8.2 他者から受ける著作権侵害主張への対応
他者から著作権侵害の警告を受けた場合
著作権侵害紛争増加の背景
報道や出版などの紙媒体や電波媒体に加え、インターネットによって多くの個人や会社が情報発信をするようになり、著作権侵害の紛争も増加しています。それである日、他者から、「当社の著作権を侵害している」との主張を受け、使用の中止や損害賠償の請求を受けることがあるかもしれません。
この場合、どのように対処すべきでしょうか。以下、他者から著作権、著作隣接権、著作者人格権侵害の警告を受けた場合の対応のポイントについて、実務的視点から解説します。
自己判断の危険
著作権侵害の警告書が送られた場合、まずは慌てないことが重要です。また、自己判断で行動しないことはもっと重要です。
例えば、警告書を受け取った際、侵害はやむをえないと考え、慌てて警告書記載のとおり使用を中止し、ウェブサイトを書き換え、さらには警告書を送付してきた相手方に対して謝罪の書面を送る、といった対応をするかもしれません。
しかし、警告を発した第三者の主張する著作物は実は著作権法上著作物性がないということがあります。また相手方は「類似している」というものの、法的には類似していないと評価できる可能性もあります。また、第三者の著作物を知らずに自社の著作物がたまたま類似してしまったという場合であれば侵害とはいえませんし、他の理由から実は侵害ではないというケースもあります。
以上の理由から、警告書の内容を鵜呑みにして即断で行動することは、実は自社に必要のない大きなコスト負担を与えることになったりするわけです。
したがって、相談料を惜しんで弁護士への相談をせずに慌てて行動することは避けるべきです。仮に結果的に侵害と判断せざるを得ない場合でも、相手方の要求を鵜呑みにするよりもずっと有利な結果で終わり、自社の負担を最小限にすることができるケースもあります。
以下、警告書を受けた場合の対応の手順について実務的な観点から解説します。
検討すべきポイント
警告を受けた場合の判断のポイントの一部をご紹介します。
著作物性の有無
著作権法は、あらゆる制作物や表現物を保護するわけではありません。すなわち、ある表現が著作物となるためには、「創作性」がある必要があります。この創作性とは「思想又は感情を創作的に表現したもの」とされています(著作権法2条1項1号)。
また、著作権で保護されるのは「表現」そのものであって、アイディアそのものは著作権法では保護の対象外です。ですので、相手方が「類似」と主張しているものが、単なるアイディアのレベルでの類似性であれば、著作権法の問題ではない、ということになります。
なお、著作物性に関する詳細は、『「著作物」の概要』のページをご覧ください。
侵害行為該当性
警告者側が「類似している」「権利侵害である」と考えたとしても、法律上は侵害と評価できない場合があります。
著作権侵害で関係する権利の例としては「複製権」「翻案権」などですが、ある行為がこうした権利侵害といえるためには、それぞれの要件を検討する必要があります。詳細は以下のページをご覧ください。
■ 複製権の解説 https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/chosakuken/index/fukuseiken/
■ 翻案権の解説 https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/chosakuken/index/fukuseiken/
損害の発生と因果関係
また、著作権の侵害自体が争えないとしても、請求を受けている損害賠償の金額の妥当性もしっかりと検証します。
例えば警告者は、著作権法114条2項に基づき、侵害行為によって自社が得た利益を損害賠償として請求するかもしれません。この場合には、侵害行為によって実際に被った損害の金額や、損害がないことを立証することができます。
また警告者が著作権法114条3項に基づき使用料相当額の請求をした場合も、使用料の妥当性について争うこともできます。
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