取締役の責任の免除・軽減の方法
取締役の責任軽減の趣旨
取締役の会社に対する損害賠償責任については、原則として株主全員の同意がなければ免除できません(会社法424条[条文表示])。しかし、この原則を貫くと、株主代表訴訟などで高額な損害賠償が請求されるなどのリスクから、経営が萎縮してしまう可能性が生じます。
そのため、会社法は、善管注意義務に違反した取締役について、一定の範囲で責任を減免する方法について定めています。具体的には、以下のような方法があります。
以下、各方法についてご説明します。
株主総会での軽減
制度の概要
これは、株主総会において、一定の事項を開示し、株主総会の特別決議(出席株主の3分の2以上の賛成)を得れば軽減(一部の免除)ができる、というものです(会社法425条[条文表示] 会社法309条2項[条文表示])。具体的な要件は以下のとおりです。
なお、847条の3第4項[条文表示]に規定する特定責任に関しては、最終完全親会社等がある場合、この株主総会の決議は、最終完全親会社等においてなす必要があります。
また、「最終完全親会社等」は、子会社の株式を直接・間接的に100%保有している最上位の親会社です。「最終かつ完全」である必要がありますので、その親会社に、さらに親会社が存在する場合には「最終」親会社ではありません。また、株式を100%保有していなけれれば「完全」親会社ではありません。
過失の程度
まず、善管注意義務違反に問われている取締役の職務遂行について、「善意かつ重過失がないこと」である必要があります。
つまり、取締役の判断や職務遂行について、任務違反であることを認識していたとき(つまり「悪意」)や、重大な不注意で認識できなったとき(つまり「善意だが重過失あり」)のときは免責されません。
取締役の説明義務
株主総会での責任免除を得るためには、株主総会において、一定の事項を開示し、説明する義務があります(会社法425条2項[条文表示])。具体的には以下のような事項です。
・責任の原因となった事実及び賠償の責任を負う額
・免除することができる額の限度及びその算定の根拠
・責任を免除すべき理由及び免除額
この点特に、株主の3分の2以上を説得するに足りる「責任を免除する理由」の説明義務は、大きなハードルとなるかもしれません。
監査役等の同意
責任免除の議題を株主総会に提出するにあたり、以下の同意が必要です(会社法425条3項[条文表示])。
- 監査役設置会社の場合 監査役
- 監査等委員会設置会社の場合 各監査等委員
- 指名委員会等設置会社の場合 各監査委員
また、上の監査役等が複数いる場合、各自の同意が必要です。
取締役会決議等による軽減
制度の概要
取締役会決議(取締役会設置会社の場合)又は取締役の過半数の同意(取締役非設置会社の場合)によって、取締役の責任の軽減(一部の免除)ができるというものです。
ただし、こうした制度が利用できるのは、監査役設置会社、監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社に限ります(会社法426条[条文表示])。また、監査役設置会社については、取締役が二人以上ある場合に限ります。
具体的な要件は以下のとおりです。
定款の定め
まず、定款においてその旨を定めておく必要があります。例えば以下のような規定を定款に置くことが考えられます。
第○条 当会社は、会社法423条1項の取締役(取締役であった者を含む。)の賠償責任につき、法令に定める要件に該当する場合、会社法426条1項の規定に基づき、取締役会の決議及び監査役の同意をもって、賠償責任額から法令に定める最低責任限度額を控除して得た額を限度として免除することができるものとする。
なお、当該定款の定めをなすために定款変更の議案を株主総会に提出するにあたっては、各監査役又は各監査(等)委員の同意が必要です(会社法426条2項[条文表示]、425条3項[条文表示])。
過失の程度
善管注意義務違反に問われている取締役の職務遂行について、「善意かつ重過失がないこと」である必要があります。
つまり、取締役の判断や職務遂行について、任務違反であることを認識していたとき(つまり「悪意」)や、重大な不注意で認識できなったとき(つまり「善意だが重過失あり」)のときは免責されません。
取締役会の決議
取締役の決議を行う場合、責任を負う当該取締役を除く、他の取締役の過半数の賛成による決議が必要です。
また、当該責任の一部免除の議案を取締役会に提出するにあたっては、各監査役又は各監査委員の同意が必要です(会社法426条2項[条文表示]、425条3項[条文表示])。
公告と異議申立
責任軽減の決議や同意を得た後、公告又は株主への通知を行う必要があります。そして、総株主の議決権の100分の3以上を有する株主が異議申立期間内(1か月以上)に異議を述べた場合などには、免除はできません(会社法426条3項[条文表示]、7項[条文表示])。
また、上の公告や株主への通知は、会社法847条の3第4項に規定する特定責任については、最終完全親会社等においても行う必要があります(会社法426条5項[条文表示])
なお、当該会社又は最終完全親会社等が非公開会社(株式に譲渡制限がある会社)については、「公告」ではなく、株主への通知が必要です(会社法426条4項[条文表示]、6項)
責任限定契約による軽減
制度の概要
会社と一部の役員との間で、事前に責任限定契約を締結することができ、これによって責任の一部免除を得ることができます(会社法427条[条文表示])。具体的な要件は以下のとおりです。
対象となる役員
責任限定契約を締結することができるのは、取締役(業務執行取締役等を除く)・監査役・会計監査人です(ただし平成26年会社法改正後)。平成26年改正前の範囲は、社外取締役・社外監査役・会計監査人でした。
すなわち、従前は取締役・監査役については「社外取締役・社外監査役」に限定されていましたが、平成26年の会社法改正で、取締役については業務執行を行わない社内取締役も対象とされ、監査役は社内外を問わず対象となりました。
定款の定め
定款においてその旨を定めておく必要があります(会社法427条1項[条文表示])。例えば以下のような規定を定款に置くことが考えられます。
第○条 当会社は、会社法427条1項の規定に基づき、社外取締役との間で会社法423条1項の賠償責任を限定する契約を締結することができる。ただし、当該契約に基づく賠償責任の限度額は、法令が定める額とする。
なお、監査役設置会社又は委員会設置会社については、当該定款の定めをなすために定款変更の議案を株主総会に提出するにあたって、各監査役又は各監査(等)委員の同意が必要です(会社法427条3項[条文表示]、425条3項[条文表示])。
過失の程度
善管注意義務違反に問われている取締役の職務遂行について、「善意かつ重過失がないこと」である必要があります。
つまり、取締役の判断や職務遂行について、任務違反であることを認識していたとき(つまり「悪意」)や、重大な不注意で認識できなったとき(つまり「善意だが重過失あり」)のときは免責されません。
責任限定の範囲
前記3個の責任の限定の制度はいずれも無制限ではありません。一定の範囲があります。具体的には、以下のような「最低責任限度額」という最低限度の責任額が定められています(会社法425条1項[条文表示]。なお以下は、平成26年会社法改正後のものです。
・代表取締役・代表執行役・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・年間の報酬等の6倍
・代表取締役以外の取締役(業務執行取締役)/代表執行役以外の執行役・・年間の報酬等の4倍
・前記を除く取締役・監査役・会計監査人・・・・・・・・・・・・・・・・年間の報酬等の2倍
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