英文ソフトウェア・ライセンス契約の解説
英文ソフトウェアライセンス契約の特徴
ソフトウェアメーカーが自社のソフトウェアを販売したり提供したりする場合、顧客との間でソフトウェア使用許諾契約(ソフトウェア・ライセンス契約)を締結することは、実務上ほぼ必須といってよいと思います。
また、使用許諾先が外資系企業だったり海外の企業だったりする場合、英文でのソフトウェア使用許諾契約が必要となります。
本ページでは、英文契約のうち、エンドユーザー向けのソフトウェアライセンス(ソフトウェア使用許諾契約)のアウトラインについて解説します。
契約書のタイトル
ソフトウェアライセンス契約は、Software License Agreementというタイトルが一派的ですが、Agreementの代わりにContractを使うこともあります。しかし、特にどの言い方でも問題ありません。
また、特にエンドユーザー向けのライセンス契約については、”End User License Agreement”(EULA)と呼ぶことも実務上少なくありません。
画面上で同意を求める方式の場合の有効性
ソフトウェア使用許諾契約では、紙の契約書に押印する方式のほか、ソフトウェアをインストールする際などの画面にライセンス条件(使用許諾条件)が表示され、「同意する」といったボタンをクリックする、という方法が広く見られます。
また、クラウド上のサーバーでソフトウェアを提供する場合には、インターネット上での登録のプロセス中に表示される画面にライセンス条件を表示して同意を得る、という方法も頻繁に見られます。
こうした、サインも押印もない方式の法的拘束力に疑義を持たれる方もおられるかもしれませんが、ユーザーが使用許諾条件に同意したことが明確であれば、通常は、使用許諾契約は有効に成立したと考えて差し支えないといえます。
ただし、画面構成やライセンス条件の表示の方法から、ライセンス条件があらかじめ利用者に対して適切に開示されていることや、申込者が、開示されている使用許諾条件に従って使用許諾契約を締結することに同意していると認定できることは重要といえますから、画面設計上留意する必要があります。
エンドユーザー向けソフトウェア使用許諾契約(EULA)の規定のポイント
以下、本ページでは、英語・英文によるソフトウェアライセンス契約の主要なポイントについてご説明します。なお、この部分については主要条項の一部の説明ですので、今後必要に応じ加筆する予定です。
なお、以下のサンプルはもっぱら主要条項の趣旨・意図の解説を目的としています。それで、網羅性・完全性・条項間の整合性、また用語の統一性については考慮・検証していません。それで、本ページのサンプルを「雛形(ひな形)」として使用することはご遠慮ください。
ライセンス・使用許諾(Grant of License)
規定例
Article ** (Grant of License)
**.1 During the term of this Agreement, the Licensor grants to the Licensee a non-transferable, non-exclusive, and non-sublicensable license to use the Software, subject to the terms and conditions provided herein.
**.2 The Software may be installed on one computer at a time. The registration code given to the Licensee is only to be entered into a single computer.
第*条(使用許諾)
1 ライセンサーは、ライセンシーに対し、本契約期間中、本契約の条件にしたがって本ソフトウェアを使用する、非独占的、再許諾不可、譲渡不能なライセンスを許諾する。
2 本ソフトウェアは、同時に1台のコンピュータにのみインストールすることができる。ライセンシーに付与された登録コードは、1台のコンピュータにのみ使用する。
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条項のポイント〜ライセンス条件の明示
契約の内容が、ソフトウェアの使用許諾である旨を明示します。また書かなくても当然なのですが、使用権が非独占的で、サブライセンス不可であることなどを規定することもあります。
加えて、対象ソフトウェアを使用できる機器・端末の台数や、必要に応じユーザー数を定めます。ユーザ数については、同時にアクセスできるユーザ数を定めることもあります。
また、対象ソフトウェアをインストールした端末でのみ使用を認めるのか、社内ネットワークを経由した使用を認めるのかなども検討します。加えて、対象ソフトウェアの使用目的を契約で制限することもあります。
権利帰属(Ownership of Rights)
規定例
Article ** (Ownership of Rights)
Unless otherwise expressly provided herein, the Licensor owns and reserves all rights, titles and interests to and in the Software and any part thereof (including materials used therein and attached documents), including but not limited to the copyright and any other intellectual property rights embodied or used therein. In no event any of the above rights, titles and interests will be transferred to the Licensee.
第*条(権利帰属)
明示的に別段の規定がない限り、本ソフトウェア及びその一部(使用されている素材、及び付属ドキュメントを含む)にかかる権利と権益は、ライセンサーに帰属し、かつライセンサーに留保される。ここには、本ソフトウェア及びその一部において使用される著作権及び他の知的財産権が含まれる。いかなる場合も、当該権利及び権益が、ライセンサーからライセンシーに移転するものではない。
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条項のポイント
対象ソフトウェアに関する著作権等の知的財産権の権利帰属を明確にします。当然のことですが、ソフトウェアはライセンスされるものであって、権利の移転が伴うことはありませんが、この点を明確にする趣旨で定められることが少なくありません。
禁止事項(Restriction of Use)
規定例
Article ** (Restriction of Use)
Unless the prior written consent of the Licensor is obtained, the Licensee shall not:
(i) assign, sublicense, lease, or in any other way transfer the right to use the Software to any third party, nor,
(ii) copy, alter or modify, or, decompile, disassemble, decrypt, or otherwise reverse engineer the Software.
第*条(禁止事項)
ライセンシーは、ライセンサーの事前の書面による同意を得ない限り、次の各号に定める行為を行わない。
(1)本ソフトウェアの使用権を、第三者に譲渡、サブライセンス、貸与若しくは他の方法で移転すること
(2)本ソフトウェアを複製し、改変し、又は、逆コンパイル、逆アセンブル、復号化、又は他の方法のリバースエンジニアリングを行うこと。
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条項のポイント
必要と考える禁止事項を網羅的に列挙します。上のサンプルでは代表的なものを絞った形で含めていますが、実際には、自社のニーズ、考えうるリスク等を踏まえて個別に検討し、網羅的に列挙すべき事項です。
使用料(License Fee)
規定例
Article ** (License Fee)
1 The Licensee shall pay the Licensor the annual license fees as specified in the fee schedule provided by the Licensor, no later than ten (10) days prior to the commencement of the initial license term or an extended term.
2 The Licensee shall pay the above license fees by wire transfer to a bank account designated by the Licensor. Costs for the transfer shall be borne by the Licensee.
第*条(使用料)
1 ライセンシーは、ライセンサーに対し、ライセンサーが別途提供する料金表に定める年間使用料を、初期ライセンス期間開始日又は延長期間開始日の10日前までに支払う。
2 ライセンシーは、前記使用料を、ライセンサーが指定する銀行口座への振込送金によって支払う。振込手数料はライセンシーの負担とする。
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条項のポイント
対象ソフトウェアの使用料につき、支払対象、支払金額、支払期限等を明確にします。ただし、契約中に書くこともあれば、別途料金表で定める、見積書で定める、という方法もあります。
支払対象としては、パッケージソフトウェアで多く見られるような、無期限の使用許諾の対価を定める方法、上のサンプルのように年間で定める方法、月間や他の期間に応じて設定する方法などが考えられます。
また、使用料の支払方法も定めておくことができます。
保証・非保証(Warranty or Limited Warranty)
規定例
Article ** (Limited Warranty)
1 The Software is licensed ”as is”, and the Licensor makes no warranties, express or implied with respect to the Software, including, but not limited to, any warranties of merchantability and fitness for a particular purpose.
2 Notwithstanding the foregoing paragraph, in the event that any defect that does not conform to the specifications of the Software is found, the Licensor shall use its reasonable efforts to make modifications or alterations that the Licensor deems appropriate.
第*条(保証の制限)
1 本ソフトウェアは「現状有姿のまま」でライセンスされるものとし、ライセンサーは、本ソフトウェアについて、明示黙示をとわず、一切の保証を行わない。ここには、商用性及び特定の目的への適合性が含まれる(これらに限らない)。
2 前項にかかわらず、本ソフトウェアの仕様に反する欠陥が発見されたときは、ライセンサーは、自己が適切と考える修正を行うよう合理的な努力するものとする。
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条項のポイント
まず対象となるソフトウェアの瑕疵担保責任について触れる必要があります。この点種々の考え方がありますが、上のサンプルでは、ライセンサーが、「現状有姿」の提供であって瑕疵担保責任は負わないものの、仕様違反の欠陥が発見されれば修正する努力をする、という規定としています。
上に加え、ソフトウェアを巡る紛争として、対象となるソフトウェアの性能・品質が期待どおりでなかったとか、自社の目的に合わなかったといった主張がされることがありますので、この規定にはこうした主張を防ぐ意味もあります。
他方、ソフトウェアについて一定の範囲の保証を定めるものもあります。この場合にも、保証内容を仕様違反に限ったり、保証違反の責任を代替品との交換や修正に限り損害賠償の責任は負わない、といった限定を付すことは重要と思います。
契約解除条項
条項例
Article ** (Termination)
1 In the event that, (i) the Licensee breaches any obligation under this Agreement, (ii) the Licensee suspends payment of its obligations, or files a petition for bankruptcy, special liquidation, civil rehabilitation, corporate
reorganization, or other similar procedures (including those outside Japan), or a petition for any of the above procedures is filed by a third party, (iii) a merger with a third party, transfer of all or a significant part of its business to a third party should occur, then the Licensor may terminate this Agreement and the license granted hereunder immediately by written notice.
2 Upon termination of this Agreement, the Licensee shall immediately discontinue use of the Software and return the Software and any related documents to the Licensor.
第※条(契約解除)
1 ライセンシーにつき下記の事由が発生したときは、ライセンサーは、書面の通知によって本契約を解除し、本契約に基づくライセンスを終了することができる。
(1) 本契約の違反があったとき
(2) 支払を停止し、破産、特別清算、民事再生、会社更生、若しくは同様の手続(日本国外の手続きを含む)の申立をし、又は同様の申立を受けたとき
(3) 第三者との合併、事業の全部若しくは重要な一部の譲渡が発生したとき
2 本契約が終了したときは、ライセンシーは、ただちに本ソフトウェアの仕様を中止し、本ソフトウェアと付属ドキュメントをライセンサーに返還する。
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条項のポイント
契約を解除できる事由を規定します。なお、多くの契約では、解除権は両当事者が持つことが多いのですが、ソフトウェアライセンス契約の場合、ライセンサー側だけが解除権を持つという書き方も少なくありません。それは、ユーザー側から解除する理由はあまり考えにくいからです。
上のサンプルでは、解除事由を絞って例示していますが、実務ではもう少し広く網羅するようにします。
また、解除にあたっては、「催告」(違反を是正するように求めること)を経た後に解除できるとする場合と、催告なしに解除できる定める場合があります。また、解除事由に応じて使い分けることもあります。このサンプルでは、ただちに解除する事ができる規定にしています。
さらに、契約解除後にユーザーがソフトウェアの使用を中止したり、返還する義務を定めることも少なくありません。
本ページは執筆中です。加筆し次第、随時公開していきます。
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