事業用不動産に関する検討事項~M&A 法務デューデリジェンス
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本ページの内容
法務デュー・ディリジェンスにおいて実務上調査すべき項目と問題となりうる点は多岐に及びます。本ページでは、中小企業の株式譲渡を前提に、事業用不動産に関する調査についてのアウトラインを解説し、どんなリスクがあるか、そして売手・買手としてどんな対応が可能かを簡単に解説します。
本サイトで紹介する内容は、例示であって、すべての問題点を網羅するものではありません。
不動産の法務デュー・ディリジェンスの目的
対象企業は、事業を営む以上、事務所、店舗、工場、倉庫といった用途で不動産を使用することがほとんどです。したがって、対象企業が、その事業から継続的な収益を得るためには、対象企業が事業用の不動産を継続的に使用できる権限があるか、そして、M&A取引によってこの使用権限に影響が生じうるか否かは、買手にとっても重要な調査事項となります。
なおここでは、賃貸目的または転売目的で不動産を所有している不動産業者の場合のように、不動産そのものが収益の対象となる場合は念頭に置いていません。
不動産についての法務デュー・ディリジェンスにおいては、主に以下の観点から、調査がされます。
- 所有権、賃借権など、不動産の使用権原の有無・内容
- M&A取引による使用権原への影響の有無と内容
- 用益権、担保権等不動産に設定された制限
- 前記制限の、対象会社の事業継続・M&A取引への影響の確認
事業用の賃借不動産に関し生じうる問題点
賃貸人の賃貸権原
賃貸借契約の賃貸人(Aとします)と登記上の所有者(Bとします)が異なる場合、賃貸人A社には、この不動産を対象企業へ賃貸する権原がなければなりません。
この場合、買手側が、対象企業がその不動産を使用継続できなくなるリスクを検討するため、建物の所有者Bと賃貸人Aとの間の法律関係、契約書の有無と内容について調査するのは当然といえます。
また、仮に賃貸人Aと不動産所有者Bとの間に賃貸借関係(原賃貸借)があり、対象企業と賃貸人Aとの間の対象不動産の賃借(転貸借)を不動産所有者Bが承諾している場合でも、もし賃貸人Aが、Bに対する賃料不払等の理由でAB間の原賃貸借契約が解除されてしまうと、対象企業も、その不動産の使用権限を失います。
それで、買手としては、賃貸人Aの支払能力等原賃貸借契約の履行能力についても調査をする場合があります。
以上の議論は、建物の賃借において、建物の賃貸人が敷地を所有していない場合も同様に検討する必要があります。
賃貸借契約の長期継続の可能性
借地借家法の適用についての検討
対象企業の事業継続上重要な賃借不動産について、借地借家法の適用の有無は重要です。仮に借地借家法が適用されない場合であり、当該不動産が対象企業の事業基盤となる程度に重要であれば、その使用権原に不安定性さが、M&A取引の可否と条件に大きな影響を及ぼすことになるからです。
以下これに関連していくつか実務上問題となることが多いケースを取り上げます。
出店契約等の場合
デパートやショッピングモールの出店契約などは、借地借家法上の「建物」の賃貸借契約ではないとされ、借地借家法の適用が否定される余地があります。それで、この点については実態を踏まえて十分検討する必要があります。
土地賃貸借契約の場合
借地の場合、「建物の所有を目的とする地上権及び賃借権」の場合に、借地借家法の適用があります。しかし、案件によっては、ある土地の賃借が、「建物の所有を目的とする」ものなのか、判断が難しい場合もあります。例えば
例えばゴルフ練習場として使用する目的で土地の賃貸借が行われた場合に、当該借地上にゴルフ練習場の経営に必要な事務所を建てても、借地法(旧法)の適用はないとされた例(最判昭和42年12月5日民集21巻10号2545頁)があります。
また、自動車学校経営のための土地賃貸借契約が、自動車運転教習コースに加え、経営に不可欠な建物の所有を主たる目的として締結された場合には、借地法(旧法)の適用がある(最判昭和58年9月9日判時1092号59頁)とされた例があります。
このように、借地借家法の適用のある土地の賃貸借か否かは、対象企業の事業継続の安定性の判断に重大な影響を与えます。この判断は、賃貸借契約の解釈、土地使用の現況その他の判断資料からの難しい判断となる場合がありますので、売手としても、適切な判断のための十分な情報と資料を提供し、独自に検討する必要もあると考えられます。
定期賃貸借契約についての問題
当該賃貸借契約が、借地借家法の定期賃貸借契約に該当する場合があります。特に近年は、ショッピングセンターといった商業施設のほか、オフィスビルなどについても定期建物賃貸借契約が増えています。
この場合、契約期間満了時の更新ができません(もちろん賃貸人が応じれば賃貸借の継続は可能ですが。)。したがって、買手としては、ある契約が定期賃貸借契約なのか、そうだとして再契約の可能性がどの程度あるのか、再契約ができない場合の事業へのインパクトなどについて慎重に検討する必要があります。
担保権との優劣関係
法務デュー・ディリジェンスの結果、不動産の賃貸借に優先する担保権が存在することが判明した、という場合があります。そして、担保権の実行、例えば競売によって不動産の所有者が変わった場合、遅かれ早かれ、賃借人たる対象企業は、不動産の使用権限を失うというリスクがあります。
しかし、この点のリスクは、事案によってケース・バイ・ケースに判断すべき事項であり、買手が誤った前提でリスクを過大に評価することがないよう、売手としても、十分な情報の提供と説得的な説明を行うべき場合があると思われます。
例えば、賃貸借の目的が、通常の事務所賃貸用のオフィスビルであれば、建築資金の融資のために賃貸借に優先する抵当権が存在する場合のほうがむしろ一般的です。このような場合、仮に抵当権が実行されたとしてもそのリスクはオフィスビルを賃貸する上でのごく一般的なリスクとして特別考慮すべきではないことが多いと考えられます。
他方、賃貸借が、建物所有目的の土地の賃貸借である場合、底地上に設定された抵当権が実行され、対象企業はその借地上の建物を収去して土地を明け渡さなければならないというリスクが生じます。この場合、対象企業にとって大きな損害となるほか、その事業継続に与える影響は甚大なものとなる可能性があります。それで、土地所有者の支払能力、現在の被担保債権の弁済状況など、売手のほうでも可能な限りの情報を収集し適正なリスク評価のために開示することを検討できます。
賃貸借不動産の目的上の制限
多くの場合、賃借不動産には、契約上利用目的の制限の規定があります。
例えば、対象企業が賃借する建物を化学工場として使用しているところ、賃貸借契約上の用途制限は倉庫であったような場合、賃貸人から債務不履行を理由として解除を受ける危険があります。この場合、売手としては、買手に対し、M&A取引条件として、賃貸人の承諾を得るように求めていくことが多いと考えられます。
敷金・保証金に関する問題点
賃貸借において差し入れられた敷金・保証金等の金額、償却の有無、保全方法等を検討する必要がある場合があります。
また、そもそも賃貸人に差し入れている金銭が、法律上敷金としての性質を有するか、金銭消費貸借ではないかといった問題も検討されます(いわゆる建設協力金としての形式で実質的には金銭消費貸借と解釈される場合があります。)。
仮にその差し入れた金銭が、敷金としての性質を持っていれば、賃貸物件の所有権が競売によって新所有者に移転した後も新所有者に敷金が承継されますが、金銭消費貸借であれば承継されません。それで、上の区別は重要な意味を持つわけです。
賃料改定に関する条項
賃料関連として検討するものは、賃料金額のほか、賃料改定条項の有無と内容が検討されます。
賃料改定条項としては、一定期間ごとに賃料改定の「交渉」「協議」をする義務にとどめている条項もあれば、ある計算式によって一定期間ごとに賃料が変更(多くは増額)されるという条項もあります。
これらの条項の内容によっては、買手にとっては、将来のコスト上昇の問題として対象企業の評価に反映させたいと考える場合があります。
中途解約に関連する条項
対象となる賃貸借契約において、中途解約を可能とする条項が含まれているかを確認する必要がある場合があります。
この条項がないと、対象企業が期間満了時まで賃料を払い続ける必要があり、事業の再編成などで障害となることがあるからです。また、賃貸借契約の中には、中途解約が認められる場合であっても、高額な違約金債務が発生する規定が含められている場合もあり、同様の問題を発生させる可能性があります。
この場合、買手としては、対象企業について、対象となる賃貸借契約にかかる営業所・店舗などの事業から撤退することがあった場合のコストを考慮せざるを得ない場合があります。
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