1.5.2 登録できない商標~普通名称・慣用商標
普通名称と商標登録
普通名称のみでなる商標が登録できない理由
普通名称とは、商品又は役務の「普通名称」を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標をいい、登録ができない旨定められています(商標法3条1項1号)。普通名称がある商品に使用されても、需要者が、一定の出所から出ていることを認識できません。つまり、自己の商品・役務と他人の商品・役務を区別することができないので、商標としての機能を果たすことができないからです。
普通名称の例
では、どんなものが普通名称とされるでしょうか。典型的には指定商品と同一の名称の場合をいいます。
例えば、「ドーナツ」が指定商品の場合に、「ドーナツ」や「あんドーナツ」という商標を出願するような場合です。
普通名称には、商品の略称や俗称も含まれます。例えば「パーソナルコンピュータ」の略称である「パソコン」、「損害保険」の略称の「損保」、「箸」の俗称である「おてもと」なども普通名称です。
また、普通名称の中には、「エスカレータ」や「ナイロン」のように、元来は商標であったものが、時間の経過とともに普通名称化したものもあります。
3条1項1号に該当しない場合
ただし、登録できないのは、「普通に用いられる方法」で普通名称を表示するものです。それで、商標の構成によって、極めて特殊な態様で表示されたとみなされるものは、商標法3条1項1号に該当しないと考えられます。
また、普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章「のみからなる」商標が対象ですので、商標の一部に普通名称を含んでいたとしても、全体として識別力があれば本号には該当しません。
慣用商標と登録
慣用商標が登録できない理由
慣用商標とは、もともとは他人の商品・役務と区別できる商標であったものが、同業者間で普通に使用されるようになり、自己の商品・役務と他人の商品・役務とを区別できなくなった商標をいい、登録ができない商標とされています(商標法3条1項2号)。
慣用商標も、自己の商品・役務とと他人の商品・役務を区別する機能がないため、登録ができません。
慣用商標の例
肯定例
例えば以下のようなものは慣用商標と判断された例です
- 清酒について「正宗」(東京高裁昭和36年6月27日判決)
- 餅菓子について「羽二重餅」(東京高裁昭和31年7月14日判決)
- カステラについて、オランダ船の図形(昭和11年4月15日審決)
- 甘栗について、「甘栗太郎」(昭和32年8月23日審決)
- 「砂糖、ラード、小麦粉をこね合わせて木型で抜きとり、焼き上げた菓子」について「ちんすこう」(平成元年9月21日審決)
否定例
他方、以下は慣用商標ではないと判断された例です。
- 「歯痛・頭痛薬」について「ケロリン」(東京地裁昭和42年10日16日判決)
- 「餅」について「走り餅」(昭和45年10月20日審決)
- 「大黒花芸豆を原料とする煮豆」 について、「茶福豆」(平成11年6月24日審決)
普通名称・慣用商標の例外的な登録
普通名称も慣用商標も、自己の商品・役務とと他人の商品・役務を区別することができないので、商標としての機能を果たすことができません。そのため、登録できないと判断されます。
もっとも、ごく例外的な場合として、永年使用による特別顕著性が認められて商標登録された例(指定商品「ドーナツ」について「ミルクドーナツ」の商標(東京高裁昭和49年9月17日判決))もあります。詳細は、こちらをご覧ください。
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