労働契約の終了~普通解雇(概説)
解雇にはどんな種類があるか
解雇には、懲戒解雇と普通解雇、があります。また、普通解雇の中には、当該労働者の個々の事実を原因とする解雇と、会社側の人員整理としての整理解雇があります。
解雇は、会社側からの一方的な労働契約の終了であり、被用者の生活に大きな打撃を与えるため、法律で大きく制限されています。本稿では、整理解雇を除く普通解雇の概要と、これにまつわる問題について取り上げます。
普通解雇(整理解雇以外のもの)が認められる場合
整理解雇を除く普通解雇とは、労働者の労働能力や労働適格性が欠如している、勤務態度が不良である、非違行為があるなど、労働者の責に帰す理由によりする解雇のことをいいます。
以下、どんな場合に普通解雇が認められるのか、そのアウトラインをご説明します。
解雇が客観的に合理的な理由に基づくこと
いかなる事由があるときに普通解雇するのかは、就業規則などで決めることができます。ただし、就業規則に書いてあれば些細な理由でも解雇できるわけではなく、その理由が「客観的に合理的な理由」でないと、解雇権濫用として解雇が無効となることがありえます。
例えば、労働能力の問題や勤務態度の不良であれば、能力不足や不良の程度がどの程度かという評価に加え、その原因、評価の適正さ、会社として改善のための注意・指導を尽くしたか、などを考慮する必要があります。
健康状態の悪化についても、業務内容等との比較で、正常な勤務に堪えられるかどうかの観点から、客観的に合理的な理由でなければなりません。
法令によって解雇が禁止されている場合でないこと
法令によって解雇が禁止されている場合があります。この場合、解雇は許されません。その中には以下のようなものがあります。
解雇禁止期間
労基法19条1項は、「業務上」の負傷・疾病による療養のために休業する期間・その後30日間の解雇を禁止しています。また、産前産後の休業の期間とその後30日間についても同様です。
差別的な理由による解雇
法令によって、解雇の理由としては許されないものがあります。例を挙げると以下のとおりです。
- 国籍、、信条又は社会的身分を理由にした差別的解雇(労基法3条)
- 労働組合員であること等を理由とする解雇(労働組合法7条1号)
- 性別を理由とする解雇(男女雇用機会均等法6条4号)
- 婚姻・妊娠・出産等を理由とする解雇(男女雇用機会均等法9条)
- 育児・介護休業取得等を理由とする解雇(育児・介護休業法10条、16条)
- 公益通報をしたことを理由とする解雇(公益通報者保護法3条)
解雇予告、又は解雇予告手当の支払
ある労働者を解雇する場合、一定の例外を除き、会社は30日前に予告をするか、または、即日解雇するのであれば、30日分の予告手当を支払わなければなりません。これを解雇予告手当といいます。
普通解雇をめぐる判例上の事例
以下、いくつかの類型ごとに、普通解雇が認められた例、認められなかった例をご紹介します。
能力不足・適格性欠如を理由とする解雇
この点については、「普通解雇~能力不足・成績不良による解雇の可否」のページをご覧ください。
業務命令拒否を理由とする解雇
肯定例~東亜ペイント事件・東京地裁昭和61年7月14日判決
本件は、神戸営業所から名古屋営業所への転勤命令を拒否した労働者を解雇した事例です。裁判所はまず、会社の労働協約及び就業規則には転勤を命ずることができる旨の定めがあり、従業員の転勤は頻繁に行われる実態がある上、当該従業員も入社の際に勤務地を限定する旨の合意がなかったという事情から、会社がは当該従業員の同意なしに労働者の勤務場所を決定することができる、と述べました。
そして、裁判所は、転居を伴う転勤については、業務上の必要性が存在しない場合、又は必要性があっても当該転勤命令が不当な動機、目的をもってなされたものであるとき、若しくは労働者に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるとき等、特段の事情がある場合には、権利の濫用となる、と述べ、当該ケースの事情では、家庭生活上の不利益について通常甘受すべき程度であるとして、転勤命令は権利濫用ではなく、かつ解雇は有効と判断しました。
勤務態度の不良を理由とする解雇
肯定例~小野リース事件・最高裁平成22年5月25日判決
統括事業部長兼取締役であった従業員の勤務態度が不良であり、飲酒癖が悪く、他の従業員に加え、取引先からも苦情が寄せられるほどでした。このケースでは、当該従業員に対する解雇の有効性が争われました。
最高裁は、、当該幹部従業員の勤務態度の問題点が、正常な職場機能、秩序を乱す程度のものであって、自ら勤務態度を改める見込みも乏しかったから、解雇事由に該当する事情があることは明らかであり、欠勤を契機として解雇をしたことはやむを得なかったと述べました。また、裁判所は、懲戒処分などの解雇以外の方法を採ることなくされたとしても、今回の解雇が著しく相当性を欠くとはいえないと判断しました。
肯定例~日本ストレージ・テクノロジー事件・東京地裁平成18年3月14日判決
物流専門職として採用された従業員Aは、配属後10か月以上経過しても商品納入に欠品を生じさせたり、発注確認や書類の提出の遅延等を繰り返し、顧客や会社内の他部門の社員から、業務の不適切さ、不誠実さ、強調性のない言動について多くの苦情が寄せられました。会社は、その度にAに対して指導・注意を行い状況報告を求めましたが、Aは速やかに報告書を提出せず、言い訳をして指導・注意に従うことも反省することもありませんでした。
それで、会社はAを他部門に異動させ、最後のチャンスであることを告げましたが、Aはマネージャーの指示に従わないことが多く、顧客から、Aの業務対応へ多くの苦情が寄せられました。それで、会社はAに自主退職を勧奨したものの拒否されたため、Aを解雇しました。
裁判所は、Aは業務の遂行に必要な能力を著しく欠き、解雇は、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当であったと判断しました。
業務上の過ちを理由とする解雇
否定例~高知放送事件・最高裁昭和52年1月31日判決
放送事業を営む会社のアナウンサーAが、2週間の間に2度、宿直勤務の際に寝過ごし、午前6時からの定時ラジオニュースを放送できなかったため、放送が5分間又は10分間中断されました。そして、Aは2度目の放送事故をすぐに上司に報告せず、報告の際にも事実と異なる報告をしました。会社は、Aを普通解雇しました。
裁判所は、以下のように述べ、解雇の効力を否定しました。Aの起こした放送事故は会社の対外的信用を著しく失墜するものであるが、Aの過失によるもので悪意・故意によるものでない。先に起きてAを起こすことになっていた担当者も2回とも寝過ごしており、その担当者は譴責処分を受けたに過ぎない。過去に放送事故を理由に解雇された例はない。会社は早朝ニュース放送の万全を期すべき措置を講じていない。Aはこれまで放送事故歴がなく平素の勤務成績も悪くない。これらの事実に鑑みれば、Aに対し解雇をもってのぞむことはいささか過酷に過ぎ、合理性を欠かないとはいえず、社会的に相当なものとして是認することはできない。
勤務先に対する加害行為等を理由とする解雇
肯定例~学校法人敬愛学園事件・最高裁平成6年9月8日判決
学校と教員との間で教育方針をめぐって紛争が生じ、学校がこの教員を解雇しました。当該教員は、弁護士会や地元メディアに対して、内容が真実ではない文章を送付するなどの行為に及んだため、学校は、改めて解雇の意思表示を行いました。
裁判所は、解雇の有効性を認め、「(文書の送付によって)学校教育及び学校運営の根幹にかかわる事項につき、虚偽の事実を織り混ぜ、又は事実を誇張わい曲して、学園及び校長を非難攻撃し、全体としてこれを中傷ひぼうしたものといわざるを得ない。」「高校教員の行為は、校長の名誉と信用を著しく傷付け、ひいては学園の信用を失墜させかねないものというべきであって、学園との間の労働契約上の信頼関係を著しく損なうものであることが明らかである」と述べました。
もっとも、本件は、二審では解雇無効の判断がなされたものでしたので、微妙なケースではありました。
傷病を理由とする解雇
肯定例~福田工業事件・大阪地裁平成13年6月28日決定
プラスチック製品の製造販売を業とする会社の労働者に関する事例です。裁判所は、業務との関連が認められない疾病により、会社での就労が長期間不可能な状態となっており、平成9年7月20日当時の債権者は、就業規則の「精神若しくは身体上の障害のため業務に耐えられないと認められるとき」に該当するといえ、解雇については合理的な理由があると判断しました。
また、裁判所は、会社が、平成8年10月22日以降、当該従業員に業務内容の変更を提示したり、当該従業員に復職要求をするまで約8か月間、当該従業員の欠勤要請を受け入れてきたこと、平成9年6月2日の業務内容の変更の提示については、当該従業員もいったん了承していたという解雇に至る経緯などを総合考慮すると、今回の解雇について社会通念上相当性を欠くものとはいえない、と判断しました。
否定例~中川工業事件・大阪地裁平成14年4月10日決定
主に製缶業を営む小規模な会社で製缶溶接組立工として勤務していた労働者に関する事例です。裁判所は、当該従業員の症状から製缶溶接組立を行うことは無理・非常に困難であるものの、職種限定雇用ではなかったこと、会社が、医師から入院加療が必要と診断されている従業員に対し休職を命じることがなく、また、使用者として配置可能な業務があるか否かを検討することなく、解雇したという経緯に鑑みれば、解雇は合理的な理由で行われたものでなく無効であると判断しました。
ユニオンショップ協定に基づく解雇
否定例~三井倉庫港運事件・最高裁平成6年9月8日判決
会社が、組合との間でいわゆるユニオン・ショップ協定(組合に加入せず、除名された海上コンテナトレーラーを解雇する旨)を締結していました。そしてAが、当該組合を離脱し別組合に加入したため、当該組合がユニオンショップ協定に基づき会社に対しAの解雇を要求し、会社は、Aを解雇しました。
裁判所は、解雇を無効としました。すなわち、ユニオン・ショップ協定のうち、当該組合以外の他の労働組合に加入している者、当該組合から脱退し・除名され他の組合に加入した等の者について会社の解雇義務を定める部分は、公序良俗に反し無効であると判断しました。
本稿は執筆途中です。加筆次第随時公開します。
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