事業譲渡の解説~事業再編・M&A
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[3]企業再編の方法~事業譲渡
本稿では、会社・企業再編・M&Aの方法のうち、中小企業のM&Aにおいて比較的多く利用されている方法である事業譲渡について解説します。
事業譲渡とは
事業譲渡とは、会社が、自社の事業の全部又は一部を他者に譲渡することをいいます。
譲渡後も、譲渡元の企業は存続し、譲渡元の企業は、譲渡しなかった事業を継続することが一般的です。ただし、民事再生と組み合わせた事業再生の方法として、事業譲渡が利用されることもあります。
事業譲渡のメリット・デメリット
以下、事業譲渡の方法による方法にはどんなメリットとデメリットがあるのかを見ていきたいと思います。
売手側にとってのメリット・デメリット
まずは、売手側にとってどのようなメリット・デメリットがあるのかを解説します。
メリット:事業の一部の譲渡が可能
事業譲渡の場合、譲渡当事者間で、譲渡対象の事業の範囲、資産や負債の範囲を自由に決めることができます。それで、売手側は、自社に残したい事業を残し、事業の選択と集中を図ったり、不採算部門を譲渡することで財務状況を改善するということが可能となります。
メリット:現金を得ることができる
事業譲渡の方法は、事業を売却し、その対価として現金を得るというのが基本的な方法です。したがって、事業譲渡によって得た資金を新規事業のために投資するとか、負債を減少させ財務体質を強くするといった用途に使用することができます。
デメリット:契約等の移転作業に手間
事業譲渡によって、譲渡元の企業の資産を譲渡させることは難しくありません。しかし、取引先との契約や従業員との雇用契約が当然に引き継がれるわけではありません。むしろ、個々の相手方から契約の引継の同意を得るか、契約をし直す必要があります。
また、移転できる財産についても、不動産であれば移転登記、特許権であれば移転登録等、個別の権利の移転の手続が必要です。
デメリット:競業ができなくなる
会社法21条によって、売手側は、譲渡した事業につき、20年間、同一の市町村の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内で、譲渡をした事業と同一の事業を行うことができません。つまり、競業ができなくなります。
買手側にとってのメリット・デメリット
次に、買手側にとってどのようなメリット・デメリットがあるのかを解説します。
メリット:事業の一部の譲受が可能
売手側のメリットの際に述べたとおり、事業譲渡の場合、譲渡当事者間で、譲渡対象の事業の範囲、資産や負債の範囲を自由に決めることができます。
それで買手は、自社が望む範囲の事業のみについて譲渡を受け、不要な資産や負債については引き継がない、ということも可能となります。
メリット:簿外債務等負担のリスクの遮断
対象企業に簿外債務・偶発債務があり、デュー・ディリジェンスの段階で把握できないものがある場合、これらが顕在化するリスクがあります。
譲渡譲渡の場合、事業譲渡契約等によって個別の財産や負債、権利関係や契約関係を移転させることになりますので、把握していない簿外債務・偶発債務を引き継ぐリスクは、株式譲渡や合併のような包括的な承継と異なり、大幅に小さいといえます。
メリット:節税のメリット
買手が譲り受けた事業のうち、のれん相当額については償却が可能ですので、この場合、節税を図ることができます。
デメリット:許認可の承継等ができない
許認可の内容にもよりますが、株式譲渡とは異なり、事業譲渡の場合、対象企業が得ている事業遂行上必要な許認可は、事業譲渡後は承継できず、新たに許認可を取り直す必要がある場合が多いと考えられます。
許認可の承継の有無を調査せずに譲渡を譲受したものの許認可を取り直すことに時間を費やし、事業が止まってしまうといった事態が生じる可能性があります。
デメリット:現金の用意が必要
事業を譲り受ける場合、通常は、譲渡を受けるための資金を調達する必要があります。
デメリット:契約等の移転作業に手間
この点は売手側のデメリットと同様で、個々の相手方から契約の引継の同意を得るか、契約をし直す必要があります。
さらに、買手側のリスクとして、手間がかかるばかりか、契約の相手方や従業員の同意が得られるとは限りませんので、事業譲渡とともに、重要な取引先との取引を失うとか、事業遂行上重要なキーパーソンとなる従業員が退職してしまうというリスクが否定できません。
事業譲渡の手続
事業譲渡の手続・手順は、一般に以下のとおりです。期間としては、ケースによりまちまちですが、3か月~12か月といわれています。
なお、通常は、以下に述べる以前の段階として、買手探し(又は売手探し)とマッチングの作業が必要ですが、本稿では省略します。
経営者面談の実施
売手と買手双方が、譲渡する事業についての譲渡案件に興味を示し、先に進めることを検討したい意向を持つ場合、通常は経営陣(経営者)間で会合を持ち、双方が相手方に対する経営方針や基本的な条件について疑問点をぶつけ、かつ意見を交換します。
「意向表明書」の交付
前記の面談等の結果、相互にある程度疑問が解消され、また、大筋の条件が双方が想定する範囲に収まりそうな場合であって、買手がさらに話を進める意向を持つ場合、売手に、「意向表明書」と呼ばれる書面を交付します。
この中で、買手が考える買収方法、譲渡する事業の概要や範囲、承継する資産・負債や契約の概要、買収価額、その他の基本的条件を提案します。
「基本合意書」の締結
売手と買手が意向表明書に記載された内容その他の基本的な条件に合意した場合、この合意条件を明記した「基本合意書」を締結します(いわゆる「基本契約」の締結)。
また、基本契約の締結とともに、多くのケースでは、買手が当該売手と独占的に交渉することができる独占交渉権を得るとともに、独占交渉期間なども合意され、書面に明示されます。
デューデリジェンスの実施
基本合意が締結された後、買手側が依頼する専門家により、デューデリジェンス(買収調査)が行われます。一般的には公認会計士・会計事務所による財務面での調査、弁護士・法律事務所による法務調査(リーガル・デューディリジェンス)が実施されます。
会計事務所による調査は、当該譲渡事業に関する妥当な買収価格の算定(事業価値の把握)、今後の収益性、コスト等の分析、簿外債務等のリスクの洗い出しを中心に行われます。
弁護士・法律事務所による法務調査は、最適なスキームの検討、当該事業譲渡のために承継が必要な財産・権利義務・契約の洗い出し、登録の移転が必要な財産の検討、許認可の有無・承継の可否・手当の方法、当該事業に関する法令遵守の状況と瑕疵の有無・程度、当該事業に関し組織上・取引上無効とされる行為の有無、取引や契約に含まれるリスク、権利関係の有無と瑕疵の可能性、訴訟や紛争のリスク、知的財産の有無と有効性、その他簿外債務の可能性等、多岐にわたります。
買手は、これら専門家から、デュー・ディリジェンスの報告について書面で報告を受けることが一般です。その上で、買収価格、当該事業譲渡によるM&A取引実行の可否、条件等につき判断します。
条件の最終交渉と「最終譲渡契約書」の締結
デュー・ディリジェンスを経て買手が決定・提案する条件につき、売手と買手との間で詰めの交渉を行います。
詰めの交渉がまとまり、すべての条件が合意できると、最終的な条件や内容を取り決めた「事業譲渡契約書」を作成し、締結します。
クロージング・取引実行
「最終譲渡契約書」の締結後、双方で決済日までに所定の準備を行います。
売手側は、当該譲渡対象の事業の会社内での位置づけによって、取締役会又は株主総会の決議を得ます。また、引き継ぐ資産によって、それぞれ引き継ぎのための準備をします。具体的な引き継ぎや移転の手続の概要は次項で解説します。
また、売手側が、買手側の要請で、事業譲渡後にも継続が必要な重要な契約(賃貸借契約、重要な取引先との契約、重要な知的財産権についてのライセンス契約等)をスムーズに引き継げるよう、事業譲渡契約締結後決済日までに根回しをし、内諾を得ておくということも行われることがあります。
買手側も、当該事業譲渡が、取締役会の承認を得る必要があるケースでは、承認を得る等の手続を行います。また、決済日までに譲受資金を用意します。また、登録等の移転が必要な財産については、買手側が用意すべき書類を用意します。
移転すべき財産等の承継の手続の概要
事業譲渡は、売手企業の個々の財産、権利、債務、契約等を、個別の手続で移転・承継させる必要があります。以下は、移転すべき財産等の承継の手続の概要です。
動産
事業に利用する動産については、何らかの形で引き渡すことになります。ただし、通常は、事業譲渡に伴って当該事業に使用する事業所も引き継ぐようなケースが多く、この場合、あえて動産を引き渡す必要があるケースは多くないと考えられます。
不動産
不動産(土地、建物)については、法務局にて所有権移転登記手続を行います。その際に、売手企業が設定していた担保権の抹消登記手続を行うこともあります。
賃借権
事業に利用する賃借の不動産(土地、建物)については、承継に賃貸人の承諾が必要です。賃貸人の承諾を得た上で、契約を承継します。この場合、敷金は通常は承継されませんが、現実には敷金や保証金の扱い、原状回復義務の承継について協議しておく必要があります。
雇用契約
労働者との雇用契約も当然には引き継がれず、個別の労働者の同意が必要です。特に事業元の会社と譲受会社との間で労働条件に差がある場合は、調整に難航する可能性があります。
取引に関する契約
取引に関連する契約(継続的取引、知的財産等のライセンス)については、承継に取引先の承諾が必要です。取引先の承諾を得た上で、契約を承継し、この場合承継の旨を明らかにする書面を作成します。
登録を要する知的財産権・車両
特許権、実用新案権、意匠権、商標権など、登録してある知的財産権については、移転登録の手続を行います。車両についても同様に移転登録を行います。
債権
債権については、取引先の同意を得て契約ごと引き継ぐ場合と、すでに取引が終わって債権だけが残っているようなケース等では債権譲渡通知によって承継する場合があります。
また、信販会社等のように、債務者が多数に及ぶ債権については、債権譲渡の登記によって承継する場合があります。
不動産のほか、登記を要する財産
船舶、登記された工場財団、港湾運送事業財団、道路交通事業財団、漁業財団、鉱業財団、観光施設財団等についての登記に関して処理が必要な場合があります。
ノウハウ、のれん
ノウハウやのれん等については、事業譲渡契約後、又は取引実行後一定の時間で、譲渡元の企業から譲渡先企業に伝えていくこととになります。
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