合弁会社・合弁契約をめぐる法務の解説
合弁契約の概要・特徴
合弁会社と合弁契約の概要
本ページでは、企業間の提携を進める方法として広く活用されている、合弁会社と合弁契約のアウトラインと関連する法務について解説します。
合弁会社とは、通常は、共同で事業を行うことを目的として、複数の企業が各自資本を拠出して共同の株主となって設立・運営される会社をいいます。
そして、合弁契約は、合弁会社の組織や運営の基本的事項、及び各株主の役割と権限の内容、株主間の基本的な取り決めについて定めるために締結される契約です。
合弁契約の名称
契約書の名称としては、「合弁契約」が使われる他、会社を共同所有する株主間の法律関係を規律するという視点から、「株主間契約」という名称が採用される場合もあります。
合弁契約の特徴
合弁契約の特徴としては、以下のようなものがあります。
資本多数決とその原理の修正
通常、株式会社は、株主総会における議決権比率がものを言う、資本多数決の原理で運営されれます。
しかし、合弁契約によって、この原理が修正されることが少なくありません。すなわち、少数出資当事者が提供する経営資源の重要性、合弁当事者間の協力関係の維持の観点から、一定の事項に関しては、出資比率にかかわらず合弁当事者の意向が反映されるような工夫がなされます。
また、取締役会の構成メンバーについても、総人数とともに各合弁当事者が指名できる人数を定めることが一般的です。
合弁会社と株主当事者との関係の規定
合弁会社の維持のために合弁当事者と合弁会社との間の権利義務を定めます。例えば、合弁会社の目的の妨げにならないよう、競業の制限を定めることがあります。
また、合弁当事者間の関係についても種々の規律が定められます。例えば、株式譲渡の制限や一方当事者の優先買取権等です。また、不幸にして合弁関係を解消する必要も生じないとは限りませんので、合弁解消事由や、合弁からの撤退事由・手続も定められます。
合弁契約において考慮すべき事項
以下、合弁契約を進めるにあたり考慮・決定すべき主たる事項や考慮要素について解説します。
合弁会社の目的
何のために合弁会社を設立するのか、合弁会社の事業の目的などを明示します。
出資比率
前述のとおり、株式会社においては、資本多数決の原理、つまり株主総会における議決権の過半数などの決議によって重要事項が決定され、これに基づき経営がなされます。
例えば、株式の過半数を持つ株主は、取締役の選任や解任の権限、その他会社経営の重要事項について決定権限を有します。また、所有割合が3分の2以上の株主は、株主総会の特別決議という形で、定款変更を含めた会社の重要事項のほとんどを決定する権限も持つことになります。
そしてその「資本多数決の原理」は、合弁会社においても基本的に変わりません。それで、合弁会社においても、各株主の出資比率は基本的かつ重要な事項であって、十分に協議して決定すべき事項です。
合弁会社の機関設計・役員構成
合弁会社の機関設計として、代表取締役の人数、取締役の人数、取締役会設置の有無、監査役や監査役会設置の有無、その他の機関を定めます。
また、多くの場合、各合弁当事者が指名する役員の人数を合弁契約において定めます。この人数は、通常、各合弁出資者の出資比率に応じて定められますが、必ずしもそうしないといけないわけではありません。
重要事項についての意思決定
問題の所在
前述のとおり、株式会社における重要な事項は株主総会における多数決で決定されるため、合弁契約で何の定めもなければ、出資比率が51:49であっても、多数派の合弁当事者の意向のみが反映される結果になりかねません。
そこで、少数派の合弁当事者の意向が反映させる取り決めを設ける工夫がなされることが多く見られます。
合弁契約において当事者間の合意を要する事項を定める方法
その一つの方法は、合弁契約において、合弁会社の一定の重要な事項の意思決定に関しては、議決権比率にかかわらず合弁当事者の合意で決定するという規定を定めることです。
この場合、どんな事項を当事者間の合意事項とするか、合弁会社の機動的な経営と、少数派合弁当事者の意向の反映という両者のバランスを取りながら、慎重な検討と交渉が必要となります。
取締役会の決議要件を加重する方法
定款に定めを置けば、取締役会の決議要件を加重することができます(会社法369条1項[カーソルを載せて条文表示])。
それで、例えば取締役会の構成員が5名で、少数合弁当事者から取締役を2名出しているという場合に、取締役会の決議は取締役の3分の2以上が出席し、その出席した取締役の3分の2以上の賛成によると定款に規定するとします。そうすると、少数合弁当事者が指名した取締役の賛成がないと取締役会の決議が成立しないことになり、少数合弁当事者の意向が反映されることになります。
合弁会社と合弁当事者との関係
合弁会社と合弁当事者との関係についても種々の取決めが必要となります。具体的には、以下のものが含まれます。
合弁会社と合弁当事者との取引・契約
合弁会社においては、合弁当事者各自が持つ経営資源(技術力、知的財産、ノウハウ、生産力、原材料、設備、販売力・販売経路、人材など)を合弁企業に提供し、合弁事業の成功や発展を図ります。
そのため、各合弁当事者が合弁会社に対していかなる経営資源を提供するかといった点や、場合により、合弁会社と合弁当事者の取引内容について定めることもあります。
競業避止義務
合弁当事者が協力・共同して合弁会社を運営するにあたっては、各合弁当事者が無秩序に合弁会社の事業と競合する事業を行うようなことがあれば、合弁会社の事業の成功の阻害要因となります。
したがって、合弁会社の事業と競合する事業を禁止する規定が置かれることは少なくありません。この点、合弁会社の利益に加えて、合弁当事者がすでに行っている事業とのバランスや、合弁当事者の事業が不当に制限されることがないという点も考慮します。
それで、禁止する事業の範囲を明確に定めるとともに、場合により地理的範囲や時間的範囲を定めることがあります。
株式の譲渡制限
合弁契約においては、株式の譲渡を制限する条項を設けることが通常です。例えば、他の合弁当事者の同意がなければ株式を譲渡することができないといった規定があります。
それは、合弁当事者が自由に株式を第三者に譲渡できるとすれば、合弁当事者間の強い信頼関係を前提とした合弁事業の前提が崩れてしまうからです。
他方で、合弁当事者に一切撤退の自由がないというのも硬直的過ぎますので、この点での手当も必要です。例えば、一部の合弁当事者が合弁事業から撤退する場合、他の合弁当事者がまずその株式の買い取ることができるという規定(先買権、優先買取権、First refusal right)を定めることがあります。
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