景表法~有利誤認表示の規制

「有利誤認表示」の概要

有利誤認表示とは何か

 景品表示法(景表法)4条1項2号は、事業者が、自己の供給する商品・サービスの取引において、価格その他の取引条件について、一般消費者に対して

(ア)実際のものよりも著しく取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に
  誤認されるもの
(イ)競争事業者にかかるものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費
  者に誤認されるもの

であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる表示を禁止しています。これをいわゆる有利誤認表示の禁止といいます。

有利誤認表示に関する行政処分の例

 以下実際に行政処分が出された例をご紹介します。

クレジットカードのキャンペーンに関する事例

 A社は、自社のクレジットカードの新規入会のキャンペーンにおいて、 キャンペーン応募者にクレジットカード利用代金の最大20%(1人当たり上限10万円)のキャッシュバックが受けられるという特典を、ウェブサイト等で宣伝していました。


(消費者庁公表資料から社名等をマスキングの上引用)

  しかし、実際には、キャッシュバックが適用されない例外条件がありましたが、ウェブページでは、同一視野に入る箇所ではなく、表示から離れた最下部に小さく表示されていました。また、1人当たり上限10万円という内容は目立つように表示されていましたが、実際には1回の支払いあたり1万円という上限もありました。それで、消費者庁は有利誤認表示に当たるとして、2020年3月、措置命令を出しました。

エアコンの通販に関する事例

 A社は、カタログ等にて、「A社通常税抜価格 79,800円」、「2万円値引き」等と記載するなど、あたかも、「A社通常税抜価格」が通常販売している価格であり、「値引き後価格」等と称する実際の販売価格が当該通常販売している価格に比して安いかのように表示していました。しかし実際には、「A社通常税抜価格」等と称する価額は、A社において、最近相当期間にわたって販売された実績のないものでした。

  それで、消費者庁は有利誤認表示に当たるとして、2020年12月、課徴金納付命令として、当該商品の売上高の3%にあたる5180万円の支払いを命じました。

動画配信サービスに関する事例

 A社は、ウェブサイト等にて、「動画見放題 月額933円(税抜) 30日間無料お試し」と表示し、配信動画が、条件なく見放題となるかのように示す表示をしていましたが、実際は、条件なく見放題というわけではなく、対象動画は、全動画の12%~27%程度でした。そしてそのような限定条件の表示(いわゆる打消表示については、ウェブサイトでは、「見放題」との記載とは離れた箇所に「見放題」の文字と比較して小さな文字で記載されているなど、消費者の誤認を打ち消すものではありませんでした。

  それで、消費者庁は有利誤認表示に当たるとして、2019年1月、課徴金納付命令として、対象となるサービスの売上高の3%にあたる1億1,753万円の支払いを命じました。

有利誤認表示に対する措置

措置命令

 景表法に違反する不当な表示がなされているという疑いがある場合、消費者庁は、調査を実施し、その結果違反行為が認められた場合、当該行為を行っている事業者に対し「措置命令」をします。

 また、調査の結果違反の事実が認められない場合でも、違反のおそれのある行為について「警告」がされたり、違反につながるおそれのある行為について「注意」の措置がとられることがあります。

課徴金納付命令

 有利誤認表示に関連し、対象期間(3年が上限)の商品やサービスによる売上が5000万円以上ある場合(正確には課徴金の額が150万円以上になる場合)に、課徴金納付命令がなされます(景表法8条1項[カーソルを載せて条文表示]、2項[カーソルを載せて条文表示])。

 ただし、事業者が知らないまま景品表示法に違反してしまった場合であって、知らなかったことについて事業者に過失もない場合は、課徴金納付命令はなされません(景品表示法8条1項ただし書[カーソルを載せて条文表示])。

適格消費者団体による差止請求

 国の認定を受けた民間の適格消費者団体が、事業者に対して、有利誤認表示に該当する広告表示の停止を書面で求めることができます(景表法30条1項[カーソルを載せて条文表示])。

 また、事業者がこの求めに応じないときは、適格消費者団体は、当該事業者に対して、有利誤認表示をした広告表示の停止等(差止)を求める訴訟を起こすことができます。

 例えば、ある適格消費者団体が2017年12月に健康食品販売者に提起した訴訟があります(訴状)。ここでは、ある健康食品が500円で購入できるかのような表示がされていましたが、実際は4回継続購入が必須であり、2回目以降は6480円(税別)での購入が契約内容となっていましたから、1個の単価は4985円となるのが実態でした。

 同事件については、同団体の主張に沿った線での和解がなされたとのことです(和解内容)。

広告表示と前提条件・例外条件の適切な表示

景表法の観点からの考え方

 他社との競争に打ち勝つためにも、広告において、自社の商品やサービスが他社よりも魅力的であることを消費者に訴求すること、そしてその一部として、低価格や割引が広告で強調して表示される場合があるのは理解できます。

 しかし、例えば、価格や割引について一定の前提条件があるというケースは珍しくありません。その前提条件を満たして初めて当該割引が適用される、という場合です。

そしてその場合には、その一定の前提条件を表示する必要があり、かつそれははっきりと分かりやすく表示される必要があります。

 他方、そのような表示が見にくかったり、分かりにくいものである場合、本件のように、景表法に違反する行為として処分の対象となる場合が生じます。特に、措置命令を受け、これが公表されたといった場合には、企業としての信用に無視できないダメージが及び、かえって顧客が離れていく可能性も否定できません。

 このようなリスクを考えると無闇に訴求効果を追求するのみならず、前提条件についてもきちんと分かりやすく伝えることは、コンプライアンスのみならず、長期的視点から企業の利益になるのではないかと思われます。

公正取引委員会のガイドライン

 この点で、公正取引委員会の「見にくい表示に関する実態調査報告書-打消し表示の在り方を中心に-」というガイドラインは参考になるかもしれません。このようなガイドラインを参考にしつつ、法の趣旨に沿った適正な広告を行なうよう留意することは重要ではないかと考えられます。

  http://www.jftc.go.jp/pressrelease/08.june/08061303hontai.pdf

 このガイドラインでは、ある取引条件を広告で強調するとともに打消し表示を行う場合、「当該打消し表示を明りょうに表示することにより、強調表示と打消し表示とを合わせた表示物全体として、その内容又は取引条件が一般消費者に正確に理解されるようなものでなければならない」と述べ、具体的には以下に例示されるような点に留意するようにと述べています(なお、すべてを網羅的に述べているわけではありませんので、詳細は上記ガイドラインをご覧ください)。

(ア) 打消し表示の配置箇所

   打消し表示は、強調表示に近接した箇所に併記することが最も望ましいとされています。

(イ)強調表示の文字と打消し表示の文字の大きさのバランス

 強調表示の文字の大きさとのバランスの上で表示することが重要であるとされています。例えば、強調表示と同一の大きさにする、強調表示と著しく異ならない程度の文字の大きさとすることがその一例であるとされています。

(ウ)  打消し表示の文字の大きさ

 文字の大きさが著しく小さい場合には一般消費者が打消し表示を見落としてしまう可能性が残るため、最低でも8ポイント以上の大きさで表示することが必要であるとされています。

 


本稿は執筆途中です。加筆し次第順次公開します。



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