SES契約の法律問題・委託と派遣の区別

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SES契約(システムエンジニアリングサービス契約)の概要

SES契約とは

 「SES契約」とは何でしょうか。「SES」とは「System Engineering Service」の頭文字から取った略称です。そして、簡単にいえば、客先の開発現場において、エンジニアとしての技術・役務(サービス)を提供するという契約です。

 また、多くの場合、SES契約の対価は、エンジニアの能力・経験を考慮した単価に作業時間を乗じて定められます。あるいは、一定の幅で1ヶ月の標準の作業時間を定めた上で、月額で単価を定めることも実務上は見られます。

SES契約の法的性質

 SES契約の法的性質としては「準委任契約」と考えられています。

 依頼を受けて他者の仕事を行う契約には、大きく分けると「請負契約」と「準委任契約」があります。そして、「請負契約」は、仕事完成の義務を負い、仕事が完成しないと報酬が請求できません。

 他方、準委任契約は、成果物の完成は目的としていません。仕事を行う側は、結果にかかわらず、標準的な能力と注意力をもって業務を行えば報酬が請求できるという契約であるところ、SES契約は、所定の時間、技術やサービスを提供すれば報酬がもらえるというものだからです。

SES契約の法律上の基本的な問題

SES契約と派遣法の抵触の問題

 SES契約の問題は、派遣法との抵触の可能性です。言い換えれば、「偽装請負」と判断されるリスクが問題となります。

 ここで「偽装請負」とは、実質・実態は労働者派遣であるにもかかわらず、契約の形式として、請負契約や業務委託契約を装うものをいいます。

 そこで本ページでは、「請負・委託」と「派遣」の区別についての基本的な考え方をご説明します。

委託と派遣の区別の考え方

 ある取引が委託なのか労働者派遣なのかをどのように判別するのでしょうか。

 この点は、契約書のタイトルや形式で決まるものではありません。むしろ、取引や業務遂行の実態に照らして、委託か労働者派遣かが判断されます。

 そこで以下、それぞれの取引の特徴を概観し、両者の区別のポイントを見ていきたいと思います。

委託とは

 委託とは、受託事業者が、委託者とは独立した事業者として、自己の判断と責任において自ら業務に従事することをいいます。

 そして、受託事業者は、自己の従業員については自己の指揮命令のもとで業務に従事させるものであり、業務の遂行方法につき、受託事業者の個々の従業員が、委託事業者から指揮命令などを受けることは原則としてありません。

労働者派遣とは

 他方、労働者派遣の場合、派遣先事業者は、自社で労務を提供する、必要な能力を備えた人を使用することを望み、派遣元事業者は、派遣先事業者のこうしたニーズに合致した人材を派遣します。

 そして、派遣先事業者は、自社の従業員と同様に、派遣社員に対しても、直接に指揮・命令をして自社の業務を遂行させます。この場合、派遣元事業者は、派遣社員の行った業務の成果ではなく、派遣社員の労働時間に応じた対価(派遣料金)の支払を受けます。

区別のポイント

 以上のとおり、委託と労働者派遣は取引の内容が異なります。そのため、取引の実態に照らし、主に以下のような特徴から区別が可能とされています。

従業員に対する指揮命令

 労働者派遣の場合、派遣労働者は、派遣先の直接雇用労働者と同様、派遣先から業務の指揮命令を直接受けることになります。他方、委託の場合、労働者派遣と異なり、労働者は、自己を雇用する受託事業者からのみ指揮命令を受けます。

 言い換えれば、受託事業者の労働者は、受託事業者の一員として、受託事業者の指揮命令のもと委託業務を行います。それで、注文者・委託事業者は、委託先事業者自体に対し、委託業務について指示することはできますが、委託先事業者の要員に対しては直接指揮命令できない、ということになります。

 したがって、委託事業者が受託者に指示や要請を出す場合、受託者の現場責任者に対して行う必要があります。

 そしてこの「誰が指揮命令するか」という点は、両者の相違を大きく特徴づけるものの一つといえます。

労務管理の独立性

 また、労務管理につき、受託事業者が、委託事業者から独立して行っているか否かも考慮されます。委託と判断されるためには、具体的には、受託事業者が、業務の遂行に関する指示・評価、労働時間の管理、秩序維持・配置転換の決定等につき、自ら行うことが原則として必要とされています。

事業上の独立性

 また、請負又は委託と判断されるためには、事業上の独立性という観点からは、原則として以下が必要とされています。

 受託事業者が、自己責任により資金を調達・支弁し、自己の有する規格・技術に基づいて業務処理することです。さらに、受託事業者が、事業主としての法律上の責任を負っていることも重要と考えられます。

 また、受託事業者は、器材等を自ら調達することが本来の委託業務のあり方です。それで、委託元の設備や機器を使用する場合、委託契約とは別に賃貸借契約を結ぶなどの対応が必要となると考えられます。

偽装請負と認定された場合のリスクなど

 「委託」「請負」としてなされた取引が、「労働者派遣」であると認定される場合、どのようなリスクがあるでしょうか。

 この場合には、契約の名称や形式に関わらず、当該取引について労働者派遣法の適用を受けることとなります。それで、受託事業者は、「無許可」「無登録」による派遣を行っていたという理由で労働者派遣法違反を問われることになり、刑事罰(1年以下の懲役又は100万円以下の罰金)を受ける可能性もあります。また委託事業者も、「派遣先事業者」と認定され、そうすると、労働者派遣法に定める派遣先事業者の義務を果たしていないという理由で刑事罰に問われるおそれもあります。

 また、偽装請負という状態で労働災害が発生した場合には、受託事業者(派遣元)だけでなく、委託事業者(派遣先)も責任を負うこととなります。それは、実態が労働者派遣と認定されれば、委託事業者(派遣先)が、当該派遣労働者に関する労働安全衛生上の義務を負うことになるからです。

 


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