録当時使用の意思があったともいえないという無効理由(商標法3条1項柱書)が認められたケースです。以下、判決のポイントをご紹介します。

  • 商標登録当時、原告において、自己の業務に現に使用していたとは認められず、かつ、自己の業務に使用する意思があったとも認められない。
  • 商標登録後も、原告が、本件商標を「墓地又は納骨堂の提供」の業務に現に使用した事実は認められず、将来使用する具体的な計画もないから、本件商標には、原告の信用が化体されているとはいえない。
  • これらの事情に鑑みれば、原告の本件商標権の行使を容認することは、濫用的な商標登録を排除して登録商標制度の健全な運営を確保するという商標法3条1項柱書の趣旨に反する結果をもたらすから、権利の濫用に当たり許されない。

 このケースは、商標法47条1項の除斥期間が経過しており、商標登録無効審判の請求をすることができないケースでしたが、裁判所は商標権の無効理由を根拠に権利濫用を認めました。

判決文
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/069/082069_hanrei.pdf

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