著名表示冒用行為(2条1項2号)
著名表示冒用行為の概要
著名表示冒用行為とは
不正競争防止法2条1項2号[条文表示]は、 自己の商品等表示として、他人の著名な商品等表示と同一あるいは類似の表示を使用し、またはそのような表示が使用された商品を譲渡引渡等することを禁止しています。この場合は、先の混同惹起行為と異なり、混同の要件は不要となります。
以下、著名表示冒用行為の要件を見ていきます。
「商品等表示」とは何か
「商品等表示」とは、商品の出所や営業の主体を表す表示です。例えば、ある主体の業務にかかる商号・商標・標章・商品の容器等を含みます。この場合、商標については登録の有無を問いません。
「著名」とは何か
ここでいう「著名」とはどんな状態をいうのでしょうか。これは不正競争防止法2条1項1号にある「周知」(需要者の間に広く認識されていること)よりも一段と広く知られているもので、全国的に、誰でも知っているようなものをいいます。
「類似」とは何か・「混同」の要件の有無
「類似」については、「容易に著名な商品等表示を想起させるほど類似しているような表示か否かを検討すべき」とした裁判例があります(東京地裁平成20年12月26日判決(黒烏龍茶事件)、東京地裁平成30年3月26日判決(ルイ・ヴィトン製品「モノグラム」事件)。
そして、著名表示冒用行為については、不正競争防止法2条1項1号とは異なり、出所の混同を要件とはしていませんし、「類似」の判断においても出所の混同の有無は判断に影響を与えないとされています。それはなぜでしょうか。
フリーライド・ダイリューション・ポリューションの防止
著名表示冒用行為については、不正競争防止法2条1項1号とは異なり、出所の混同を要件とはしていません。それはなぜでしょうか。
著名な表示は、その著名性のゆえに、独自の名声や顧客吸引力などの価値を有しています。
このような著名表示については、仮に混同が生じないような使用方法であっても、これを無断で使用することによって、この著名表示の価値が希釈化(ダイリューション)されて価値が減少してしまうおそれがあります(例:著名な食品の表示をトイレ用品に使用されるなど)。
また、著名な表示を無断で使用する行為は、著名な表示が有する顧客吸引力などの価値にただ乗り(フリー・ライド)する、アンフェアな行為でもあります。
さらには、使用方法によっては、あるい著名な表示が有する信用や高い顧客吸引力が汚されること(ポリューション)も生じ得ます。以上の理由から、混同の要件は不要であるとされています。
ポリューションの例
例えば、「ポルノディズニーランド事件」(東京地裁昭和59年1月18日判決)という事件があります。これは、不正競争防止法の著名表示冒用行為の規定を使うことのできる前の事件であったため、裁判所は、やや無理な認定のもと、「混同のおそれがある」として差止請求を認めましたが、現在なら、著名表示冒用行為の規定で責任を追求することは可能でしょう。
著名表示冒用行為に関する裁判例
著名表示冒用行為に関する裁判例としては、以下のようなものがあります。
中目黒・歌謡スナック・シャネル事件(東京地裁平成6年4日27日判決)
歌謡スナックの営業表示として「シャネル」を用いることが著名表示冒用行為であると判断されました。
アリナビック事件(大阪地裁平成11年9月16日判決)
「アリナミンA25」という商品名ビタミン製剤を販売している原告が、「アリナビック25」という商品名でビタミン製剤を製造し販売している被告に対し提訴した事件で、裁判所は、双方の表示の類似性を認め、著名表示冒用行為に該当すると判断しました。
J-phone事件(東京高裁平成13年10月25日判決)
通信事業者のブランドと類似している “j-phone.co.jp” のドメイン名を使用し、ウェブサイトにおいて裸体写真や大人の玩具の販売を行うことが著名表示冒用行為と評価されました。
日本マクセル事件(大阪地裁平成16年1月29日判決)
「株式会社日本マクセル」という商号を使用していた被告に対し、原告の「商品等表示」たる、「マクセル」又は「MAXELL」が高い著名性を備えており、「株式会社日本マクセル」の使用は、ダイリューション、フリーライドに該当すると評価されました。
2条1項2号の不正競争行為の適用除外
以下のような場合は、著名表示冒用行為に該当しないとされています。
普通名称・慣用表示の使用
商品(あるいは営業)につき、その商品(営業)の普通名称、又は、同一あるいは類似の商品(営業)について慣用されている商品等表示を普通に用いられる方法で使用し、又は、そのような表示を使用した商品を譲渡したりする場合には、著名表示冒用行為にはなりません(不正競争防止法19条1項1号)。
自己氏名の使用
また、自己の氏名を不正の目的でなく使用するような場合も、著名表示冒用行為にはなりません(不正競争防止法19条1項2号)。
先使用
また、他人の商品等表示が著名になる前からその商品等表示と同一・類似の商品等表示を使用する行為等については、2条1項2号の不正競争行為とはなりません(不正競争防止法19条1項4号)。
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