6.4 映画の著作者と著作権者
映画の著作物の著作者
著作者とは、著作物を現実に創作した者です。しかしながら、映画の著作物の著作者は、著作物を創作した者が著作者であるという著作権法の創作主義の原則に対する例外となっています。
つまり、制作、監督、演出、撮影、美術などを担当して、映画著作物の全体的形成に創作的に寄与した者が著作者とされます(著作権法16条[カーソルを載せて条文表示])。
その理由は、映画著作物の制作には大勢の人が関与するところ、その全員が著作者になると規定した場合、権利行使が困難になる上に当該映画の著作物の利用にあたっても複雑な権利処理が必要となり、映画の流通を阻害することとなるからです。それで、映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者だけを著作者と定めたわけです。
そしてこの「全体的形成に創作的に寄与した者」とは、映画著作物に対して一貫したイメージを持ちながら、創作活動の全体にわたって関与し、参画した者(モダン・オーサー)のことをいい、映画監督がこれに当たることが多いと考えられますが、これに限られるものではありません。名前だけ映画監督となっていても、創作面において実質的に製作過程を統括していなければ、著作者とはなりません。
映画著作物の著作権者
著作権法は、映画の著作物の著作権につき独特の定めをしています。以下、映画の用途に応じて解説します。
劇場用映画等の場合
著作権法の規定
後述の放送用や有線放送用の映画を除き、映画の著作物には著作権法29条1項[カーソルを載せて条文表示]でが適用されます。同項は、その著作者が、映画製作者(多くは映画会社)に対して当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、映画の著作権は当該映画製作者(多くは映画会社)に帰属すると定められています。
映画製作者とは
ここで「映画製作者」とは、映画著作物の製作に発意と責任を有する者をいいます(著作権法2条1項10号[カーソルを載せて条文表示])。
そして、「製作に発意と責任を有する者」とは、映画製作に関する収支計算とリスクの負担のもと、各種契約の主体として映画製作を遂行して完成に責任を負う者をいうとされます。
そのため、こうした「映画製作者」は、通常は映画会社であり、映画監督等の著作者は、映画会社等との間で映画の製作に参加約束をするのが普通です。それで劇場用映画の著作権は普通は映画会社に帰属します。
他方、映画製作を「発意」しただけで、その制作を映画会社に委託した者は、映画製作者とはなりません。それで、例えば映画製作を委託し、著作権を自社に帰属させたい場合、契約においてその点を明示する必要があります。
職務著作と映画
著作権法29条1項は、「職務著作による映画」と「放送用映画」には適用されません(29条1項の括弧書)。
「職務著作による映画」としては、会社が従業員に制作させる映画があります。この場合、番組の全体的形成に創作的に寄与した者(監督等)が著作者となることはなく、映画会社が著作権者となるだけでなく、著作者となりともなります。放送用映画については次項において解説します。
放送用映画の場合(有線放送事業者を除く)
著作権法の規定
放送用映画の場合、著作権法29条2項[カーソルを載せて条文表示]では、放送に必要な支分権(放送する権利、ネット配信の権利、複製してその複製物を放送事業者に頒布する権利等)だけが放送事業者に帰属し、それ以外の支分権は著作者(著作権法16条)に帰属することになります。
もちろん、著作権法の規定とは異なる定めを契約で行うことは可能であり、例えば映画監督との契約で、すべての支分権を放送事業者に帰属させることも可能です。
適用範囲
著作権法29条2項は、「専ら放送事業者が放送のための技術的手段として」製作される映画に適用されますので、放送用のほか、DVDなどの媒体で販売される予定もあるものは含まれません。
また著作権法29条2項は、「職務著作による映画」には適用されません(29条2項の括弧書)。例えば、番組の全体的形成に創作的に寄与した者(監督等)が、放送会社の従業員であるという場合、監督等が著作者となることはなく、放送会社が著作権者・著作者となります。
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