不正競争防止法違反行為に対する是正方法

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アウトライン~不正競争行為に対する是正手段

 不正競争防止法に定める不正競争行為がなされた場合、これによって損害を受ける当事者は、どんな是正手段・責任追及の手段を行使できるでしょうか。

 まずは概略からご説明すると、差止請求、損害賠償請求などを含め、以下のような方法があります。

差止請求(3条1項)

 不正競争行為によって営業上の利益を侵害される(おそれのある)者が、侵害の停止又は予防を請求することができます(不正競争防止法3条1項[条文表示])。

 詳細は、こちらの欄をご覧ください。

廃棄除去請求(3条2項)

 侵害行為を構成した物や侵害行為によって生じた物を廃棄すること、侵害行為に供した設備を除却すること、その他必要な行為を請求することができます(不正競争防止法3条2項[条文表示])。

 詳細は、こちらの欄をご覧ください。

信用回復措置(14条)

 営業上の信用を害された者は、侵害した者に対して、信用の回復に必要な措置を取らせることができます(不正競争防止法14条[条文表示])。

 具体的には、謝罪広告を出させること、取引先に対して謝罪文を発送させることなどの方法が、例として考えられます。

 信用回復措置が認められる例の多くは、信用毀損行為(営業誹謗行為)に関するものですので、詳細は、以下をご覧ください。

https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/fukyouhou/index/fuseikyousou_21gou/

損害賠償請求(4条)

 故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者に対しては、損害賠償請求を行うことができます(不正競争防止法4条[条文表示])。

 この点で、不正競争防止法5条は、損害額を推定する規定を定めています。例えば、侵害者が侵害行為により利益を受けた額を、権利者の損害額と推定するといった規定です。これによって、権利者が抱えることの多い、損害額の立証の困難性が大幅に軽減されます。

 詳細は、こちらの欄をご覧ください。

差止請求権の概要

請求権者

 前述のとおり、差止請求ができるのは、「不正競争行為によって営業上の利益を侵害される(おそれのある)者」です。

 そして、差止請求にあたっては、営業上の利益を侵害されるおそれ、つまり利益侵害の発生について相当の可能性があれば足りるとされています。

 例えば、ライナービヤー事件(東京高裁昭和38年5月29日判決) は、「将来利益を侵害される確定的関係ないしは利益侵害の発生につき相当の可能性があれば足りる」と述べました。

 また、マックバーガー事件(最高裁昭和56年10月13日判決)は、不正競争防止法2条1項1号にいう混同の事実が認められる場合には、特段の事情がない限り営業上の利益を害されるおそれがある、と判示しています。

営業上の「利益」

 「事業者が営業上得られる経済的価値をいう。収支計算上の利益が中心となるが、事 業活動における信用・名声・ブランド価値等の事実上の利益を含む」とされています(経済産業省 知的財産政策室編「逐条解説 不正競争防止法[平成 30 年 11 月 29 日施行版]」)。

営業上の利益という場合の「営業」とは

 この場合の「営業」は、利潤を得る目的の営利事業はもちろんのこと、利潤獲得を目的としないものの、経済上収支計算の上に立って行われるべき事業を含む、とされています(京橋中央病院事件・東京地裁昭和37年11月28日判決)。それは、こうした事業であっても、営利事業と同様に不正競争行為からの保護の必要性が認められるからです。

 裁判例の中で「営業」と認められたものには、病院、学校法人のほか、学術、技芸等の振興、発展を目的とする公益法人も含まれます。

廃棄除去請求の概要

アウトライン

 「不正競争行為によって営業上の利益を侵害される(おそれのある)者」は、侵害者に対し、侵害行為を構成した物や侵害行為によって生じた物を廃棄すること、侵害行為に供した設備を除却すること、その他必要な行為を請求することができます(不正競争防止法3条2項[条文表示])。

請求可能な行為

侵害行為を構成した物の廃棄

 これは、侵害行為の必然的内容をなす物をいいます。例えば、不競法2条1項1号の「商品等表示」については、当該表示が付された看板、チラシ、パンフレット、ウェブサイトなどが含まれることがあります。また、営業秘密が問題となるケースでは、営業秘密が記録された書類が含まれます。

侵害の行為に供した設備

 侵害行為の実施に供した設備をいいます。例えば、侵害者の商品の形態が、不競法2条1項1号の「商品等表示」に該当すると判断されたというケースでは、当該商品製造のための金型や、製造装置が含まれることがあります。

その他の侵害の停止又は予防に必要な行為
表示の抹消

 例えば、不競法2条1項1号の「商品等表示」などのケースでは、侵害行為を構成した看板の撤去に代えて、当該表示の抹消を命じることにとどまる場合があります。

 例えば、商号使用差止の仮処分のケースではありますが、東京高裁昭和42年11月9日決定は、「看板および…ひさしの撤去を命じた部分については、これらの物件に表示された『アマンド』という文字の抹消を命じ…れば足りる」と述べました。

登記の抹消

 金沢地方裁判所小松支部昭和48年10月30日判決は、不正競争防止法2条1項1号の周知表示混同惹起行為をなす商号について、登記抹消を認めました。

損害賠償請求

三種類の損害額算定方法

 不正競争行為によって営業上の利益を侵害された場合に請求しうる、また侵害者が責任を負う損害賠償の内容や金額はどのように考えるのでしょうか。この点、不正競争防止法においては、損害額の算定方法を複数定めています。具体的には以下のとおりです。

  • 不競法第5条第1項に基づく請求
      「損害額」=「侵害者の譲渡等数量」×「権利者の単位あたりの利益」
  • 不競法第5条第2項に基づく請求
      「損害額」=「侵害者がその侵害の行為により受けた利益額」と推定
  • 商標法第5条第3項に基づく請求
      「損害額」=「使用料相当額」

前提~損害発生の立証

 まず留意すべき点は、上の不正競争防止法5条各項のいずれの規定も、「損害の額」の認定又は推定規定であり、「損害の発生」まで推定するという規定ではない、という点です。

 したがって、不正競争防止法に基づいて損害賠償請求を行う当事者は、前提として、当該不正競争行為によって、損害が発生したということについての立証が必要と考えられています。

 この点、不正競争行為の類型によっては、損害の発生の立証が困難なケースもあります(品質等誤認惹起行為など)。

損害賠償算定方法1~不競法第5条1項による算定

基本的な考え方

 不正競争防止法5条1項[カーソルを載せて条文表示]による損害額の算定は以下のとおりです。

 すなわち、不正競争行為を行ったものが侵害にかかる商品などを譲渡したときは、その譲渡した商品の数量に、被侵害者が、侵害行為がなければ販売することができた商品の単位数量あたりの利益の額を乗じて得た額を、商標権者の使用の能力に応じた額を超えない限度において、被侵害者が受けた損害の額とすることができるという規定です。

 非常に簡単にいえば、要点は以下のとおりです。

  「損害額」=「侵害者の譲渡等数量」×「被侵害者の単位あたりの利益」

 ただし、上の図式が単純に認められるわけではなく、種々の要件がある点に留意する必要があります。以下この点について簡単にご説明します。

この規定が適用される不正競争行為

 法文において、「第2条第1項第1号から第16号まで又は第22号に掲げる不正競争」とあるとおり、不正競争防止法5条1項が適用される不正競争行為には、以下は含まれません。

 また、営業秘密に関する不正競争行為(2条1項4号から9号)については、「技術上の秘密」に関する不正競争行為のみが対象となります。

「被侵害者の単位あたりの利益」の意味

 上の「被侵害者の単位あたりの利益」とは、いわゆる「限界利益」であると考える裁判例が多いといえます。若干不正確ながら簡単に申し上げると、「限界利益」とは、「被侵害者がその製品を製造、販売するのために追加的に要した費用を売上高から控除したもの」といえます。もっと簡単に要約すれば、「売上高から変動費を控除した利益」と理解しても大きく外れてはいません。

 また、「侵害行為がなければ販売することができた単位数量当たりの利益の額」の算定にあたっての商品の価格は、被侵害者の現実の商品の販売価格ではなく、侵害行為がなかった場合に形成される商品の販売価格を意味する、と考えられています。

相互補完関係の存在

 不正競争防止法5条1項の適用を受けるためには、侵害行為を組成した物と被侵害者の物との間に、「侵害行為がなければ販売することができた」という関係、すなわち市場における補完関係があったことが必要です。

 この補完関係については、個別具体的な販売の態様等も総合的に考慮して認定される、とされています。

 この点、経済産業省の逐条解説には「偽ブランド商品については、購買力の乏しい若年層を対象として、極めて低廉な価格で販売されているような場合には、侵害品と真正品との間で需要者層が大きく異なっており、侵害品と真正品との完全な補完関係を認めることは困難である」といった指摘がされています。

「使用の能力に応じた」の意義

 不競法5条1項の請求については、権利者の「被侵害者の…能力に応じた額を超えない部分」という限定があります。

 これは、被侵害者の実施能力を超える譲渡数量を、被侵害者の損害と考えることは不適当であるとの趣旨による規定です。

 なお、ここでいう「使用の能力」とは、現実の能力に限らず、潜在的な製造能力・販売能力があれば足りると考えられています。

 例えば、大阪地裁平成18年3月30日判決(ヌーブラ事件)においては、被告は、原告商品の輸入が需要に追いつかず欠品状態になっていたため、被告の商品の一定以上の数量が「原告商品の販売能力」を超えていると主張しました。

 これについて裁判所は、被告の商品が販売されていなければ、消費者は欠品状態が解消される時期まで待って原告商品を購入した可能性を否定できず、そのころ以降、原告が原告商品を追加的に販売することが可能であったと考えられる、として、被告の主張を採用しませんでした。

販売することができない事情

考え方

 以上に加え、譲渡数量の全部または一部を被侵害者が販売することができないとする事情があるときは、その事情に相当する数量に応じた額を控除します。この「事情」とは、被侵害者に関するもの以外の事情をいいます。

 例えば、侵害者が、侵害行為を構成する商品を10,000個販売したとします。そして被侵害者は1個について3000円の利益が得られたとします。この場合、不競法5条1項の計算では損害額は30,000,000円となります。

 しかし、何らかの事情で、被侵害者が、前記10,000個のうち5,000個については販売できない事情があると認定されれば、損害額は、5,000台文の15,000,000円となります。

こうした事情は侵害者側が立証する必要があります。その事情の中には次のようなものが含まれます。 

  • 代替品の存在とその影響
  • 侵害者の営業努力
  • 侵害品と商標権者の商品とが競合しないこと
  • 侵害品と被侵害者の商品の価格差
控除部分の数量についての使用料相当額の請求

 上のように、侵害品の数量のうち、被侵害者において「販売することができないとする事情」があるとされる部分の数量については、不競法5条1項に基づく損害額算定の規定は適用されません。

 しかし、裁判例の中には、「販売することができないとする事情」があるとされる部分の数量について、不競法5条3項が補充的に適用され、使用料相当額の賠償が認められたケースがあります(東京地裁平成19年1月26日判決(楽らく針事件)。

 なお、使用料相当額の賠償の考え方は、「不競法第38条3項による算定」の欄をご覧ください。

損害賠償算定方法2~不競法第5条2項による算定

規定の要点

 不競法5条2項[カーソルを載せて条文表示]による損害額は、侵害者がその侵害の行為により利益を受けているとき、その利益の額を被侵害者が受けた損害と推定するという規定です。

 簡単にいえば、要点は以下のとおりです。

  「損害額」=「侵害者がその侵害の行為により受けた利益額」と推定

 以下、不競法5条2項の概要を見ていきたいと思います。

この規定が適用される不正競争行為

 法文においては、不競法5条2項が適用される不正競争行為の種類に制限はありません。したがって、不正競争防止法5条2項の損害の推定規定は、全ての類型の不正競争行為を対象とします。

 ただし、個々の事案においてこの規定が適用されるか否かは、裁判所が個別に判断することになります。

 例えば、不正競争行為の中でも、不正競争防止法2条1項20号の品質等誤認惹起行為については、同法2条1項1号の周知表示混同惹起行為や同項3号の形態模倣行為とは異なり、被侵害者に何らかの意味の独占権が認められているわけではありません。

 したがって、品質等誤認惹起行為については、不正競争行為を行った侵害者の利益が、そのまま被侵害者の損害と推定されるような事案は少ないと考えられます。

侵害者が受けた利益額の意味
考え方

 不競法5条2項に基づき推定される「損害額」は、「侵害者がその侵害の行為により受けた利益額」です。

 ではこの「利益額」とは何を指すのでしょうか。裁判例の中には、粗利益とするもの、純利益を意味するとと解釈するものがありました。

 しかし最近は、「限界利益」という説を意識した考え方の裁判例も出ています。若干正確性を欠きますが、「限界利益」を簡単にいうと、「当該商品の製造、販売のために追加的に要した費用を売上高から控除したもの」といえます。さらに簡単にすれば、「売上高から変動費を控除した利益」と理解しても大きな間違いではありません。

裁判例

東京地裁平成9年2月21日判決(シャベルカー玩具形態事件)
 裁判所は、「推定の前提事実である不正競争行為者が侵害の行為により受けた利益も、被告商品の売上額からその仕入価格等販売のための変動経費のみを控除した額と考えるのが相当であり、被告商品の開発費用、人件費、一般管理費、製造管理費等は控除の対象としない」と述べました。

東京地裁平成18年7月26日判決(ロレックス類似製品事件)
 裁判所は、「被告らが受けた利益の額とは、売上金額から、侵害品 である被告各製品の販売のみのために直接要した費用(以下「変動費」という。) を控除した額とするのが相当である。」と述べました。

推定覆滅事由
考え方

 不競法5条2項は、侵害者がその侵害の行為により受けた利益額を、権利者の損害と「推定する」という規定です。「推定」ですから、侵害者側は、この「推定」を覆す事情を主張立証することで、損害額を減額させることができます。この事情を「推定覆滅事由」といいます。

 どんな事情が推定覆滅事由となるのかについては争いがありますし、不正競争行為の類型によって、様々な推定覆滅事由がありえます。以下の事由は推定覆滅事由となる余地があるものの、例示です。

  • 被侵害者の商品と侵害者の商品の大きな価格差
  • 侵害者独自の営業努力
  • 侵害者の商品の販売状況・販売態様
  • 侵害者商品と被侵害者商品の需要者の相違
  • 不正競争行為と侵害者の売上との無関係性・関係の弱さ
  • 市場占有率
裁判例

 不競法5条2項に定める損害額の推定を覆滅した裁判例の一部を挙げると、以下のようなものがあります。

東京地裁平成18年7月26日判決(ロレックス類似製品事件)
 裁判所は、ロレックスと形態が類似する商品の販売を不正競争行為(2条1項1号)であると判断した件で、「原告各製品と被告各製品との間に大きな価格差があり、需要者が原告各製品のようなブランド品の購入に当たっては、他の生活用品 の購入の際との比較において、商標や製品名に注目する割合が高いことなどの事実によれば・・・被告各製品の販売による侵害者利益の4分の3については、原告がこれを得ることができなかったことの立証があったものとして、推定の覆滅を認めるべき」と述べました。

 また裁判所は、上のとおり推定の覆滅を認めた部分について、不正競争防止法5条3項に基づく使用料相当額として被告製品の売上の10%を賠償として認めました。

名古屋高裁平成19年10月24日判決(氷見うどん事件)
 この事件は、富山県氷見市において製造されていないうどんについて「氷見うどん」等の 表示を付して販売した業者の行為を誤認惹起行為に該当すると判断した事例です。

 裁判所は、原告と被告の市場占有率が合計9割程度であることから、不競法5条2項の推定規定の適用を認めましたが、被告の利益のうち、被告の周知性が寄与した部分は 3 割とするのが相当であり、同寄与部分について推定が覆される、と判断しました。

大阪地裁平成29年1月31日判決(リサイクルトナーカートリッジ事件)
 リサイクルのインクカートリッジについて、リサイクル品を装着すると、原告のプリンターのディスプレイに、「シテイガイノトナーガソウチャクサレテイマス」などの表示がされる、という件で、裁判所は、このリサイクルのカートリッジの販売を不正競争防止法2条1項20号の品質等誤認惹起行為となると判断しました。

 裁判所は、トナーカートリッジについて純正品とリサイクル品では需要者が重複しないように見受けられること、上の表示が被告商品を原告プリンターに装着した後数秒間にすぎないこと、被告商品の販売が品質誤認表示という不正競争と関係なくもたらされていた可能性も大きいことから、被告の受けた利益の金額のうち50%について推定覆滅を認めました。

損害賠償算定方法3~不競法第5条3項による算定

基本的な考え方

 不競法5条3項[カーソルを載せて条文表示]については、被侵害者が、侵害者に対し、使用料相当額の金銭を、自己が受けた損害としてその賠償を請求することができるというものです。

 簡単にいえば、要点は以下のとおりです。

  「損害額」=「使用料相当額」
この規定が適用される不正競争行為

 法文において、「第2条第1項第1号から第9号まで、第11号から第16号まで、第19号又は第22号に掲げる不正競争」とあるとおり、不正競争防止法5条3項が適用される不正競争行為は以下のとおりです。

「受けるべき金銭の額」とは

 不競法5条3項[カーソルを載せて条文表示]に定める、被侵害者が侵害者に対して請求できる「受けるべき金銭の額」とは何でしょうか。

 これは、通常の使用料相当額に拘泥する必要はなく、紛争当事者間の具体的事情を考慮した妥当な使用料相当額であると考えられています。

 もっとも、実務上は、 「受けるべき金銭の額」の算定に当たっては、 その対象について実際に許諾されている例があればその許諾例が参考にされ、また許諾例がない場合にはそれぞれの分野での一般的な相場の料率が参考になると考えられます。

 

 


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