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労働審判(会社側の視点から)の解説~労働紛争解決の方法

労働紛争解決手段と労働審判

 会社と労働者の間で生じた労働紛争を解決する方法としては、(1)直接の交渉・話合いによる場合、(2)労働組合を通じた団体交渉による場合、(3)労働局のあっせんによる場合、(4)民事訴訟による場合、(5)労働審判によって解決する場合があります。

 本稿では、労働紛争解決の有力な一方法である労働審判についてご説明します。

 なお弊所は、労働審判については、基本的には会社側の代理人として対応しており、多くの経験があります。なお労働者側からのご依頼については対応しておりません。

労働審判の特徴と概要

労働審判の特徴~短期解決

 労働審判は、裁判所における労働紛争を解決する手段という点では、民事訴訟と類似しています。しかし、民事訴訟と労働審判との大きな違いは、解決に至る期間・時間です。

 民事訴訟の場合、解決までに、短くても1年前後を要し、数年間を要することも少なくありません。他方、労働審判制度は、多くの場合、第1回の審判から平均約3か月程度で解決に至っています。そのように短期解決が図れる理由は、労働審判において、原則として、開かれる審理は3回までだからです。つまり、3回の審理で何らかの結論を出すことになっているわけです。

 このように、労働審判は、通常の民事訴訟に比べ大幅に解決までの時間が短縮されるのが大きな特徴です。

労働審判の管轄裁判所

 労働審判を申し立てることのできる裁判所は法律で決められています。

 具体的には、相手方の住所、居所、営業所、事務所の所在地、労働者が現在働いているまたは最後に働いていた事業主の事業所の所在地を管轄する地方裁判所となります。また、当事者が書面で合意した地方裁判所に申し立てることもできます(労働審判法2条)。

労働審判の対象

 労働審判制度は、すべての労働問題を扱うわけではなく、個別労働紛争(企業と個々の労働者間の労働紛争)を対象とします。それで、いわゆる集団的労使紛争は扱いません。

労働審判を運営する労働審判委員会

 労働審判の審理は、通常の裁判とは異なり、「審判委員会」という組織でなされます。これは、地方裁判所の裁判官(労働審判官)1名と、労働関係に関する専門的な知識を有する民間人から任命された労働審判員2人で構成されます。

 なお、2名の民間人である労働審判員のうち1名は、労働組合等が推薦する人、もう1名は使用者団体等が推薦する人となっています。

労働審判制度の流れと詳細

 労働審判の手続の詳細につき、より詳しくご説明します。

手続の流れの全体像


(出典:最高裁判所「労働審判手続」より)

申立の方法・留意点

 労働審判の申立をするのは大抵労働者側です。労働審判の申立を行う場合、書面で行う必要がります(労働審判法5条2項)。通常その書面を「申立書」といいます。

 申立書には、申立の趣旨(結論として何を求めるのか)、その理由(申立の趣旨を裏づける理由)、予想される争点、予想される争点に関連する重要な事実、予想される争点ごとの証拠、交渉その他の申立てに至る経緯の概要等を記載します(労働審判規則9条1項)。

 また、予想される争点について証拠書類がある場合にはその写しを申立書に添付します(労働審判規則9条3項)。

審判期日の指定と呼出

 前記のとおり労働審判が申し立てられ、その申立が適法であり、かつ労働審判委員会が事案の性質に照らし労働審判手続を行うことが適当ではない場合を除き、労働審判官が、申立の日から原則として40日以内の日を、第1回の審理の日として指定します(労働審判法14条、規則13条)。

そして、労働審判官が、会社に対し、前記第1回目の審理の日を通知して呼び出します。また、相手方に対する呼出状には、所定の期限までに答弁書を提出する旨を記載します(規則15条2項)。

答弁書の提出

 労働審判の申立を受けた相手方(会社側)は、原則として所定の期限までに、答弁書を提出する必要があります。

 そしてその答弁書には、申立の趣旨に対する答弁(申立の趣旨に対して審判委員会にどのような判断をしてほしいか)、申立書に記載された事実に対する認否(認めるか、争うか、不知か)、答弁を理由づける具体的な事実、予想される争点及び当該争点に関連する重要な事実、予想される争点ごとの証拠、交渉・その他申立てにいたる経緯の概要等を記載します。

労働審判の審理(第1回)

 第1回の審判は、裁判官1名と労働審判員2名で進められます。また、審判においては、代理人弁護士のみならず、従業員本人ほか、会社側としては、社長等の決裁権者や事情をよく知っている役員若しくは従業員が出席することが求められます。

 第1回の審判では、裁判官や労働審判員が、申立をした労働者本人や、会社側の関係者に直接質問をし、詳細な事実関係を把握しつつ、代理人弁護士とともに争点を整理するなどして実質的な審理を進めていきます。

労働審判の審理(第2回、第3回)

 多くのケースでは、第2回又は第3回の審判で(早い場合は第1回で)、審判委員会が、調停案(合意案)を提示するか、又は、双方当事者から意向を聞いて調停(合意)の成立に向けた調整を試みます。

調停成立又は審判

 
 当事者双方が審判委員会が示す調停案を受け入れるか、審判委員会の調整によって合意に至れば、「調停成立」となり事件が終了します。

 
 他方、合意に至らないときは、「労働審判」が下されます。そして、下された「労働審判」に対して、2週間以内に、従業員側及び会社側の両者から異議申し立てがなければ、労働審判が確定します。そしてその労働審判は、裁判所の判決と同様の効力を有することとなります。

異議申立

 他方、どちらかの当事者が下された労働審判に異議申立てをしたときは、自動的に訴訟手続に移行します。

労働審判の実務上の留意点

第1回の審判までの事前準備の重要性

 労働審判は、すでに申し上げたとおり、3回以内の審理において、集中的に争点を整理し、さらに争点に沿って証拠調べをし、多くの場合調停(話合いによる解決)を試み、さらに審判を行います。

 特に、答弁書の提出期限(第1回の審判の日の1週間前とされることが多い)までに、会社側は、全ての争点について内容のある反論と主張を記載した答弁書を提出し、証拠を提出する必要があります。

 なぜなら、労働審判委員会は、申立書と答弁書及び証拠に基づき、第1回の審判で当事者や関係者からヒアリングをして争点を整理し、第1回の審判において解決のおよその方向性を決めることが多いからです。

したがって、会社側としては、答弁書の提出期限までの事前準備が重要であり、集中的に大量の準備をする必要が生じることも少なくありません。

 それで、会社が弁護士に委任せずに労働審判に対応することは通常は無理ですので、裁判所から呼出状が来たら、1日も早く弁護士に依頼することは重要であるといえます。

 そして、労働事件は専門性が高い分野であるため、労働事件に経験の多い弁護士であることが望ましいといえます。また労働事件では、弁護士は、もっぱら会社側の弁護をするか、労働者側の弁護をするかのどちらかに二分されることが多いため、会社側の代理人の経験が多い弁護士を選ぶことが望ましいと思います。

迅速な社内コミュニケーション体制

 労働審判の呼出状を受けてから答弁書提出期限までの期間は非常に短く、とにかく時間がありません。

 それで、依頼する弁護士から提供を求められる証拠資料については一両日中には提供することが必要ですし、弁護士から答弁書の案が提示されるタイミングも、答弁書提出期限の2~3日前になるなど、会社側の確認の時間がタイトになることも少なくありません。

 以上のため、会社としては、証拠資料の収集や社内での承認が迅速になされるよう、コミュニケーション体制を整えておく必要があります。

会社関係者の出席確保の必要性

 迅速に進める必要がある労働審判の性質上、前述のとおり、第1回の審判で、細かい事実関係についての突っ込んだヒアリングがなされたり、場合により第1回の審判から調停について議論されることもあるため、会社側は、事実関係に通じた役員や従業員のほか、重要な事項について決定権を有する幹部役員の出席が必要となります。

 それで、裁判所から労働審判の呼出状が来たら(ここに第1回の審判の日時が記載されています)、1日も早く出席が必要な決定権者や関係者の予定の確保をしておくことは重要です。決裁権者の出席がどうしてもできない場合、当日電話連絡ができるような調整をしておくこともできます。

 なお、第1回の審判に要する時間は通常は2時間程度といわれていますが、午後から開始する場合午後いっぱいかかることもあります。

合意解決に関する姿勢

 裁判所の資料(出典)によれば、労働審判においては、7割が調停成立によって解決しています。弊所弁護士の感覚としてもこれに近いものがあります。

 労働審判委員会から調停の勧告があったとき、これまでの経緯から生じる感情やメンツ、その他会社側に思うところがあることが少なくありませんが、労働審判委員会の心証が明らかに不当とまではいえない場合、基本的には、調停(合意)解決のメリットは大きいというのが法律実務家の共通の感覚です。



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