取締役の責任~会社に対する責任
取締役の会社に対して責任を負う場合
取締役が、その任務を怠ったり、違法行為(総会屋に対する利益供与をすること、利益がないのに配当することなど)により会社に損害を与えた場合、会社に対して損害賠償の責任を負うことになります。具体的には、以下のような場合です。
- 法令・定款違反(法令や定款に違反するような行為を行ったというケース。ここには善管注意義務違反も含まれます)
- 違法配当(分配可能額を超えて剰余金の配当を行うというケース)
- 利益供与(株主の権利行使に関して、株主に対し金銭その他の財産を供与するケース)
- 利益相反取引(取締役と会社の利益が相反する取引を行い会社に損害を与えるケース)
- 競業取引(株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の承認を得ないで競業取引をしたケース)
なお、具体的に取締役の責任の有無が問題となるケースについては、後の箇所で取り上げます。
取締役の会社に対する責任を追求するのは誰か
会社における責任追及の機関
会社が取締役の責任を追及する場合、会社法は、誰が会社を代表して訴訟を遂行するかを定めています。具体的には以下のとおりです。
・監査役を設置している会社 監査役が会社を代表する(会社法386条1項)
・監査役を設置していない会社 代表取締役が会社を代表する(会社法349条4項)
・監査役を設置していない会社 株主総会で定めることができる(会社法353条)
・取締役会を設置している会社 取締役会で定めることができる(会社法364条)
いわゆる「株主代表訴訟」
以上のとおり、会社内において、取締役の責任を追求する機関が定められていますが、取締役間の馴れ合いによって取締役の責任追及がなされないおそれは十分に考えられます。また、監査役(監査役設置会社の場合)についても、会社内部の人である以上、取締役との個人的な関係などからこの責任追及をしないおそれも考えらます。
そのため、株主が会社に代わって取締役の責任を追及する訴訟を提起できるようにした制度が、「株主代表訴訟」です。すなわち、株主(ただし公開会社の場合、6箇月前から引き続き株式を有する株主。会社法847条)が、当該取締役を被告として、会社に対する賠償を求める訴訟を起こすことができるわけです。
取締役の善管注意義務が問題となるケース
取締役の善管注意義務とは
取締役は、会社から委任を受けて会社の経営という任務を遂行します。そして、取締役は会社に対し、「善良なる管理者の注意」をもって職務を遂行する義務(善管注意義務)を負っています(会社法330条、355条、民法644条)。
その義務の中には、会社法等の法令を遵守する義務はもちろんのこと、取締役としての地位にふさわしい能力と識見に基づく注意を払って職務を遂行し、会社に損害を与えないようにする義務が含まれます。そして、この善管注意義務違反によって会社に損害を与えた場合でも、会社に対する責任を負うこととなります。
この点、どんな場合に善管注意義務に違反するといえるのか、それが具体的な法令に違反する行為であれば分かりやすいのですが、そうではなく、法令には違反しない取締役の決定や行為が善管注意義務に違反するか否かの判断は容易ではありません。
以下、裁判所の考え方についてご紹介します。
善管注意義務違反の判断枠組
取締役に善管注意義務の違反があったかどうかを裁判所が判断する際には、一般に、以下のような考え方が取られています。
すなわち、
(A)経営判断の過程と
(B)経営判断の内容について、
ア 行為当時の状況に照らし、合理的な情報収集・調査・検討等が行われたか
イ 当該状況と、取締役に求められる識見水準・能力水準に照らし、その判断
に不合理・不適切点はなかったか
といった判断枠組です。
そして、以上のような合理的な調査検討が行われ、判断に不合理な点がなければ、結果的にその判断がうまくいかず、会社が損害を受けたとしても、取締役が善管注意義務違反に問われることはありません。これを「経営判断の原則」といいます。
以下、裁判例で取り上げられたケースについて、若干触れたいと思います。
最高裁第一小法廷平成22年7月15日判決
これは、不動産斡旋賃貸等のフランチャイズ事業を展開するA社が、A社を持株会社としとし、主要事業を完全子会社に担わせるという事業再編計画の中で、子会社B社の株式の買取を進めるにあたり、買取価格を5万円としたというケースです。そして、本件でA社は、監査法人等2社に、株式交換等の方法を念頭に置いて株式交換比率の算定を依頼した際に算定されたB社株式の評価額は、約6500円~約1万9000円でした。
それで、A社の株主であるX氏らが、この買取価格は不当に高額であり、取締役の任務懈怠があるとし、会社法423条1項により、A社に対する損害賠償責任があると主張しました。
これに対し最高裁は、A社の決定の過程について、経営会議での検討と弁護士からの意見聴取をあげて、具体的な内容に踏み込むことなく、その決定過程に何ら不合理な点は見当たらないとしました。この最高裁の判断は、経営者の判断を不当に萎縮させることがないよう、「経営判断の原則」を適用したものであると考えられます。
東京地裁平成8年2月8日判決
米国にあった合弁会社を合弁相手から買収したこと等について会社に損害を与えたことを理由にして取締役の責任が追求されたケースで、裁判所は、進むか退くか、市場におけるこうした企業行動の決定は・・広範な裁量を認めざるを得ない性質であるとし、前提となった事実の認識に重要かつ不注意な誤りがなく、意思決定の過程・内容が企業経営者として特に不合理・不適切なものといえない限り、当該取締役の行為は、取締役としての善管注意義務ないし忠実義務に違反するものではない、としました。
福岡高昭和55年10月8日判決
A社の専務取締役Bが、破綻に直面した子会社であるC水産株式会社に対し、倒産を招くことを承知の上で融資を打ち切るか、または、盛漁期までのつなぎ融資によって経営の好転を期する機会を待つかどうかの選択に迫られました。Bは積極策を採用して融資を行い、他方でC社に対する管理を強化するなどしましたが、期待していた盛漁期の到来前にC社は倒産し、資金の回収が不可能となりました。
裁判所は、企業は本来自己の責任と危険においてその経営を維持しなければならないものであるから、・・たとえ会社再建が失敗に終わりその結果融資を与えた大部分の債権を回収できなかったとしても、右取締役の行為が親会社の利益を計るためにでたものであり、かつ、融資の継続か打ち切りかを決断するに当たり企業人としての合理的な選択の範囲を外れたものでない限り責任を負うものではない、と判断しました。
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