合同労組・地域ユニオンからの団体交渉への対応
労働組合との交渉対応~合同労組(ユニオン)への対応を例に
本ページの内容
勤務態度の悪い従業員を解雇したところ、その従業員が地域の合同労組(地域ユニオン)に加入したとして、そのユニオンから、解雇撤回を求めて団体交渉(団交)の申入を受けた、という例があるかもしれません。
本稿では、そういったケースを例に、法律上・実務上留意すべき点、対応の方法について解説します。
合同労組(ユニオン)とは
合同労組(地域ユニオン)について、明確な定義はありません。主として中小企業労働者を組織対象とし、企業単位ではなく、一定地域を活動の場として組織された労働組合であると考えられています。
なお、現在の労組法は、労働組合の組織や結成について、特別な規制は行っていません。また、官庁による許可や届出などの特定の手続も必要ではなく、いわゆる自由設立主義を取っています。
そして、個人単位で加入でき、労働者が、解雇を受けた場合、労働条件を不利益に変更された場合等会社の処遇に対する不満から、そうした問題の解決を依頼して合同労組に加入するケースが多いと考えられます。
以下、最初に団体交渉に関する基本的な姿勢をご説明し、次いで団体交渉の申入から解決(又は交渉終了)までの流れと留意点をご説明します。
団体交渉に対する基本的な姿勢
最初に、団体交渉に関する基本的な姿勢をご説明します。
団体交渉に応じるべきか
法律上の観点から
会社には、団体交渉について誠実交渉義務が課せられています。つまり、合意達成の可能性を模索して誠実に交渉しなければならないという義務です。この点労組法7条2号は、正当な理由のない団体交渉の拒否を不当労働行為として禁止しています。
したがって、団体交渉については基本的には応じるべきということになります。
ただしこれは、労働組合の要求に応じる義務ではありません。あくまで、団体交渉にあたって誠実な交渉の義務が課せられているということです。
なお、誠実交渉義務の具体的内容は、個々の場面で解説します。
労働組合の立場・機能の観点から
労働組合の最大の活動内容は、基本的には、団体交渉を通じて労働組合員の労働条件や待遇を改善することを目指しています。
ですから、会社が団体交渉の申入にどうしても応じない場合は、労働組合は、依頼をした「組合員」に対するメンツが立ちませんから、組合の威信をかけて、また、組織をあげて総力戦で戦わざるをえない、という事態になることがあります。
例えば、これは裁判所や労働委員会へ申し立てるだけでなく、会社の取引先、取引銀行、監督官庁等に対して「要請」と称する働きかけを行ったりすることもあるかもしれません。その時点で会社が慌てて交渉に応じても、会社側に明らかに不利な譲歩を余儀なくされることになるわけです。
他方、団体交渉の申入を受けた初期段階で適切に対応すれば、労働組合が前記のような過激な行動に出ることはまずありません。
特にユニオンからの団体交渉の申入は、当該組合員と会社との紛争の解決を目的としています。ですので、表向きは団体交渉で社会正義を声高に主張したり、声を荒らげて会社を非難することはあっても、実際は腹の中では紛争をどのタイミングでどのように解決するかをいつも考えているのが通常です。
ですので、「紛争を解決したい」という大局的見地からは、会社とユニオンの目的は一致しているわけです。これを考えると、団体交渉に応じることは得策であると考えられます。
裁判所の心証の観点から
会社が団体交渉に応じない場合、当該紛争が裁判所に持ち込まれることがあります。この場合、団体交渉に応じなかったという事実は、団体交渉すら応じない不誠実な会社であるという印象につながり、裁判所に相当に悪い心証を与えます。
会社が、団体交渉に粘り強く応じ、可能な限り妥結の道を探ったにもかかわらず交渉がやむなく決裂したというケースと、最初から団体交渉のテーブルにすらつかなかったというケースでは、裁判所の心証は非常に異なるわけです。
団体交渉申入へ対応すべきか否かが問題となる場合
面談以外での交渉
団体交渉については、労働組合との実際の面談に応じる必要があります。労働組合がこれに同意している場合を除き、書面や電話でのやりとりでこれに代えることはかできません。
この点、使用者が負う団体交渉義務や誠実交渉義務には、労働組合の代表者と直接会見し誠実に協議する義務(会見・協議義務)を含むと解されているからです(清和電器産業事件・東京高判平成2年12月26日判決)。
それで、書面や電話での交渉には応じるから面談には応じないという対応は適切ではありません。
他方、ウェブ会議による団体交渉については微妙ではありますが、現状では、会社がウェブ会議に固執して直接面談を拒むことも不当労働行為と判断される可能性が否定できません。
合同労組・地域ユニオンは団体交渉権を有しないか
いわゆる合同労組・地域ユニオンは、企業の内部ではなく、企業外部において、主として中小企業の労働者を組織対象とし、一定の地域において組織された労働組合です。そのため、会社の中には、合同労組は企業外の組織であって「使用者が雇用する労働者の代表者」に当たらない、といった理由で合同労組との団体交渉を拒否するケースがあります。
しかし、労組法における「労働組合」とは、「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体」(労組法2条本文)とされていますので、 合同労組であってもそのような目的があれば、労働組合に該当すると考えるのが通常です。
よって合同労組・地域ユニオンであることが、団体交渉を拒否する「正当な理由」にはなることは通常はありません。
労働組合に対する組合規約や組合員名簿の開示要求が拒否される場合
会社から見ると、企業外の地域ユニオン等からの団体交渉の申入に対しては、相手方の素性が分からないという懸念から、当該組合に対して、組合規約や組合員名簿の開示を要求し、開示がない場合、団体交渉を拒否するというケースがあります。
しかし、労働組合にはそのような義務はなく、そのような開示要求に応じないとしても、会社が団体交渉を拒否する「正当な理由」にはならないと考えられています。
事件が裁判所に係属している場合
団体交渉のテーマとなっている事項について、別途裁判所で訴訟、労働審判等の手続が係属している場合があります。この場合、会社が、裁判になっている件だからという理由で、団体交渉を拒否できるでしょうか。
この点、通常は、別途裁判所で訴訟、労働審判等の手続が係属しているということは、団体交渉を拒否する「正当な理由」にはならないと考えられています。それで、裁判所と団体交渉という2つの解決の機会があると考えて取り組む必要があります。
組合からの脱退を説得しない
少なからぬ方が、「ここだけの話」として、労働組合から脱退すれば要求に応じるなどと言えば交渉はすぐにまとまるのではないかと考えるかもしれません。しかし、これは避けるべきです。
「ここだけの話」と言って話しても、労働組合には伝わると思ったほうがよいですし、そうなると、労働組合から「不当労働行為」であるとして、会社を攻撃し、かつ譲歩しない格好の材料・口実を与え、その後の交渉が困難に厄介になります。
解雇した従業員である場合
会社によっては、解雇した従業員がユニオンに加入したといっても、すでに自社の従業員ではない以上、団体交渉に応じる義務はないのではないかという疑問を持つかもしれません。
つまり、労働組合法7条2号の「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。」に該当するか否かが問題となるわけです。
この点は、基本的には、解雇の有効無効が争点になっている場合には、解雇した従業員が加入した労働組合からの団体交渉には応じる義務があると考えておいたほうが無難であると考えます。労働委員会の実務上も、この点はかなり寛容な取り扱いがなされていますし、判例でも、そのようなケースで団体交渉に応じなかった会社の行為を不当労働行為と判断したものがあるからです。
業務委託先である個人の場合
会社が、個人との間で、雇用契約という形態ではなく、業務委託契約・業務請負契約等という形態で契約することがあります。そして、こうした業務受託者個人が労働組合に加入し、組内が会社に対して団体交渉を申し入れてくる場合があります。
この場合、会社は、当該個人は自己が雇用する労働者ではないからという理由で団体交渉を拒否することができるでしょうか。
この場合、会社が労組法にいう「使用者」といえるか否かについては、契約の名称等の形式から判断されるのではなく、個別具体的な事情を踏まえて実施的観点から、「雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配決定することができる地位にある」場合には、会社は労働組合法上の使用者として団体交渉に応じる義務を負うことになると考えられています(最高裁平成7年2月28日判決(朝日放送事件))。
また、最高裁平成23年4月12日判決(新国立劇場事件・INAXメンテナンス事件)は、以下のような要素を考慮するとしています。
- 当該個人が相手方の業務遂行に不可欠な労働力として組織の中に組み込まれているか
- 契約内容や業務執行方法を相手方が一方的・定型的に決定しているか
- 報酬の計算・決定において労務の供給に対する対価性が認められるか
- 仕事の依頼に対して基本的に応ずべき関係にあるか
- 業務遂行に対する指揮監督の関係があるか、日時や場所についての拘束があるか
それで、当該個人が業務委託先であるからというだけで団体交渉に応じなくてよいと即断することはできず、弁護士等の専門家と相談しつつ、こうした要素を踏まえて実質的観点からの慎重な検討が必要です。
団体交渉の申入を受けたとき
はじめに
合同労組(地域ユニオン)から団体交渉の申入書を受け取る企業のなかには戸惑いを覚える方も少なくないようです。
確かに、合同労組(地域ユニオン)は、企業外で組織されている点や個別的労使紛争を主に取扱う点で従来の企業別組合とは異なるため、そもそもどんな団体かも分からず、対応しなくてもよいのではないか、と考えてしまう経営者の心情も理解できます。
しかし、この段階で対応を誤ると後々大きな問題になることから、十分注意が必要です。
団体交渉の申入書を受け取るべきか
経営者の中には、「団体交渉申入書を受け取ってしまうと団体交渉に応じないといけなくなる」とか、「団体交渉をするつもりはない」といった理由で、団体交渉申入書の受取自体を拒否してしまう方もおられます。
しかし、労働組合には団体交渉権が憲法上保障されており、団体交渉権を具体的に保障するものとして、労組法7条2号は、正当な理由のない団体交渉の拒否を不当労働行為として禁止しています。
よって、団体交渉の申入書の受取拒否は、正当な理由のない団体交渉の拒否として、「不当労働行為」を構成することになってしまいますし、受取拒否をしても解決にはならないことから、適切とはいえません。
なお、団体交渉申入書を受け取ったときの初動対応の詳細については「団体交渉申入の文書を受け取った際の初期対応」の欄でご説明します。
団体交渉申入の文書を受け取った際の初期対応
団体交渉の議題の確認
団体交渉申入書には、「組合員●●●●氏の解雇撤回について」、「組合員××××氏の配置転換の撤回について」等、交渉の議題が記載されています。また、ケースによっては、「要求事項」「回答要求事項」として、要求内容や質問内容が具体的に記載されていることもあります。
それで、団体交渉に先立ち、事実や証拠を確認して何を準備すべきかを検討することになります。
他方、ごく稀に、労働組合が何を求めているのか団体交渉申入書から判明しない場合があります。この場合、議題が明確ではないままで団体交渉に臨んでも空転するだけですので、まずは団体交渉の議題や要求事項を問い合わせることが有益です。またこれは、電話などの口頭ではなく、紛争防止のため、書面で行うことが重要といえます。
労働組合についての情報収集
団体交渉を申入れをしてきた労働組合が、合同労組のような社外の労働組合の場合、組織内容、活動状況等をウェブサイト等でチェックします。どのような思想を持ち、どのような活動をしているかを把握しておきます。
団体交渉申入書に対する回答
団体交渉の日時・時間・場所等についての回答の原則
団体交渉の日時、場所、出席者などを検討し、申入書に対して、会社として団体交渉を実施する日時と場所を回答します。この点、日時や場所について、組合からの要求に必ずしも応じる必要はありません。以下の要素を考慮し、検討して交渉すべきです。
また回答は、以下の例のように、書面等の証拠に残る形で行うことが望ましいといえます。
回答書の例
回答書 令和×年×月×日
●●ユニオン 株式会社●●●● 前略 貴組合から拝受した●●●●年●●月●●日付団体交渉申入書について、以下のとおり、回答いたします。なお弊社は、貴組合の申入れにかかる団体交渉に誠実に応じる所存です。以下のご提案は、団体交渉を円滑に行うためのものであり、貴組合の団体交渉権等の権利を不当に侵害する趣旨のものではないことを申し添えます。 草々 1 団体交渉の日時・時間 下記の日時で団体交渉を行いたいと考えておりますので、ご検討のうえ、担当者(総務部長●●●●)宛にご連絡ください。 記 ただし、時間については、交渉状況に応じて多少の延長の可能性を否定するものではありません。 2 団体交渉の場所 東京都●●区●●●●●●●●付近の会議室(借用予定のため、日時確定後詳細をご連絡します) 3 出席者 双方、3名以内 |
日程調整は可能
団体交渉の日時については、労働組合の指定した日時で団体交渉を行う義務はありません。団体交渉の申入書において指定された日程が、会社にとって都合が悪い場合、都合のつく日程を複数提案します。
またこの点で、突然送付されてくる団体交渉に対しては、事実関係を調査したり、弁護士に相談・依頼するなどの事前準備を行う必要もありますから、この準備期間を考慮して日程を検討する必要があります。
ただし、希望する日時が先すぎると、団体交渉拒否である等との主張を受ける可能性がありますので、無闇な先延ばしはすべきではありません。何らかの事情がない限り基本的には1か月以内が妥当かと思われます。
団体交渉の時間
団体交渉の時間については、最長で2時間程度を目処に、適切な時間を設定します。団体交渉は、一つ一つの発言に細心の注意が必要となりますので、精神的にも相当に疲弊します。ですから、極端な長時間の交渉は避けるほうがよいと考えます。
もっとも、労働組合の中には、「時間を区切るとは不当だ」といった主張をするところもあるかもしれません。それで「交渉の状況によっては、多少の延長はあり得る」といった内容を回答に追記することもできます。
団体交渉の場所
自社の社内・労働組合の事務所は避ける
多くの場合、労働組合は、会社内や会議室等社内での団体交渉を求めてきますが、これに従わなければならない理由はありません。むしろ、団体交渉の場所については、労働組合の事務所はもちろんのと、自社の社内も避けるほうか望ましいといえます。
それは、これらの場所で団体交渉を行うと、交渉の時間が延び、エンドレスな交渉となってしまう可能性があるからです。さらには、いわば組合の「ホームグラウンド」での交渉ということになり、この点、労働組合側のペースに巻き込まれるおそれもなしとはしません。
社外施設が望ましい
以上を考えると、労働組合との交渉は、基本的に会社施設外で行うことが望ましいといえます。この場合、商工会議所等の会議室を、交渉時間として設定した時間単位で借りるなら、施設の使用時間が終了すればその日の交渉を終了させることができ、交渉の長時間化を避けることができます。
団体交渉の人数
団体交渉の出席者の人数を制限するよう求めることも検討できます。組合側の人数が多くなればなるほど、ヤジや怒号が飛び交ったり発言者が多く混乱する可能性も高くなり、正常な交渉はできなくなるりスクが高くなるからです。
団体交渉に向けた準備
事実関係の調査・弁護士への相談
団体交渉の申入書には、団体交渉の議題(団交事項)が記載されています。それで、それに基づき、可能な範囲で事実関係の調査と資料の収集を行います。
また、多くの場合、弁護士に依頼するかどうかは別として、弁護士へ早急に相談することが望ましいといえます。法的に見て会社の立場に正当性があるのか、手持ちの証拠でどの程度戦えるのか、団体交渉に応じるのは得策か否か、団体交渉が決裂した場合の事件の展開の仕方等、様々な点について専門家の助言は有用であると考えられます。
団体交渉の出席者の検討
代表者・社長出席の要否
労働組合が、団体交渉に代表者(社長など)の出席を求めてくることがあります。しかし、代表者が団体交渉に出席しなければならない法的義務はありません。
団体交渉へは、会社の労働条件等について決定できる交渉権限を有する人であれば足ります。
交渉権限のある人の出席は必要
ただし注意すべきは、何の交渉権限のない担当者だけが出席するということは許されない、という点です。つまり、団体交渉の内容について、ただ話を聞くだけで、何を聞かれても「社長に聞かないと分からないので伝えておく」という発言しかできない人だけが出席する、という状況になると、誠実交渉義務に反することになってしまいます。
ただし、交渉権限のある人が出席したとしても、どんな質問や要求に対しても即答しなければならないわけではありません。「今聞いたことなので、社内に持ち帰って検討する」と言うことは、問題ありません。
団体交渉の録音の準備
団体交渉での発言について、「言った、言わない」という不毛な水掛け論が生じないよう、団体交渉のやりとりを録音することは有益です。また、労働組合も録音することが多いでしょうし、会社側も録音をするにあたっては労働組合の了承を得る必要はありません。
もっても、後になって労働組合から「秘密録音で違法である」とうと非難されないために(実際は違法ではないのですが)、団体交渉申入書に対する回答書に「録音は各自の判断と責任で行う」等と記載しておくと余計な紛争を防ぐために有益かもしれません。
専門家の同席
弁護士の同席
ケースによっては、弁護士や社労士といった専門家に団体交渉に同席をお願いすることも検討できます。
特に中小企業の社長や役員は労働基準法やその他の労働法規を知らない人も多く、ある意味で労働法の専門家ともいえる労働組合に言い負かされてしまうこともあります。また、社長や役員が発した感情的な発言が不当労働行為となってしまうリスクもあります。
そのため、労働法に通じた専門家が適宜フォローしたり助言を与えることで、余計な係争を未然に防止したりすることができます。
団体交渉当日の進め方
まずは具体的な要求内容を聞く
多くの場合、会社としては、団体交渉のテーブルの席で、まずは労働組合の要求内容をじっくり説明してもらう、という対応となると考えられます。無闇に対立的・敵対的な姿勢を持つことはあまり意味がありません。
また、1回の団体交渉で結論が出たり決着することも稀です。比較的スムーズに交渉が進む場合でも、3~4回の交渉を経て、トータルで3~4か月の期間で解決ということも珍しくありません。
十分に説明する・譲歩すべきところは譲歩する
会社側として、最初から一切の譲歩の意思がないと評価されるような紋切り型の対応は誠実交渉義務に違反するとされる恐れがあり、望ましくありません。譲歩できない理由を一切明らかにせず、「そんな話は受けられない」といった、頭ごなしに労働組合側からの提案を拒絶したような対応はすべきではありません。
会社としては、労働組合に対しては、交渉相手として、十分に会社の立場を説明する必要があります。相手方の要求を聞く義務はありませんが、相手方の主張には耳を傾け、かつ自社の側も十分に説明するという、誰に対しても当てはまる交渉の原則を実践すればよいわけです。
また、解決のために、自社の都合や立場ばかりに固執せず、譲歩すべきところは譲歩するということも重要なことです。
団体交渉での発言者・書記役
団体交渉での会社側での発言者は、基本的には1名に決めておき、細かい事実関係の補足説明に関して最小限の範囲で、かつ発言者のコントロールのもとで、他の会社側の担当者が発言をする、ということが望ましいと考えます。
この点何の統制もなく、会社側の各人が自由に発言すると、発言の間に食い違いが出て労働組合から追求を受けることになったり、また、感情的・不適切な発言が出てしまったりすることがあるからです。
また、これに関連し、団体交渉の出席者の中で、筆記役を明確にし、できる限り詳細に話合いの内容をメモするよう取り決めることも有益といえます。
労働組合への資料提供
労働組合が、会社に対して資料の提供を求めてくる場合があります。しかし要求どおり全ての資料を提出する義務はありません。
例えば、営業上の機密に該当する事項などを提供する必要はありません。また、明らかに団体交渉の議題とは関係のない資料も提供の必要はありません。他方、会社が労働組合に説明する上で必要な資料は、誠実交渉義務の観点からも提供する必要があると考えられます。
労働組合からの強圧的な発言があった場合
団体交渉の場で、労働組合側の団体交渉出席者から、強圧的な発言や怒りを表明するような発言があることがあります。また、会社側の立場を正当に主張しているだけであるのに、「不当労働行為だ」「労働委員会に申立をする」などと発言することもあります。
しかしここでそのような発言にひるんで要求をそのまま呑むような対応は、相手の「思うツボ」となってしまいます。基本的にそのような発言は、労働組合が交渉を少しでも有利にするために意図されたものですから、冷静かつ毅然として対応すれば足り、そのような発言があったからというだけで、会社側の正当な説明や立場を変える必要はありません。
解決の糸口が見つかるまで粘り強く交渉する
団体交渉で「即時決着」「早期解決」を急いでもうまくいかないことが多いといえます。むしろ粘り強く交渉を続けることで、解決の糸口が見えてくることが少なくありません。
例えば、ある従業員の解雇問題について会社の立場を粘り強く説明し、団体交渉を重ねていくうちに、ユニオン側から、「解雇の無効」の主張を変えて、一定額の金銭を支払うことを条件に合意退職をする案の提示を受けるということがあります。
この場合、最初は会社側が到底受け入れられないような金額の提示がされることが少なくありませんが、その後さらに粘り強く交渉することで、多くの場合落ち着くべきところに落ち着くようになります。
労働組合から交渉の議事録へにサインを求められた場合
労働組合側から、交渉の場で作成した議事録にサインを求められることがあるかもしれません。この場合、控えた方が無難といえます。会社側の出席者がサインをすると、その内容が労働協約(これは後述のとおり、これに反する労働契約を無効にする等の強力な法的効果が生じるものです(労働組合法16条[カーソルを載せて条文表示]))の締結と評価されてしまう可能性があるからです。
会社側からの団体交渉を打切の是非
組合側が、むやみに交渉を長期化させようとしているのではないかというケースもあります。その場合、会社としてはどのように対応すべきでしょうか。
会社としてもしんどいところではありますが、基本的には、会社側からは団体交渉を打ち切らない、ということが望ましいと考えます。それは、労働組合法によって会社が団体交渉応諾義務を負っており、会社側からの団体交渉の打切宣言が団体交渉拒否と判断されてしまうリスクを発生させてしまうからです。もちろん、会社がどこまでも交渉に応じなければならないわけではありませんが、「何回まで交渉した後なら交渉打切を宣言しても団体交渉応諾義務に反しないと判断できるか」については誰も正確なところは分からないのです。
また、本稿で想定しているような合同労組(ユニオン)のケースでは、労働組合側としても紛争を解決したいという意図がありますので、長期化がひとつの妥協の誘因となることがあります。他方、団体交渉を打ち切ったとしても、紛争そのものは解決せず、労働委員会や裁判所といった、長期係争の場が移るにすぎないことも多いことを考えると、会社側からの団体交渉の打ち切りは、得策とはいえないと考えます。
団体交渉の終結
労働組合との団体交渉の終結の原因は、大きく分ければ、合意成立と決裂の2つです。以下、それぞれの場合について説明します。
合意に至った場合
労働協約とは
まず、労働協約の意味を理解する必要があります。労働協約とは、団体交渉の結果、労働組合側と使用者側が合意に至った内容を書面化したものです(労働組合法14条)。そしてこの労働協約は、労働契約の内容を補完するにとどまらず、労働協約に反する労働契約を無効にするという強力な効力が認められています(労働組合法16条)。
さらに、ある事業場に常時使用される同種の労働者の4分の3以上の数の労働者が同一の労働協約の適用を受けるようになった場合には、その組合に属していない同種の労働者にも、当該労働協約が適用されるものとされています(労働組合法17条)。つまり、当該事業所において、その労働協約が一般的な拘束力を持つ場合もあるわけです。
従業員個人と会社間紛争の場合の合意の書面の意味
もっとも、本稿が念頭に置いているような、解雇を受けた従業員の解雇問題についての合同労組(ユニオン)との団体交渉において合意される事項は、当該(元)従業員と会社との個別の権利義務関係ですから、形式を労働協約を評価するか否かは別として、前記労働組合法16条の規範的効力の問題は発生しないと解されています。
しかしながら、従業員個人と会社間の紛争に関する合意の書面が、後々労働協約であると主張されないようにするためにも、文言には細心の注意を払うべきです。
紛争再発の防止の観点から必要な条項を付加する
合意した書面が、後々の紛争の種とならないように留意する必要もあります。例えば、解雇を受けた従業員の解雇問題であれば、守秘義務条項や、清算条項(この合意をもって会社と当該元従業員との一切の法律関係を清算する旨の規定)を付加することは当然検討すべき点です。
決裂した場合
労働者側からの法的手続を待つ
団体交渉が決裂した場合、通常は、労働者側から労働審判、訴訟、仮処分の申立といった法的な手続が開始されることになると考えられます。この場合、労働者側からのアクションを待つことになります。
労働委員会のあっ旋の制度
場合によっては、会社側から、労働委員会や労働局のあっせんを申請することも検討できるかもしれません。
例えば、団体交渉の結果、双方が相当程度に譲歩したものの、最後の点で何らかの理由で合意に至らなかったという場合、これらのあっせん機関からあっせん案が示されることで、解決に至る可能性が考えられるからです。
法律相談等のご案内
弊所へのご相談・弊所の事務所情報等については以下をご覧ください。
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弊所では、メールマガジン「ビジネスに直結する判例・法律・知的財産情報」を発行し、比較的最近の判例を通じ、ビジネスに直結する法律知識と実務上の指針を提供しております。 学術的で難解な判例の評論は極力避け、分かりやすさと実践性に主眼を置いています。経営者、企業の法務担当者、知財担当者、管理部署の社員が知っておくべき知的財産とビジネスに必要な法律知識を少しずつ吸収することができます。 主な分野として、知的財産(特許、商標、著作権、不正競争防止法等)、会社法、労働法、企業取引、金融法等を取り上げます。メルマガの購読は無料です。ぜひ、以下のフォームからご登録ください。
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