英文売買契約の解説
英文売買契約の特徴
売買契約書のタイトル
本ページでは、英文契約のうち、売買契約のアウトラインについて解説します。売買契約は、Sales Agreement Buy and Sell Agreement Purchase Agreement Sales Contract等、様々な言い方がありますが、契約内容と大きな齟齬がない限り特にどの言い方でも問題ありません。
売買契約の種類
また、売買契約には、大きく分ければ、1回限り又は数回の売買を対象としたスポット的な契約と、一定期間にわたって一定の商品の売買を複数繰り返することを前提に、当事者間で取引の基本条件を定める、売買基本契約があります。
英文売買契約(スポット契約)の規定のポイント
以下、本ページでは、英語による売買契約の主要なポイントについてご説明します。なお、この部分については主要条項の一部の説明ですので、今後必要に応じ加筆する予定です。
なお、以下のサンプルはもっぱら主要条項の趣旨・意図の解説を目的としています。それで、網羅性・完全性・条項間の整合性、また用語の統一性については考慮・検証していません。それで、本ページのサンプルを「雛形(ひな形)」として使用することはご遠慮ください。
売買の合意(Buy and Sell)
規定例
Article ** (Buy and Sell) 本契約に定める条件にしたがって、売主は、別紙1に定める商品(以下「本商品」)を買主に売り渡すことに同意し、買主は、これを売主から買い受けることに同意する。 |
条項のポイント
最も基本的な売買の合意の規定です。なお、上の例では、商品の特定は別の条項で規定する前提になっていますが、本条で定義することもできます。
価格(Price)
規定例
Article ** (Price) 1. 本商品の価格は、1個あたり120米ドルとし、総額で12万米ドルとする。 |
条項のポイント1~価格条項の定め
基本的な条項の一つである価格についての定めです。誤解のないように正確に記載します。
なお、英文契約では、実務上、重要な数字につき、アラビア数字の表記と英文で表記することが珍しくありません。なおこの場合、万一、アラビア数字と英文表記とに齟齬がある場合、英文の表示が優先されます。
また、取引に国際貿易が絡む場合、貿易条件も明示します。また、準拠する貿易条件(上の例では2010年版インコタームズによるF.O.B.条件)を書けば、価格には仕向地港までの海上運賃と海上保険料が含まれていないことはそれだけでも理解されますが、契約上、こうした点を明示することも少なくありません。
条項のポイント2~貿易条件とインコタームズ
本サンプルでも頻繁に登場する「インコタームズ(Incoterms)」とは、国際商工会議所(I.C.C.)が制定した貿易取引条件の定義とその解釈に関する国際規則です。
そして契約上貿易条件を定める場合、FOBといった用語のほか、この用語が、どの規則によって解釈されるのかを定める必要があります。
この点例えば、同じFOBでも、インコタームズと、U.C.C.(米国統一商法典)では厳密に一致しないのです。
引渡(Delivery)
規定例
Article ** (Delivery) 1. 本商品の引渡は、インコタームズ2010に定めるところによるF.O.B.横浜港条件に基づき、日本の横浜港でなすものとする。 |
条項のポイント
基本的な条項の一つである引渡条件についての定めです。
引渡条件についても、FOB等の貿易条件を明示し、かつインコタームズ等、何に準拠した定義なのかを明示します。F.O.B.条件では、船積(free on board)によって売主の義務が完了するとされています。それで、船積港において引渡が完了します。
なお、船積港で引渡が完了する以上、理論上は仕向港を記載する必要はないものの、実務上は契約に定めることが少なくありません。
支払(Payment)
規定例
Article ** (Payment) 1. 買主は、本商品の代金につき、売主が発行する請求書を買主が受領した後40日以内に、売主指定の銀行口座に対する電信送金によって、米ドルで支払うものとする。 |
条項のポイント
基本的な条項の一つである支払条件についての定めです。
サンプルでは、引渡後売主が発行する請求書に基づき電信送金によって支払うという定めを前提に規定されています。
もっとも、上のような引渡後の後払の支払は、日本国内の企業間の取引では珍しくないものの、国際取引の場合にはリスクが高い方式です。それで、売主としては、買主の信用に疑義があればこの方法は取れないと判断することが通常です。
それで、上のような支払方法は、金額が小さい場合、売主と買主が長年取引を行っており互いの信用度が高い場合などに使用されることが多いと考えられます。
他方、買主の信用に疑義がある場合やリスクを避ける場合、売主としては、信用状(L/C Letter of Credit)による決済や、前払い又は一部の前払いを検討することが多いといえます。
所有権・危険負担(Title and Risk)
規定例
Article ** (Title and Risk) 本製品に関する所有権と危険は、本製品が船積港で本船に積載された時点で売主から買主に移転するものとする。 |
条項のポイント1~危険負担の移転
危険負担(risk)とは専門的な用語で一般には馴染みがない言葉です。これは、売買対象品が滅失し、それがいずれの当事者にも責任がない場合、代金支払債務が消滅するか、残存するかを決定する概念です。
そして、危険負担が「移転しない」(売主に残る)と判断される場合、買主の代金支払債務は消滅します。他方、危険負担が買主に移転すると、売買対象品が滅失しても、代金支払債務は残る、ということになります。
そして、国際取引においては、Incotermsといった貿易条件を定める取り決めにおいて、貿易条件を定める用語を定義するとともに、危険負担の移転についても定めています。
この点、本ページのサンプルのように、インコタームズ2010年版で定義する「FOB」(本船渡し)では、危険が移転するのは、売買対象品が、本船に積載された時点とされています。
なおこの点、インコタームズ2000年版では、FOBにおける危険負担の移転時期は、「本船の手すりを越えるまで」となっていましたので、この点若干の変更があったということになります。
条項のポイント2~所有権の移転
危険負担(risk)のほか、所有権の移転時期も規定することが一般的です。特にインコタームズでは、所有権の移転時期は定められていませんから、契約で定めることは望ましいといえます。
保証(Warranty)
規定例
Article ** (Warranty) 1 売主は、本製品が、当事者間で別途合意した仕様表に明確に規定した仕様に合致することを保証する。 |
条項のポイント1~保証内容の明確性
売買対象物の保証の内容を明確にすることは紛争の防止の上で重要といえます。本サンプルでは、仕様表を別途合意で定めることを前提に、当該仕様への適合性を保証内容として明確にしており、売主側の立場に立った内容となっています。
もちろん、商品の仕様は別途合意するという方法によることができるほか、締結段階において、契約書やその別紙で定めることも可能です。
条項のポイント2~保証の排除
売主側としてはリスクの軽減のために、契約書に明文の規定のないすべての保証や担保を排除することを意図し、2項のような規定を設けることが少なくありません。
また、サンプルでは、全文が大文字で書かれていることにお気づきかもしれませんが、これにも意味があります。
米国の各州で採用されている“Uniform Commercial Code”(統一商事法典)においては、黙示の保証の規定があり、これを排除するためには、明瞭に(conspicuous)記載されなければならないと定められています。
そのため、一定の範囲以上の保証を否認するような条文は、全文が大文字で記載されることが多く見られるわけです。
検査(Inspection)
規定例
規定例1 買主は、本商品を受領後10日以内に、本商品を検査するものとする。本商品に数量不足又は瑕疵が発見された場合、買主は売主に対し、当該発見時又は前記検査期間の末日のいずれか早いほうから7営業日以内に、その旨を通知する。前記通知が、前記7営業日の期間内になされない場合、買主が本商品を受け入れたものとみなし、その後は数量不足又は瑕疵の主張は受け入れられない。
規定例2 売主が行う輸出検査は、最終的なものとみなされる。ただし、買主は、買主指定の独立した検査人によって、発送前に本製品を検査する権利を有する。買主による前記検査の費用は、すべて買主が負担する。 |
条項のポイント~検査主体・検査方法・検査時期の明示
売買対象物に瑕疵がある場合、大きなトラブルの原因となります。そのため、検査(inspection)の時期、検査方法、検査主体といった項目について定める必要があります。
規定例1は、買主側が受領後に検査を行うという規定です。国内取引では一般的な条件ですが、国際取引でもないことはありません。
規定例2は、出荷前の売主側の検査をもって最終としつつ、買主が疑義を持ったときには、確認のため独立した検査人を指定して検査を行う権利を持つ、という規定です。
検査において故意に不正を行うとか、数値をごまかすことはありえなくはありませんが、ビジネスの世界ではまれなことであることを考えると、信頼関係のある当事者間であれば、こうした検査条項もありうるわけです。
もっとも、出荷前の検査を最終としつつ、買主が売買対象物を受領した後一定期間のクレーム提起期間を設けるという規定も実務上は見られます。
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