クラウドサービスの利用規約のサンプルとポイント
最近はクラウド上でソフトウェアやサービスを提供する形態は非常に多くなっています。この場合、自社のリスクを適正なレベルに抑えリスクをコントロールするための一つの重要な要素は、適切な利用規約を作成して運用することです。
ここでは、クラウドサービスに関する利用規約のポイントや作成・運用上の留意点について、まずは利用規約の法的拘束力などについて検討した後、具体的な条項例も交えて解説いたします。
クラウドサービス利用規約と法的拘束力
問題の所在
クラウドサービスの利用規約では、BtoBを中心に紙面に捺印するという従来の方法も散見されるものの、利用開始前の登録や申込の段階で、利用規約を画面に表示し、ユーザーが「同意」ボタンを押したりチェックボックスをオンにする、などの方法が広く見られます。
では、印鑑もサインもない、そのような方法で、利用規約が法的拘束力を持つのでしょうか。
画面での同意が法的拘束力を持つために
この点、画面上での同意という方式であっても、利用規約への同意というユーザーの意思が明確であるといえれば、通常は、当該利用規約には法的拘束力があるといって差し支えないと考えられます。
それは、契約や合意は、法律で特に定めがない限りは、口頭も含め形式を問わないからです(ただし、口頭の契約は通常は立証が困難であり決して好ましくありません)。したがって、画面操作による契約や合意も法律上は許されるのです。
ただし、画面構成や利用規約の表示の方法から、利用規約があらかじめユーザーに対して適切に表示されていることが必要と考えられます。また、ユーザーが、サービスを利用するにあたり、その利用規約に同意する旨をユーザーの能動的行為(ボタンを押すとか)によって示してもらうようにすることも重要と考えます。
具体例
もう少し具体的にいえば、登録手続の画面遷移中に、利用規約を画面中に明確に表示し、かつスクロールなどして閲覧しないと最終登録ができないようにするようにできるかもしれません。また、利用規約を表示したと同時に、または次の画面で同意ボタンを押さないと登録が完了しないようにするといった方法も考えられます。
他方、利用規約を画面に表示せず、サイト中の目立たない場所に利用規約へのリンクを張り付けているだけであって、かつ登録手続の中で利用規約を閲覧しなくても登録までできてしまうような場合には、利用規約の法的拘束力に疑義が生じます。
なお、以上の例は単なる例示であり、法的拘束力の有無の境界線を示すという意図は全くありませんので、ご留意ください。
クラウドサービス利用規約作成上の留意点とチェックポイント
利用規約の個別の検討の必要性
今はインターネットで多くの利用規約が公開されているため、どこかの規約をコピーして使用すればいいのではないか、と思われるかもしれません。
しかし、利用規約は、自社のサービスの法的な側面の設計図・説明書ともえいます。言い換えれば、利用規約の作成は、サービスの目的、ストラクチャーやスキーム、サービスのフロー、サービスの円滑な運用、想定されるリスクの軽減や回避といった目的のための諸要素をルールとして具体化する作業です。
しかし、他社が作成した利用規約をそのまま使うならば、自社のサービスのストラクチャーやフローに沿わない規定となって運用との間に大きなギャップが生じるかもしれません。また、他社の目的や事情に合致したルールも、自社の実情には合わず、それ故に不利益を被ったりすることもありえます。
それで、利用規約は、提供するサービスやソフトウェアの目的・構造・流れ、課金方法や内容、想定される利用者の性質、扱うデータの性質、想定されるリスクの内容や程度、リスク回避の方策、サービス提供の継続性などの事情を考慮して作成することが望ましいといえます。
クラウドサービス利用規約のチェックポイント
では、クラウドサービスの利用規約の作成にあたってはどんな点をポイントとして考慮すべきでしょうか。主なポイントの例を挙げると、以下のようなものが考えられます(すべてを網羅しているものではなく、ケースによっては不要なものもあります)。
- サービスの利用に際しての利用規約への同意の必要性
- 利用規約の適用範囲
- 用語の定義
- サービス利用可能な資格
- サービスの申込方法・登録方法
- サービス申込を拒絶できる理由
- 有料の場合の、サービスの利用料金、料金の対象、課金単位や計算方法、支払方法
- 契約者が法人や団体などの場合利用可能な従業員の範囲
- サービス利用期間と更新
- サービス解約可能な時期、解約の方法
- ID・パスワードなどの管理
- サービスに含まれるコンテンツの権利の帰属
- ユーザーの禁止事項
- 利用規約違反に対するペナルティ
- 損害賠償とその制限に関する事項
- サービスレベルに関する事項
- アカウントの停止・削除に関する事項
- 非保証に関する事項
- 免責に関する事項
- 個人情報の取扱
- 個人情報のほかサービスの利用で得られたデータの利用
- サービスの変更に関する事項
- サービスの中断、中止、終了に関する事項
- 利用規約の変更とその方法
- 自社から契約者やユーザーへの通知の方法・通知の効力発生時期
- ユーザーの地位譲渡の禁止
- 反社会的勢力の排除
- 準拠法、紛争時の合意管轄裁判所
クラウドサービス利用規約の規定ポイント
以下、クラウドサービス利用規約の主要な規定の一部とそのポイントについて解説します。なお、以下のサンプルはもっぱら条項の説明が目的ですので、網羅性・完全性・各条項の整合性については検証していません。
それでこれを雛形(ひな形)として使用することはご遠慮ください。
サービスの利用に際しての利用規約への同意の必要性
規定例
第●条(利用規約の適用) |
条項のポイント
利用規約の法的拘束力があることを利用者が理解するためにも、サービスの利用について利用規約への同意が前提条件となることを明記します。
用語の定義
規定例
第●条(用語の定義) |
条項のポイント
用語を定義します。定義の方法としては、この例のように、早い段階で「定義」条項を置き、まとめて定義する方法のほか、独立した定義条項を置かず、定義語が登場する都度定義する方法があります。
いずれの方法も可能ですが、前者の場合、用語の定義がすぐに参照できるというメリットがあります。
サービス利用可能な資格
規定例
第●条(契約者の資格) |
条項のポイント
自社のサービスの対象者を明示することが実務上多く見られます。このサンプルでは、法人や団体向けサービスという位置づけとしています。
サービスの申込方法・登録方法
規定例
第●条(利用契約の申込) |
条項のポイント
サービス利用申込方法を記載します。これについては、利用規約に具体的に記述する方法もありますし、利用規約では「当社所定の方法」といった抽象的な定め方にとどめ、登録画面等で詳細を案内するという定め方もできます。
また、申込に対する承諾の手順のほか、利用契約が成立する時点も明確に定めます。
サービス申込を拒絶できる理由
規定例
第●条(利用契約を謝絶する場合) |
条項のポイント
サービス利用申込を拒絶できる理由をを記載します。できるだけ具体的かつ網羅的に書く必要がありますが、最後に、一般的抽象的に申込を断ることができる事由も記載することが少なくありません。
実は、ある当事者が、別の当事者との取引や契約を開始するか否かは、独禁法などの法令に違反するという例外的な場合を除き、自由に判断することができます。そうすると、サービス利用申込を拒否できる事由を書く必要は本来はないはずです。しかし、こうした事由を明示的に記載することで、現場での迅速な判断が可能になりますし、そもそも申込できない当事者の無用な申込を抑制することに繋がるという意味で、実益はあります。
また、申込を拒絶する理由を開示する義務がないという点も記載することが、実務上多く見られます。
サービスの利用料金、料金の対象、課金単位や計算方法、支払方法
規定例
第●条(利用料金等) |
条項のポイント
サービス利用料金の支払義務と支払方法を記載します。もっとも、これらを利用規約に具体的に記述する方法もありますが、別途見積書と注文書に委ねる場合、申込手続において表示される画面に委ねる場合もあります。
また、料金遅延の場合の遅延損害金は、規約に定めがない限り、民法又は商法によって5%又は6%ですが、利用規約でこれよりも高い料率を定めることもできます。
契約者が法人や団体などの場合利用可能な従業員の範囲
規定例
第●条(利用者の範囲) |
条項のポイント
クラウドサービスについて法人に提供する場合、1契約あたりで利用できる従業員数を制限するという場合があります。この場合、制限の内容を明示します。
サービス利用期間と更新
規定例
第●条(利用期間・解約) |
条項のポイント
利用契約(サービス提供)の期間や更新の方法を定めます。また、利用期間を特に定めないでおき、中途解約の規定で対応する例もあります。
また、契約期間を定めた上で中途解約の規定がない場合、通常は、中途解約はできないと解釈されますが、中途解約不可ということを明記して誤解のないようにすることもあります。
サービス解約可能な時期、解約の方法
規定例
第●条(利用契約の解約) |
条項のポイント
ユーザーによるサービスの解約を認める場合、解約通知の方法、解約の効力発生時期を明記します。
ID・パスワードなどの管理
規定例
第●条(認証情報の管理) |
条項のポイント
ユーザーの義務として、与えられたID・パスワードなどの認証情報を、契約者の責任において管理し、第三者に開示しないといった規定が置かれることは少なくありません。また、ID・パスワードが紛失・漏洩した場合の届出・通知義務についても定めます。
またこれに関連して、利用者の同一性の確認についての自社の義務は、認証情報の照合をもって足りるものとし、万一不正使用された場合でも、所定の認証情報による利用である限り自社は責任を負わないといった規定を置くことも、自社のプロテクトの観点から重要です。
サービスに含まれるコンテンツの権利の帰属
規定例
第●条(知的財産権の帰属) |
条項のポイント
自社のサービスに含まれるコンテンツに関する権利の帰属について明示します。通常は、自社に帰属することを明示することが多いと思われます。
これに加え、サービスの利用によって、サービスに含まれるコンテンツに関する権利が移転したりサービスを利用するために必要な範囲を超えて権利が許諾されることはない、という点を明示する規定も多く見られます。
ユーザーの禁止事項
規定例
第●条(禁止事項) |
条項のポイント1~禁止事項の列挙
ユーザーが自社のサービスを利用するにあたっての禁止事項を規定します。
具体的な禁止事項に何を書くかは自社のポリシー次第ではあります。ただし、大きく分けるならば、自社や他人の権利を侵害する行為、法令違反行為、自社のサービス運営の妨害になりうる行為などが禁止の対象となることが多いといえます。
しかし、禁止事項についても、自社のサービスの性質や特徴に照らしたリスクを考えて吟味する必要があります。
また、禁止事項の最後に、「その他当社が不適切と判断する行為」といった包括的な規定も設けるケースも少なくありません。しかしながら、こうした抽象的・包括的な禁止行為の規定を契約者に適用して契約解除などの措置を行い、これが裁判で争われた場合、その行為の有効性が認められるかは何ともいえません。想定されうる限り禁止事項は多く列挙しておくことが望ましいと考えられます。
条項のポイント2~禁止事項違反の効果の定め
加えて、禁止事項に違反した場合の効果についても定めておく必要もあります。そうでないと、違反の事実があってもできることが制限されてしまい、禁止事項の実効性がなくなってしまいます。
違反の効果としては、損害賠償、アカウントの一時停止・削除、利用契約の解除などが考えられます。
本ページは執筆中です。加筆し次第、随時公開していきます。
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