IT・システム開発関連契約と収入印紙
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このページでは、システム開発委託契約と収入印紙について解説します。
なお、システム開発委託契約の主要な条項の一覧は、こちらからご覧になれます。
収入印紙と契約についての基礎
収入印紙は紙の契約書に必要
収入印紙は、「課税文書」に対して課税される税金です。それで例えば、紙ではないPDFデータや、メールのやり取りで行った合意については、わざわざ印刷して収入印紙を貼る必要はありません。
もっとも、将来の紛争の際には契約書が最も重要な証拠となることを考えると、収入印紙を節約することばかりを考えて押印した契約書をあえて作らない、という選択肢が妥当なのかは慎重に考えるべきです。
収入印紙と契約書の効力
では、うっかりと印紙を貼り忘れた場合、その契約書は無効となってしまうのでしょうか。結論的にはそのようなことはありません。
それは、契約書に印紙を貼るべき義務は、あくまでも税法上の義務に過ぎないからです。民事上の効力は、契約書における記名押印の有無、締結者の権限、契約書の規定によって判断されます。
ただし、契約書は無効とはならないものの、収入印紙を貼付すべきものに貼付しないと、納税義務の不履行となり、ペナルティが課せられることになりますから注意が必要です。
ソフトウェア・システム関連契約と収入印紙
以下、契約の種類ごとに、収入印紙の要否を検討します。以下、契約の内容ごとに細かく見ていきます。
ソフトウェア開発委託契約(単発契約)
ソフトウェア開発委託契約では、印紙が必要でしょうか。必要となる場合が多いといえます。
ソフトウェア・システム全体の開発委託の場合
まず、ソフトウェアの全部の開発委託(つまり、要件定義から製造までのすべてのフェーズを一括して委託する場合)は、特段の事情がない限り請負契約の性質を持つと考えられます。
そのため、請負に関する文書(2号文書)に該当すると考えられます。
なお、印紙の金額は、平成27年4月1日現在、以下のようになっています。
記載された契約金額 | 税額 | |
---|---|---|
1万円未満のもの | 非課税 | |
1万円以上 | 100万円以下のもの | 200円 |
100万円を超え | 200万円以下のもの | 400円 |
200万円を超え | 300万円以下のもの | 1,000円 |
300万円を超え | 500万円以下のもの | 2,000円 |
500万円を超え | 1,000万円以下のもの | 1万円 |
1,000万円を超え | 5,000万円以下のもの | 2万円 |
5,000万円を超え | 1億円以下のもの | 6万円 |
1億円を超え | 5億円以下のもの | 10万円 |
5億円を超え | 10億円以下のもの | 20万円 |
10億円を超え | 50億円以下のもの | 40万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 | |
契約金額の記載のないもの | 200円 |
開発工程(フェーズ)ごとに個別契約を結ぶ多段階方式の場合
他方、従来多かったソフトウェアの全部の開発委託ではなく、開発工程・開発フェーズごとに個別契約を結ぶ方式の場合、別の考慮が必要となります。
それは、フェーズによって契約の性質が異なるからです。まず、要件定義・基本設計(外部設計)については、準委任契約となることが通常であり、フェーズごとに個別契約書を作成する場合もそれを前提とすることが多いと思われます。それを前提とすれば、これら契約書は2号文書である請負契約に該当しないと考えられ、かつ、他の課税文書にも該当しないことから、通常は印紙は不要と考えられます。
ただし、ただし契約内容から請負と解釈される場合もあります。また、成果物の著作権が委託側に譲渡されるという定めがある場合は、第1号の1文書(無体財産権の譲渡に関する契約書)にも該当する可能性があります。
他方、詳細設計(内部設計)や、製造(プログラミング)の委託に関する個別契約は、請負契約として、2号文書に該当することが多いと考えられます。よってこの場合、収入印紙の貼付が必要となります。金額は前記のとおりです。
基本契約と個別契約とを別個に締結する場合
複数の開発案件や継続的な開発案件の取引の可能性がある場合に、複数の案件に共通する通則を定めるためにソフトウェア開発委託基本契約を締結し、次いで案件ごとに、又は開発フェーズごとに個別契約を締結するという実務も広く見られます。
こうした場合の考え方について見ていきます。
開発業務委託基本契約について
これは「継続的取引の基本となる契約書」(7号文書)に該当することが多いと思われます(要件次第です)。
なぜなら、この契約は、7号文書の要件たる「営業者・・の間において、・・請負・・に関する2以上の取引を継続して行うため作成される契約書で、当該2以上の取引に共通して適用される取引条件のうち目的物の種類、取扱数量、単価、対価の支払方法、債務不履行の場合の損害賠償の方法又は再販売価格を定めるもの」に該当することが多いからです。
そしてこの場合、契約金額にかかわらず一律4,000円の印紙税額となります。
ただし、もっぱらSES取引などの準委任取引を前提にした基本契約であり、基本契約の中で請負の要素が全くない場合には印紙が不要となります。
個別契約について
個別契約については、開発工程のうちどのフェーズを対象としているかによって異なります。
開発工程全体を網羅する個別契約
この場合については、「ソフトウェア・システム全体の開発委託の場合」をご覧ください。
開発工程のある部分を対象とした個別契約
この場合については、「開発工程(フェーズ)ごとに個別契約を結ぶ多段階方式の場合」をご覧ください。
ソフトウェアの保守契約と収入印紙
では、ソフトウェアやシステム保守契約では、収入印紙は必要でしょうか。結論的にはその内容次第ということになります。
例えば、保守の内容に、ソフトウェアの不具合の修正や補修作業がある場合、通常は仕事の完成を約する請負契約が含まれると解釈されますから、単発的なものなら請負に関する文書(2号文書)に該当する可能性が高いと考えられます。この場合、前述のように契約金額に応じた収入印紙が必要となります。また、継続的に保守作業を行う基本契約であれば、継続的取引の基本となる契約書(7号文書)に該当することが多いと考えられます。
他方、保守の内容が、操作のサポートやアドバイス、バージョンアップ情報の提供等であれば、仕事の完成を約する契約ではなく、準委任契約となります。この場合、通常は印紙は不要と考えられます。ただし、成果物の著作権が委託側に譲渡されるという定めがある場合は、第1号の1文書(無体財産権の譲渡に関する契約書)にも該当する可能性があります。
他のIT関連契約と収入印紙
以下、ソフトウェア・システム関連の契約以外の主な契約について、収入印紙の要否を見ていきたいと思います。
ソフトウェア・ライセンス契約
ソフトウェアライセンス契約は、通常は印紙は不要です。ソフトウェアのライセンスは、ソフトウェアという著作物の利用を、著作権に基づいて許諾する契約です。
そして、著作権を含めた無体財産権に関する契約のうち、無体財産権の「譲渡」に関する契約書は、印紙税法の課税文書(1号文書)ですが、無体財産権の許諾については、どの課税文書にも該当しないからです。
ウェブサービス利用契約
ウェブサービス、ASPサービス、SaaSといった、ネット上でサービスを提供する契約書については、通常は印紙は不要と考えられます。
それは、これらの契約は、仕事の完成を目的とする「請負」ではなく、前述の「準委任契約」と解釈されることが多いからです。
ホスティングサービス・ハウジングサービス契約
ホスティングサービスに関する契約書や、データセンターのラック、電源、回線、設備を提供するハウジングサービスについても、通常は印紙は不要と考えられます。
なぜなら、前者は「ホスティング」というサービスを提供するものであって準委任契約だからです。また後者は、サービスを提供する準委任契約の側面と、建物のスペースや機器を貸し出すという賃貸借契約の側面がありますが、建物や動産の賃貸借契約も印紙税法の課税文書には該当しないからです。
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