労働者の義務~会社の業務命令権
会社の被用者に対する業務命令権
業務命令権の根拠
会社と労働者の間で結ばれる労働契約によって、かつ、労働契約に沿って、会社は、業務遂行のために労働者に対して指示または命令を行うことができる業務命令権を持ちます。
業務命令に含まれるもの
業務命令には、残業命令、配置転換(転勤や職種変更)、在籍出向、転籍出向、出張、派遣などがあります。
労働者は、これらの業務命令に対しては、労働契約で合意されている内容の範囲内であり、さらに業務上の必要性や合理性が認められるものであれば、これらに従う必要があります。
業務命令違反の効果
労働者が正当な理由がないのに業務命令を拒否するなら、業務命令違反や職場規律違反として、懲戒処分を受けることもあり得ます。
労務提供とは直接関連しない事項に関する業務命令
また、業務命令の中には、調査への協力、健康診断の受診など、労働者の本来の労務提供とは直接に関連しない事項を対象とすることもあります。これについても合理性がある業務命令には従う義務があります。
健康診断の受診の義務
労働者の本来の労務提供とは直接に関連しない事項を対象とした業務命令の例として、たとえば、業務命令により労働者に精密健診受診を強制できるかという問題があります。
この点、電電公社帯広局事件(最高裁昭和61年3月13日判決)は、労働者が健康管理従事者の指示に従う義務があると定める就業規則等の規定には合理性があり、労働者は、受診命令に従う義務を負うと判断しました。
みだしなみに関する命令
また、労働者の身だしなみに関する業務命令について判断したケースがあります。例えば、東谷山家事件(福岡地裁小倉支部平成9年12月25日判決)は、トラック運転手に対して茶髪を改めるようにという業務命令について、業務命令権の範囲外として有効性を認めませんでした。
業務命令が無効となる場合
他方、以下のような業務命令は、通常は拘束力はなく、当該命令を拒否した労働者に対する懲戒処分は無効と判断されることになります。
- 労働基準法などの法律に違反するもの
- 労働契約や就業規則に違反するもの
- 贈賄、談合、官庁への虚為報告などのその他の違法行為
- 選挙応援など労働者の個人的自由の侵害に当たる行為
- 労働者に多大な不利益を生じさせるもの
- 差別的業務命令(性別を理由にしたもの、国籍信条を理由としたもの)
例えば、組合のマーク入りのベルトの取り外し命令に応じなかった組合員に対し就業規則全文の書き写しを命じたという業務命令について、見せしめをかねた懲罰的目的からなされた人格権を侵害する行為であり、違法な業務命令と判断されたケースがあります(JR東日本(本荘保線区)事件 最高裁平成8年2月23日)。
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