ポイント解説国際法 消費者契約における準拠法の特則
消費者契約における準拠法の特則が設けられた趣旨
日本における国際私法である「法の適用に関する通則法」(以下「通則法」)においては、消費者契約について準拠法の特例を設けました(通則法11条)。
一般に、通則法においては、法律行為の成立と効力発生について、当事者自治が原則とされています(通則法7条)。それで、契約書において準拠法が指定された場合、この指定が通則法においても尊重されます。
これは、消費者契約の場合も原則として同様です。しかし、消費者は、契約の相手方である事業者に比べ、情報力・交渉力が小さく、弱い立場に置かれる可能性があり、当事者自治に委ねると、交渉力のある事業者に有利な準拠法の規定が押し付けられてしまう可能性があります。
そのため、通則法においては、消費者契約について特則を設けたわけです。以下その内容について概説します。
当事者が準拠法を指定しない場合
通則法の一般原則によれば、契約一般の成立と効力について、当事者が準拠法を指定していない場合には、準拠法は「最密接関係地法」によると定められています(8条1項)。
しかし、消費者契約については、当事者が準拠法を指定していない場合には、消費者の「常居所地法」によると定められています(11条2項)。
「常居所地」とは、明確な確立された定義はありません。しかし一般的には、当事者の主な事務所・営業所や、相当期間現実に居住している場所を指すといわれています。
したがって、「最密接関係地」(8条)を特定することなく、消費者の常居所地法が常に適用されるということになります。
当事者が準拠法を指定した場合
当事者が準拠法を特定した場合も、消費者契約の成立及び効力には以下のとおり、例外があります。
常居所地法の適用
契約書で指定された準拠法が消費者の「常居所地法」であるときは、消費者の常居所地法がもっぱら適用されます(11条4項)。
強行規定の重畳適用
これに対し、契約書で指定された準拠法が消費者の常居所地法でないとき、言い換えれば消費者にとって外国法であるときは、常居所地法の強行規定の適用を消費者が主張する限り、そのような法律効果を定める強行規定も適用されることになります(通則法11条1項)。
例えば、勧誘や契約にあたって、事業者が契約上重要な事項を誤認させるような説明を行い、日本に住んでいる消費者がこれを信じて契約してしまった場合、契約書に示された準拠法によれば取消しが許されないとしても、消費者は、日本法である消費者契約法4条1項の適用を主張して取り消すことができます。
契約の方式についての特例
以上は、契約の成立及び効力に関する規定ですが、通則法は、消費者契約の「方式」についても特則を定めています。
通則法の一般原則によれば、契約の締結について適用すべき法があっても、行為地法に適合する方式は有効とされ、申込みの通知を発した地の法又は承諾の通知を発した地の法に適合する方式も有効とされる場合があります(10条2項、4項)。
しかし、消費者契約においては、契約書で準拠法が指定されない場合は、消費者の常居所地法を適用し、行為地、申込地、承諾地の各法は適用されません(11条5項)。
また、契約で指定された準拠法が消費者の「常居所地」法であるときも、消費者の常居所地法がもっぱら適用されます(11条4項)。
例えば、日本に居住する消費者が韓国のサイトから購入した場合であって、当該売買について準拠法の指定がない場合、契約の方式については韓国法ではなく日本法が適用されることになります。
事業者の利益と消費者保護との調整
このように、消費者が一般に情報力・交渉力が小さく、事業者に有利な準拠法の規定が押し付けられてしまう可能性があることを考慮し、通則法は、消費者契約について当事者自治を修正し、準拠法の特例を設けました。
もっとも、通則法は、上記のような保護を適用する必要がないと考えられる場合には、事業者の利益との調整をはかる規定を置いています。具体的には以下のとおりです。
事業として・事業のためにする契約
個人であっても事業として、又は事業のために契約する場合には、「消費者」でないとされ、消費者契約の特例が適用されません(11条1項かっこ書)。
事業者の不知・誤認
契約締結時に事業者が消費者の常居所地を知らず、知らないことに相当の理由がある場合は、消費者契約の特例が適用されません(11条6項3号)。
さらに、契約締結時に事業者が相手方を消費者でないと誤認し、誤認したことに相当の理由がある場合も、消費者契約の特例は適用されません(11条6項4号)。
その結果、契約書で準拠法の指定があった場合には原則としてその法のみが準拠法となりますし、準拠法の指定がなかった場合には、物や役務を提供する事業者の事業所所在国法が適用される可能性が高くなります。
消費者があえて国境を越えた場合
さらに、消費者があえて常居所地を離れ、物理的に国境を越えて契約したり(11条6項1号)、履行を受けたり(11条6項2号)した場合にも、消費者契約の特例は適用されません。
つまり、事業者の外国にある本拠地において契約を締結したり履行の全部を受けたりした消費者は、日本の消費者保護法を援用することができません。
例えば、日本の消費者がインターネット上で海外のホテルを予約して実際に宿泊した場合などです。
ただし、そのような契約の締結や履行が事業者からの勧誘を受けた結果である場合は、国際私法上の保護を受けることができます(11条6項1号但書、2号但書)。
ここでいう「勧誘」とは、但書きの趣旨に照らすならば、個別的、具体的かつ積極的な働きかけが必要とされています。例えば、電話により個別的に契約締結を働きかけるとか、電子メールにより個別に勧誘を受けた場合も含まれると考えられています。
逆に、事業者が立ち上げたインターネットサイトに消費者がアクセスできる状態にしたというだけでは、「勧誘」とはならないといわれています。
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