普通解雇~能力不足・成績不良による解雇の可否
普通解雇に関する一般的な考え方
雇用した社員が明らかに能力が不足しているとか、成績があまりに悪いという理由で解雇を考えたいというケースは珍しくありません。本ページでは、そのような理由による解雇が、どんな場合に認められるのかを考えたいと思います。
解雇は、会社側からの一方的な労働契約の終了であり、労働者の生活に大きな打撃を与えるため、法律で大きく制限されています。まずは、普通解雇が認められる場合の基本的な考え方をご説明します。
なお、普通解雇に関する一般的な解説は、「労働契約の終了~普通解雇(概説)」をご参照ください。
解雇が客観的に合理的な理由に基づくこと
いかなる事由があるときに普通解雇するのかは、就業規則などで決めることができます。ただし、就業規則に書いてあれば些細な理由でも解雇できるわけではなく、その理由が「客観的に合理的な理由」でないと、解雇権濫用として解雇が無効となることがありえます。
例えば、労働能力の問題や勤務態度の不良であれば、能力不足や不良の程度がどの程度かという評価に加え、その原因、評価の適正さ、会社として改善のための注意・指導を尽くしたか、などを考慮する必要があります。
健康状態の悪化についても、業務内容等との比較で、正常な勤務に堪えられるかどうかの観点から、客観的に合理的な理由でなければなりません。
一般的な新卒採用者の場合
基本的な考え方
一般的な新卒正社員の場合、新卒者であるゆえ、特段の能力や経験を備えていることは要件とされず、実地の教育訓練によって具体的な職務のスキルを身につけてもらうことを前提としたポテンシャルを備えていることを期待して採用こることが一般的であると考えられます。
新卒正社員の場合、職種、職務範囲、勤務場所に限定がなく、会社の配転命令によって変更されることが前提となっていることが多いといえます。そのため、新卒正社員については、能力不足や不良の程度や会社として改善のための注意・指導を尽くしたかについて、裁判所は厳しく判断する傾向にあります。
裁判例(否定例)~セガ・エンタープライゼス事件
東京地裁平成11年10月15日決定
労働者Aについては、業務遂行上問題を起こし上司に注意を受けたり、顧客から会社に対する苦情がしばしばあったりしたため、勤務成績査定も低い(3回連続して下位10パーセント未満の考課順位)ものでした。その後、会社はAに対し、退職勧告を行ったが応じなかったため、「労働能率が劣り、向上の見込みがない」という就業規則上の普通解雇事由に基づき、Aを解雇しました。
これに対し、裁判所は、解雇の無効を認めました。その理由として、裁判所は、Aが会社の従業員として平均的な水準に達していなかったからといって直ちに解雇が有効となるわけではなく、著しく労働能力が劣り、かつ向上の見込みがないときでなければならない、と述べました。そして、会社が、Aに対し更に体系的な教育、指導を実施することでその労働能力を向上する余地もあったといえる上、Aの雇用関係を維持するための努力をしたものと評価することもできない、と判断しました。
裁判例(否定例)~エース損害保険事件
東京地裁平成13年8月10日決定
裁判所は、長期雇用システム下で定年まで勤務を続けていくことを前提として長期にわたり勤続してきた正規従業員を勤務成績・勤務態度の不良を理由として解雇する場合は、労働者に不利益が大きいこと、それまで長期間勤務を継続してきたという実績に照らして、それが単なる成績不良ではなく、企業経営や運営に現に支障・損害を生じ又は重大な損害を生じるおそれがあり企業から排除しなければならない程度に至っていることを要する、さらに、その他、是正のため注意し反省を促したにもかかわらず、改善されないなど今後の改善の見込みもないこと、使用者の不当な人事により労働者の反発を招いたなどの労働者に宥恕すべき事情がないこと、配転や降格ができない企業事情があることなども考慮すべきと判断しました。
中途採用者の場合
一定の能力経験を前提とした採用の場合
一般的な新卒正社員と異なり、一定の能力・経験を有することを前提に採用された場合は、能力不足や不良の程度や会社として改善のための注意・指導を尽くしたかについて、新卒正社員に比べると相対的に厳格さが緩和され、期待されていた能力・経験を満たしていない場合には、配転等の可能性を検討する必要がないとされるケースもあります。
もっとも、高度の専門性を有するとまではいえない能力・経験を前提としている場合には、当該能力がないと判断されたから当然に解雇が有効となるとはいえず、配転を検討する必要があると判断されたケースもあります。
裁判例(肯定例)~ヒロセ電機事件
東京地裁平成14年10月22日判決
会社は、労働者Aを、業務上必要な日英の語学力、品質管理能力を備えた即戦力となる人材であると判断して品質管理部海外顧客担当で主事1級という待遇で採用し、Aもそのことを理解して中途採用として雇用されました。しかし、Aが業務命令に従わず、同僚への誹膀・中傷、職場規律違反を繰り返したこと、業務の進め方や知識・技能・能率を学ぶ姿勢がないこと、業務上必要な英語力にも問題があることから、会社は、「業務遂行に誠意がなく知識・技能・能率が著しく劣り将来の見込みがないと認められたとき」という就業規則の規定に基づき、Aを解雇しました。
裁判所は、このケースについて、長期雇用を前提とし新卒採用する場合と異なり、会社が最初から教育を施して必要な能力を身につけさせたり、適正がない場合に全く異なる部署に配転を検討すべき場合ではなく、労働者が雇用時に予定された能力を全く有さず、かつ改善しようともしないような場合は解雇せざるを得ない、と判断しました。
その上で裁判所は、詳細に事実を認定し、Aについて期待されていた職務能力の欠如が著しかったこと、上司の指導等を受け止めない姿勢が著しかった点を認め、解雇を有効としました。
裁判例(否定例)~東京エムケイ事件
東京地裁平成20年9月30日判決
「業務内容 タクシー運転者」という職種限定の労働契約に基づき雇用されたタクシー運転手が交通事故による視力低下のために二種免許を喪失したほか、パソコンの画面を5分以上続けて見ることもできなくなりました。会社は、以下の理由で解雇をしました。(1)二種免許を失効しタクシー運転手としての業務に耐えないこと、(2)同事由により会社から配置転換に応じるよう求めたが就労の意思が見られないこと。
裁判所は、会社にはタクシー運転手以外の様々な職種があること、現に会社が当該従業員に対して清掃職を担当させていること、二種免許は平均的な能力のある人間であれば取得できる資格であって高度の専門性のある資格とまではいうことができないこと、また労働契約についての当事者の合理的な意思としては、資格を失った場合に当然退職することまでは想定していない、という理由で解雇を無効としました。
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