4.7 商標の継続的使用権~商標権侵害主張への抗弁
他社から商標権侵害の主張を受け検討したものの、他社の登録商標と自社が使用する標章の抵触が免れない、又はその可能性が高いと判断せざるをえない場合、何らかの抗弁や反撃の可能性を検討します。そして、他社から商標権侵害の警告を受けた場合の一つの対抗手段として「継続使用権」を主張できる場合があります。
本稿では、継続的使用権を主張できるのはどのような場合か、実務的に考慮すべき点を検討します。
サービスマークの継続使用権の主張
サービスマークの継続的使用権とは
1992年9月30日以前からサービスマーク(役務に使用する商標)を使用していたというケースでは、先使用権とは別に継続使用権を主張することを検討できます。
この継続的使用権は、平成3年の商標法改正においてサービスマーク(サービスに使用する商標)の登録制度が導入されたことに際して定められた規定です。この規定によれば、サービスマークの登録制度が導入された1992年9月30日以前から継続してサービスマークを使用していた者が、その後に同一・類似の商標がサービスマークとして登録された場合であっても、当該サービスマークを引き続き継続して使用することができます。
継続的使用権が認められる範囲
前記の継続的使用権は、1992年9月30日以前から現実に使用されていたサービスマークについて、当該マークを使用して現実に行っていたサービスについてのみ認められます。なお、他人の有名商標へのただ乗り等の「不正競争の目的」で使用した場合を除きます。
まず、マークの同一性が問題となります。この点、社会通念上同一と認められる程度の変更(ゴシック体を明朝体にする、縦書きを横書きにする等)は同一の範囲と認められます。他方、従前使用されていた「文字+図形」というサービスマークで、図形の部分を別のものに変更するようなものは同一の範囲とは認められません。
サービスの範囲についても、基本的には従前使用しているものと同一である必要があります。この点、新たなサービスの追加は同一の範囲とは認められません。例を挙げれば、以下のようなものがあります。
認められる例
- ラーメン店でメニューとして餃子やつけ麺を追加した
- パチンコ店にスロットマシンを追加
認められない例
- 支店を新規に開店した
- 食品販売店がドラッグストアを開店した
小売等役務商標に関する継続的使用権
権利の概要
以上のほか、2007年(平成19年)4月1日からいわゆる「小売等役務商標制度」が施行されたことに伴う「継続的使用権」も認められています(平成18年改正法附則6条1項)。
すなわち、2007年(平成19年)4月1日から、いわゆる「小売等役務商標制度」が施行され、小売業者や卸売業者が、その店名や屋号を商標登録して独占的に使用する権利が認められました。
他方、当該改正制度が施行される前から小売や卸売に関して使われてきた店名や屋号などが、他人の商標登録により使えなくなるとすれば、社会通念に照らして不合理と考えられます。そのため、2007年(平成19年)3月31日かそれ以前から、小売等に関して使用していた店名などの標章については、引き続き、原則としてその範囲内で使用することができるという規定が定められたわけです。
継続的使用権が認められる範囲
先ほど申し上げたサービスマークに関する継続的使用権と同様、2007年(平成19年)4月1日の時点で現にその商標の使用をしてサービスを行っていた業務の範囲内において継続的使用権が認められます。ただし、その商標が、改正法施行の際(2007年(平成19年)4月1日の時点)に需要者の間に広く認識されているときは、その業務の範囲に限定されることなく当該商標を使用することができます(先使用権 平成18年改正法附則6条3項)
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