英文販売店契約(Distributorship Agreement)の解説とサンプル
販売店契約の特徴
販売店契約書のタイトル
本ページでは、英文契約のうち、販売店契約(販売代理店契約)のアウトラインについて解説します。販売店契約は、一般に”Distributorship Agreement”と称されることが多いといえますが、”Distribution Agreement”と称されることもあります。
販売店契約と代理店契約の相違
販売店契約と似た契約に、代理店契約(”Agency Agreement”)があり、英文契約では異なるものと見られています。
一般に、「販売店契約」(Distributorship Agreement)においては、メーカーと販売店契約の取引は、売買取引となります。つまり販売店は、メーカーの商品を自分で仕入れ、商品について自己の名で顧客と売買契約を結んで販売する、という形が原則です。したがって販売店の利益は、仕入価格と販売価格の差額となります。
他方、「代理店契約」(Agency Agreement)の場合、商品の売買契約はメーカーと顧客の間で直接成立し、代理店は、当該商品の売上に応じた手数料(コミッション)を受ける、という形が通常です。
なお、日本語の場合、「販売店契約」と「代理店契約」はさほど厳密に使い分けられておらず、「代理店」という名称ながら、実質は英文契約でいうDistributorと見るべき場合が少なくありません。また日本語だと「販売代理店契約」という場合もあります。
英文販売店契約の規定のポイント
以下、本ページでは、英語による販売店契約(Distributorship Agreement)の主要なポイントについてご説明します。なお、この部分については主要条項の一部の説明ですので、今後必要に応じ加筆する予定です。
なお、以下のサンプルはもっぱら主要条項の趣旨・関連論点の解説を目的としています。それで、契約条項としての完全性や条項間の整合性、また用語の統一性については考慮・検証していません。それで、本ページのサンプルを「雛形(ひな形)」として使用することはご遠慮ください。
販売権の授与
規定例
Article ** (Exclusive Distributorship) 本契約期間中、サプライヤーは、本販売店に対し、対象地域内で、対象製品を宣伝し、販促をし、頒布し、販売し、かつ他の処分を行う独占的な権利を授与する。これら販売等は、本販売店自身によって、又は本販売店が下位の販売店若しくは代理店を指名することによって行うことができる。 |
条項のポイント1~販売権の授与
販売店契約として最も基本的な規定です。この場合、販売権の期間、販売地域、販売権の内容を明示します。
条項のポイント2~独占権・非独占権の明示
授与される販売権が独占的か非独占的なものかを定めます。特に、この点で何の定めがない場合、全体的文脈から別の解釈が導き出される場合を除き、非独占的なものと通常は考えられますので、独占権を得ることを考えている販売店側としては、この独占権を明確にすることは重要です。
サプライヤの販売禁止義務
規定例
Article ** (Supplier’s Obligation Not to Sell) 第*条(サプライヤの販売禁止義務) |
条項のポイント1~メーカーの販売禁止
販売店が独占的販売権を持つ場合に、メーカー・サプライヤが、その地域で製品を販売することができるのかは必ずしも明確ではありません。そのため、この点を契約上明示することが重要です。
サンプルでは、サプライヤの対象地域での販売を禁止する規定となっていますが、例えば、サプライヤの既存客については例外とする、サプライヤが海外の会社で、その海外の取引先について納入先が対象地域内の場合例外を設けるといった様々な規定の仕方があります。
条項のポイント2~引合いに関する処理
販売店の独占的販売権との関係で、サプライヤが該当する引合いを受けた場合の処理を定めることも少なくありません。上のサンプルは、こうした場合の一つの例を示しています。
他の販売店の指名の可否
規定例
Article ** (Appointment of Other Distributors) 第*条(他の販売店の指名) |
条項のポイント~他の販売店・代理店指名の禁止
販売権が独占的販売権であれば、当然、サプライヤ・メーカーは、当該地域内に他の販売店を設置するのは許されません。
したがって、理論的にはこうした規定は不要ともいえるかもしれませんが、独占権の有無は販売店側にとっては非常に重要な規定であるため、念のため規定するということは珍しくありません。
価格
規定例
Article ** (Price) 第*条(他の販売店の指名) |
条項のポイント1~価格条項
取扱製品の価格について定めることがあります。サンプルでは、注文時の価格表によって定める、としていますが、販売店契約書に価格表を添付する方法もあります。
あるいは、価格については、都度の見積によって定めるという方法もありますし、標準小売価格を定め、販売店ごとに掛け率を定めるという定め方もあります。
条項のポイント2~価格変更の条項
価格の変更についても触れる場合があります。サンプルでは、相互の合意で価格表を変更する、としていますが、サプライヤの交渉力が強い場合、サプライヤの
再販
規定例
Article ** (Resale of Products) 第*条(再販) |
条項のポイント1~再販条項
販売店が製品を再販できるのは当然といえば当然です。
この点、メーカー側としては、この再販条項において、販売方法を制限したり、販売先を制限したりすることがあります。このサンプルでは、インターネットやオンライン販売を禁止しています。
条項のポイント2~価格条項
価格については、販売店のようにメーカーから仕入れて再販する方式では、独占禁止法の制約上、販売店の販売価格を指定・制限することは通常は許されません。
ただし、上のサンプルのように、不当廉売を禁止することは通常は許されると考えられます。
在庫維持義務
規定例
Article ** (Stock of Products)
第*条(本製品の在庫) |
条項のポイント~在庫維持義務
販売店が製品を再販するにあたり、メーカーやサプライヤが品切れを起こしていれば、販売に支障が出る上、販売店の信用が低下したり顧客が離れてしまうかもしれません。またその結果、販売店側に落ち度がないのに最低購入数量の未達が生じることもありえます。
それで、販売店サイドの要求から、メーカー側に、在庫維持義務を課す規定を入れることがあります。
商標・ブランド
規定例
Article ** (Use of Brand) |
条項のポイント1~ブランドの使用
販売店が販促を行うに当たり、当該商品のブランドなどを広めることは重要であり、多くの場合、ブランドの使用の権利について触れます。また、独占的販売店であれば、ブランドの使用権も独占的とすることが多いといえます。
条項のポイント2~メーカー側のコントロール
他方、メーカー側としては、自社のブランド価値の維持のためにも、販売店のブランド使用についてきちんとコントロールする必要があります。そのため、実務上は、サンプルの2項のような事前承認を得るという取決めを設けることが少なくありません。
商品の変更
規定例
Article ** (Changes of Products) |
条項のポイント1~メーカー・サプライヤの商品の変更の権利
サプライヤ側が商品の変更を行えるのは当然と考えるかもしれません。確かにその面もありますが、販売店契約によって販売店に、特定の商品についての販売権を授与しているという面を考えると、サプライヤ側による商品の変更は、こうした販売権を損なうものとも取られかねません。
それで、実務上は、上のような規定を入れ、疑義を解消することは望ましいといえます。
条項のポイント2~事前の通知義務
サプライヤ側が商品の変更を行う場合も、販売店側としては、突然に変更されてもいろいろと困る面があると考えるかもしれません。この場合、事前通知義務を定めるように交渉することができます。どの程度前もっての通知義務とするかは、商品の性質によって検討します。
販促資料等
規定例
Article ** (Use of Materials) |
条項のポイント~販促資料の提供
販売店が販促を行うに当たり必要な販促資料の提供と使用について定めます。確かにこのような規定がなくても、サプライヤ・メーカーが販促資料を提供すれば、少なくともそのままの状態で使用できるのは当然ではあります。
しかしながら、サプライヤと販売店側の関係が良好でなくなった場合に著作権侵害等の主張を受けないためにもこうした規定はあった方が望ましいと思います。また、特に資料を翻訳したり、改変するといった必要性があれば、きちんと明記する必要があります。
保証
規定例
Article ** (Warranties) |
条項のポイント1~瑕疵に関する保証
販売店がメーカー・サプライヤに対し、商品に関して瑕疵がないことの保証を求めることは当然と思います。もちろん、民法や商法でも瑕疵担保責任の規定はありますが、国際契約においては瑕疵の保証について明示する規定を設けるべきです。
条項のポイント2~商品性に関する保証
サンプルの2項は、いわゆる商品性や商品の購入目的への適合性の保証を定めたものであり、販売店サイドに少々有利な、サプライヤ側にとっては少々厳しい規定です。このあたりは、きちんとすり合わせが必要な事項かもしれません。
なおこの点、仮にサプライヤ側として、取引商品の商品性についての保証を排除したい場合、その旨を明示的に定めることが望ましく、準拠法によっては必須である場合すらあります。
例えば米国の統一商事法典(Uniform Commercial Code(UCC)は、商品性(Merchantability)についての保証の全部または一部を排除・変更するためには、明瞭に(Conspicuous)記載されていなくてはならないとしています。それで、実務上、保証をは除する規定は、全部大文字で表記するなど目立つような工夫がされています。
最低購入数量
規定例
Article ** (Minimum Purchase Quantities) |
条項のポイント1~最低購入数量
特に販売店に独占的販売権を付与する場合、最低購入数量の定めを置くことが少なくありません。そうしないと、独占権を得ている販売店が販売のための努力をせず、販売地域の販売が不振であっても、サプライヤ側としては当該販売地域内での販売活動を行うことができなくなり、にっちもさっちもいかなるなるからです。
もっとも、販売代理店としては、例えば日本では全く売られていない商品を販売することとしたようなケースでは、最低購入数量の定めは大きなリスク要因ともなりえます。
それで、上のようなサンプルのように、最初の契約期間中は最低購入数量の定めをあえて置かない、というような規定を定めることもあります。
条項のポイント2~最低購入数量未達の場合の効果
最低購入数量を定める場合には、この最低量未達のときに、どのような法律効果を発生させるかを定めておくことも重要となります。
特段の効果を定めず、サプライヤ側が、最低購入数量の達成度合いを、契約の更新の有無の判断材料に使用する、という方法もあります。この場合、契約期間をある程度短めにする必要があると思われます。
また、年度単位の最低購入数量を定め、これが未達の場合には契約解除事由の一つとするとか、最低購入数量と現実購入数量の差分に応じた違約金の支払義務を定めることもあります。
さらに、最低購入数量未達の場合に、サプライヤ側が、当該販売店の独占権を非独占権に変更する権利を持つ、といった規定もあるかもしれません。
英文販売店契約における一般条項
以上のほか、販売店契約(Distributorship Agreement)においても、英文契約で定められることの多い一般条項を含めることが少なくありません。
以下が、こうした一般条項の例です。各項目のリンク先を開くと、各条項についての簡潔な説明をご覧になれます(別ウィンドウ又は別のタブで開きます)。
- Amendment Clause(修正条項)
- Entire Agreement Clause (完全合意条項)
- Non-Assignment Clause(譲渡禁止条項)
- Headings Clause(見出条項)
- Notice Clause(通知条項)
- Governing Law Clause(準拠法条項)
- Arbitration Clause(仲裁条項)
このページは執筆中です。加筆次第随時公開します。
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