ポイント解説国際法 労働契約における準拠法の特則
労働契約において準拠法の特則が設けられた趣旨
「法の適用に関する通則法」(以下「通則法」)という法律においては、労働契約についても準拠法の特例を設けました(通則法12条)。
通則法においては、準拠法の指定についての当事者自治が原則とされていました(通則法7条)。それで、契約書において準拠法が指定された場合、この指定が通則法においても尊重され、このことは労働契約の場合も原則として同様です(12条1項)。
しかし、一般的に、労働者は、契約の相手方である事業者に比べ、情報力・交渉力が小さく、弱い立場に置かれる可能性があるため、当事者自治に委ねると、交渉力のある使用者に有利な準拠法の規定が押し付けられてしまう可能性があります。
かかる趣旨から、労働契約についての特則が設けられました。以下、労働契約の特則について概説します。
準拠法の指定がない場合
最密接関連地法の原則
通則法は、労働契約の成立と効力について当事者が準拠法を指定していない場合には、準拠法は「最密接関係地法」によると定めています(12条3項)。
つまり、契約(法律行為)の時点において当該契約(法律行為)に最も関係の深い地(最密接関係地)を準拠法とするという規定です。
そして、労働契約においてこの「最密接関係地」をどのように判断するかについては、以下のような規定が設けられています。
労務を提供すべき地
まず、労働契約(法律行為)において労働者が労務を提供すべき地が「最密接関係地」と推定されます(通則法12条2項)。
例えば、米国企業の日本支店で労働者が労務を提供している場合、米国にある本社が労働者を雇い入れていても、「最密接関係地」は日本と推定されることになります。
労働者を雇い入れた事業所の所在地
労働者が労務を提供すべき地を特定できない場合にあっては、労働者を雇い入れた事業所の所在地が「最密接関係地」と推定されます(12条2項括弧書)。
例えば、米国法人の日本支社に雇われている日本人の職員が、様々な海外支店を数ヶ月単位で移動しながら労務を提供する場合、雇い入れた事業所の所在地である日本が最密接関係地と推定されます。
準拠法の指定がある場合の法選択と労働者保護
他方、労働契約において当事者が準拠法を指定しており、適用すべき法が「最密接関係地法」以外の法である場合であっても、労働者が使用者に対して、最密接関係地法中の特定の強行規定(解雇無効など)を適用すべき旨の意思を表示したときは、その強行規定も適用すると定めています(通則法12条1項)。
例えば、日本人の労働者が外国企業の日本の支店で労働契約を締結し、かつ日本の支店で労務を提供している場合であって、雇用契約書には当該外国法を準拠法とすると記載されていたとします。
そして当該外国法には法定予告期間を与えられることなく解雇された労働者は、予告期間相当分の賃金を請求できるだけで、解雇それ自体を違法・無効とする規定がないとします。他方、日本の労働法では解雇予告を必要とする規定が強行規定とされていますし、さらに解雇権濫用の法理があり、理由のない解雇は無効と判断されます。
したがって、この場合、労働者は日本法の適用の意思を会社に対して表示することができ、そうなると、当該外国法に加えて日本法の該当規定が適用されるということになります。
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