労働契約の終了~整理解雇 解説労働法
解雇にはどんな種類があるか
解雇には、懲戒解雇と普通解雇、があります。また、普通解雇の中には、当該労働者の個々の事実を原因とする解雇と、会社側の人員整理としての整理解雇があります。
解雇は、会社側からの一方的な労働契約の終了であり、被用者の生活に大きな打撃を与えるため、法律で大きく制限されています。本稿では、整理解雇の概要と、これにまつわる問題について取り上げます。
整理解雇の要件のアウトライン
整理解雇は、経営危機や事業所閉鎖などの経営規模縮小に伴う人員整理による解雇をいいます。
整理解雇が許される要件は、実際は、非常に厳しいといえます。一般には、整理解雇には、以下の4つの要件を満たしている必要があるとされています。いわゆる整理解雇の四要件というものです。
1)整理解雇の必要性が本当にあること(会社の維持・存続を図るためには人員整理が必要であること)
2)整理解雇を避けるための努力を会社が尽くしていること(解雇に先立ち、退職者の募集、出向その他余剰労働力吸収のために相当の努力が尽くされたこと)
3)対象者の選定に合理性があること
4)労働者側との間で十分な協議が尽くされていること(解雇の必要性・規模・方法・解雇基準等について労働者側の納得を得るために相当の努力がなされていること)
以下、各要件についてもう少し詳細に見ていきます。
各要件の詳細
人員整理の必要性
整理解雇を行うには、相当の経営上の必要性が認められる必要があります。
ただし、この必要性は、必ずしも企業の存続が危うい程度に差し迫った必要性である必要はありません。そのような状態に至らない場合でも、売上や利益の大きな減少等の客観的に高度の経営危機下にあるという場合には、人員整理の必要性が認められることが多いといえます。また、裁判例によっては、客観的に高度な経営上の必要性があれば足りるというものもあります。
また、裁判例によっては、客観的に高度な経営上の必要性があれば足りるというものもあります。しかし、他方で高い配当率の利益配当を行ったり、賃上げ等の矛盾した行動がある場合には、必要性が否定されることもあります。
判例の事例としては、以下のようなものがあります。
東京高裁昭和54年10月29日判決(東洋酸素事件)
裁判所は、会社が、客観的・合理的事由のない自己都合によって労働者を解雇する自由を有しないが、資本主義経済社会において私企業が、採算を無視して事業活動及び雇用を継続すべき義務を負わないし、雇用の安定による労働者の生活保障等の観点から私企業に対して需要供給の関係を全く無視した特別な法的負担を課する根拠は認められない、と述べました。
東京地裁平成14年12月17日判決(労働大学事件)
裁判所は、会社が、現に倒産の危機にあったとはいえないが、従前のまま経営を続けると近い将来存続が危ぶまれるような状況に陥る可能性が高かったといわざるを得ず、当時の社会情勢からみると、もはや売上の増加を図ることは困難であったから、会社として経営再建を実現するためには、まず経費を削減する方策を講じることが必要な状況にあったといえ、人員削減は、この経費削減のための一つの方策であるから、会社には何らかの人員削減の必要性があったと認められる、と判断しました。
仙台地裁平成14年8月26日判決(鐘淵化学工業東北営業所事件)
会社全体としては過去最高の経常利益を上げる状態ではあるが、建材部門については赤字が続いており、会社は整理解雇を検討する以前から、経費削減のための合理化努力を続けてきた。企業全体として黒字でも、赤字部門について経費削減等の経営改善を図ること自体は、会社の経営判断として当然の行動である。業績の落込みが経済構造の変化に伴う不況と考えられることに照らし、東北営業所の閉鎖によって余剰人員が生じる結果となるのは避けられないから、人員削減の必要性が認められる。
同判決は、人員整理の必要性を比較的ゆるやかに認めたものといえます。
解雇回避の努力を尽くしたこと
簡単にいえば、「解雇をする前にやるべきことをやった」という要件です。具体的には、以下の手段が挙げられます。
- 残業削減・労働時間短縮
- 資産の売却等の資金捻出
- 役員報酬の減額その他の経費削減
- 下請・外注先との取引中止
- 希望退職の募集
- 新規採用の中止
- 他部門への配転
- 関連会社への出向
- 一時帰休の実施
- 雇用調整助成金の利用
もっとも、解雇回避のためにどのような手段をどこまで、またどのような手順で行うかについては、一律の基準があるわけではありませんし、全部を行わなければならないというものでもありません。当該人員整理の具体的状況のなかで、全体として指名解雇回避のために真摯かつ合理的な努力と認められる程度のものか否かという観点から考えることになります。この点、ひっ迫した経営危機に直面した整理解雇と、将来の危機を防衛するための解雇とを比較すれば、後者においては、より十分な整理解雇回避の努力が必要とされることになります。
また、企業の規模によっても行える範囲が異なることもあり、この点も考慮する必要があります。例えば小規模な企業の場合、配転がそもそも無理というケースもあります。
判例の事例としては、以下のようなものがあります。
最高裁昭和58年10月27日判決(あさひ保育園事件)
裁判所は、会社が、解雇の必要性、方法、条件等などを説明して協力を求める努力もせず、希望退職者募集の措置も採ることなく解雇回避の努力をせずに、解雇日の6日前に突如として解雇を通告したことは、労使間の信義則に反するとして、解雇権濫用を肯定しました。
東京地裁平成15年8月27日判決(ゼネラル・セミコンダクター・ジャパン事件)
裁判所は、人員を削減する必要があったか否かが疑問である上、希望退職を募集するなど解雇回避努力に値するような措置は一切取られておらず、解雇回避努力を尽くしたとはいえないという理由で、解雇権濫用を肯定しました。
東京地裁平成13年7月6日判決(ティアール建材・エルゴテック事件)
やむを得ない理由で事業部門を閉鎖したというケースで、裁判所は、使用者である会社(Y1)にも、筆頭株主の会社(Y2)、その関連会社にも、結果的には100名となった余剰人員を配置転換や出向で吸収しうるだけの労働力需要がなかったことが明らかであり、近い将来の需要回復を期待すべき根拠は皆無であったとし、かかる極めて多数の過剰人員を希望退職の方法で解消するというのも現実的でなく、Y1では退職金の原資が極端に不足し、希望退職の方法をとった場合残留従業員の将来の退職金支払に不安が残るため、全員解雇の方法を採用したのであり、Y1の労働組合もこの方法を希望したことも考慮すると、Y1が希望退職を募集せず、全員退職の方法をとったことには合理性があった、と判断しました。
大阪地裁平成12年12月1日判決(ワキタ事件)
業績不振および業務量の減少を理由にパートタイマーを解雇したというケースで、英文タイピストであった原告が解雇の効力を争いました。裁判所は、国際事業部においては余剰人員となり、他部署でも英文タイピストの必要性がなかったことは認められるが、一般事務要員としてなら他部署に配置することも可能であるところ、会社が配置転換の提示をしておらず、退職勧奨も行っていないことから、リストラを実施中であることを考慮しても、解雇回避の努力を尽くしたとはいい難いと判断しました。
大阪地裁堺支部昭和54年4月25日判決(細川製作所事件)
裁判所は、希望退職を募集した会社が、応募してきた従業員を慰留しておいて、他方で他の従業員を指名解雇したというケースで、解雇回避努力が尽くされてはいないと判断しました。
解雇対象者の人選の合理性
誰を解雇するかという点につき、客観的・合理的な基準を設ける必要があるということです。一般的には、年齢、勤続年数、勤務成績、勤怠、職種、能力、生活への影響度などを基準とすることができます。
以下、もう少し詳細に見ていきます。
年齢を人選基準とする場合
年齢は使用者の恣意の働く余地がなく客観的な基準といえます。他方で年齢は必ずしも労働者の職務能力と直結する要素ともいえないため、合理的な基準たりうるか、検討の余地があります。裁判例にも、有効と判断したものと無効と判断したものとがあります。
例えば、福岡地裁平成4年11月25日判決(三井石炭鉱業事件)は、53歳以上という年齢を唯一の基準としてたケースで、有効と判断しました。また、東京地裁昭和63年8月4日判決(エヴァレット汽船事件)は、「45歳以上あるいは再建計画による業務整理による余剰人員となる者」という基準を有効としました。また、
他方、東京地裁平成13年12月19日判決(ヴァリグ日本支社事件)は、会社が、退職を勧告し拒否した53歳以上の幹部職員を解雇したというケースにおいて、53歳という年齢は、定年年齢まで7年間もの期間が残存し、残存期間における賃金に対する被用者の期待も軽視できない上、我が国の労働市場の実情からすれば再就職が事実上非常に困難な年齢であるといえるから、早期退職の代償となるべき経済的利益や再就職支援なしに上記年齢を解雇基準とすることは、人選基準は全体として著しく不合理であるとしました。
雇用形態を人選基準とする場合
労働者の雇用形態として、例えばパートや嘱託社員といったいわゆる非正規労働者を正社員よりも先に優先的に整理解雇の対象とすることは、合理性が認められやすいと考えられます。
勤務成績を人選基準とする場合
勤務成績を人選基準とすることは一般論としては合理的となりえますが、客観的・合理的基準を設けることは難しい面があります。
まず、具体的な基準が必要です。この点、例えば「広島地裁昭和53年6月29日判決(出島運送事件)は、「誠実・勤勉・調和」を基準の大綱とし、全従業員の中で、〔1〕上司や同僚との協調性、〔2〕作業能力、〔3〕勤労意欲の各点において最も劣るとしてある社員を解雇したというケースで、解雇基準・基準運用の面において合理性を欠き、なぜ当該社員のみが解雇されたかという点において合理的な理由がないとしました。
また、人事考課の結果を人選基準とする場合には、客観性・合理性が認められることが多いと考えられます。例えば、東京地裁平成14年10月7日判決(東京都土木建築健康保険組合事件)は、勤務評定という客観的な評価に基づいて最も低い評価を受けた者を解雇するという人選基準を妥当と判断しました。
ただし、当該人事考課自体に客観性・合理性は必要です。例えば、甲府地裁昭和62年5月29日決定(朝日石綿工業事件)においては、会社が「直近3回の勤務考課表の合計点」という基準を用いたと主張しましたが、裁判所は「その具体的な内容を明らかにする疎明がない」として合理性を否定しました。
本稿は執筆途中です。加筆し次第順次公開します。
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