システム開発のプロジェクトマネジメント義務と協力義務

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システム開発が頓挫した場合の法的責任

システム開発が頓挫した場合に問題となる法的責任

 残念なことに、システム開発に関する契約を締結してプロジェクトを開始したものの、途中で頓挫してしまうことは実務上あることです。

この場合、主として次の2つの法的責任が問題となります。

  • ユーザ(発注側)は契約に定める開発委託料の支払義務を負うか(既払いの場合返還を求められるか)。
  • ベンダ(受注側)は債務不履行責任に基づき損害賠償義務を負うか。

各当事者の義務の概要

 ユーザ(発注側)としては、プロに依頼したシステム開発ができなかったのだからベンダ側が当然に責任を負うだろうと考えるかもしれませんが、そう単純な話ではありません。

 なぜなら、システム開発においては、ユーザ(発注側)は、お金だけ出せばあとは何もしなくてよい、単なる「お客様」であるとはいえないからです。

 むしろシステム開発は、一般的にベンダ(受注側)とユーザ(発注側)の共同作業により進められるものと考えられています。つまり、当事者それぞれが役割を適切かつ適時に果たすことが必要であるということです。そのため、システム開発が頓挫した場合も、各自の義務に照らした帰責事由の有無を分析していく必要があります。

 そして、この店を検討するにあたって裁判例上も用いられてきたのが、ベンダ側のプロジェクト・マネジメント義務と、ユーザ側の協力義務です。

ユーザ(発注側)の協力義務の内容

システム開発におけるユーザ(発注側)の役割

 先に申し上げたとおり、システム開発において、ユーザ(発注側)は、お金だけ出せばあとは何もしなくてよい、単なる「お客様」ではなく、むしろ開発プロジェクトの重要なメンバーであって、自らの役割を果たすべく稼働する必要があるプレーヤーであるといえます。

 では、ユーザ(発注側)の協力義務にはどんなものがあるでしょうか。

的確・適時の情報や資料提供

 計画どおりに、また意図した内容のシステムの構築のためは、ユーザ(発注側)にスムーズなコミュニケーション、情報の提供等が必要です。

 具体的には以下が含まれます。

打合せや会議の開催対応や参加

 タイムリーに機能、仕様、要件を確定するにあたっては、ユーザ(発注側)も、積極的にベンダとの打合せや会議に応じる必要があります。

 また、会議への参加者についても、プロジェクトに必要な主要なメンバーを参加させ、内部での認識齟齬が生じないようにする必要もあります。

 この点、東京地裁平成9年9月24日判決は、ユーザ側も、自ら積極的にベンダ側との打ち合わせに応じ、・・・協力すべき信義則上の義務を負担している、と述べました。

必要な情報や資料の提供

 要望する機能を適時に明確に伝えることが必要です。また、質問や確認事項の問い合わせに対する適時の回答も必要です。

 また、マスタを抽出する等も含め、要件定義や設計のために必要な資料やデータを適宜に提供することも必要です。

開発やテストのための環境のタイムリーな提供

 特定の作業やテストを実行するために、ユーザ(発注側)が環境を整備して提供する必要がある場合があります。この場合、タイムリーにこうした環境の準備と提供が必要となります。

必要な確認や決定をタイムリーに行うこと

仕様等についてのタイムリーな決定

 期限どおりに開発が進むためには、タイムリーに仕様が確定している必要があります。この点、ユーザとしては、仕様、機能、画面、帳票等にについて最終的な決定を遅滞なく行うといったことが必要です。

 また、ベンダから提示される案について速やかに確認すること(例:画面や帳票が要求仕様どおりになっているかの確認)や、納入された成果物について遅滞なく検収を行うといったことも必要です。

仕様凍結後の追加機能の要請の抑制

 いったん仕様が確定(凍結)したにもかかわらず多くの追加開発要望を出すことも協力義務違反となることがあります(札幌高裁平成29年8月31日判決)。

 また、外部設計後にユーザがベンダに多数の変更の申し入れをしたことについて協力義務違反を認めたものもあります(東京高裁平成26年1月15日判決)。

社内の意見集約や決定体制

 前述のような適時かつ的確な情報や資料の提供、要件や仕様の確定、決定事項についての意思決定を行うためには、社内の意見を調整・集約・統一し、意思決定や確認が適切にできるような社内体制の整備も必要となることが少なくありません。

 例えば、以下のような措置が必要となるかもしれません。

  • ベンダ(受注者)との適切なコミニュケーションのための連絡体制の整備や運用
  • 業務知識やある程度の技術知識のあるスタッフをシステム担当者とする
  • 他部署への作業依頼の必要を考えてシステム担当者に然るべき権限を付与する
  • 重要事項についての可否判断が迅速にできるような経営層との迅速な相談体制の構築
  •  この点、前述の札幌高裁の案件では、ユーザが病院であり、ベンダが既存のパッケージ標準機能や他病院で稼働実績のある機能をもって提供することを前提に契約に至ったものの、その後病院の職員や病院内の各WGから現行機能の維持を求めるなどして様々な追加開発要望が出され、それが仕様凍結後も多数発生したというケースであり、ユーザの協力義務違反が認められました。

    ベンダ(受注側)のプロジェクトマネジメント義務の内容

    システム開発におけるベンダ(受注側)の役割

     システム開発において、ベンダ(受注側)はその道のプロです。

     そして、一定規模のソフトウェアを開発する場合は、一連の工程によって開発作業を行う必要があり、そのため、諸作業のスケジュール・工程表を策定した上で、作業環境の整備、技術の確保や人員の配置といったプロジェクト推進体制を構築する必要があります。そのために必要なのが「プロジェクトマネジメント」と呼ばれる業務であり、裁判例でも、ベンダ側の義務として認定されてきました。

     以下、プロジェクトマネジメント義務の具体的な内容について、裁判例を踏まえつつご説明します。ただし裁判例はあくまでも事例判断(当該事例に即した判断)であるため、以下の義務が常に認められるとは限りません。

    プロジェクト全体を管理し進捗させる義務

     策定されたスケジュールに従って開発作業を進めるために、諸作業の進捗状況を把握してコントロールしたり、作業の進捗を阻害するような問題に対して的確に対処したりする必要があります。

     すなわち、納入期限までにシステムを完成させるように契約書や提案書において提示した開発手順や開発手法、作業工程等に従って開発作業を進めるとともに、常に進捗状況を管理し、開発作業を阻害する要因の発見に努め、これに適切に対処する義務があります(東京地裁平成16年3月10日判決)。

    ユーザーへの働きかけの義務

     ベンダは、ユーザのシステム開発へのかかわりについても適切に管理し、システム開発について専門的知識を有しないユーザによって開発作業を阻害する行為がされることのないようユーザに働きかける義務もあります(前記東京地裁判決)。

    追加開発要望に対する納期への影響の説明義務

     例えば、ユーザ側からの追加開発要望や変更要望に対して、当該要求が委託料や納入期限、他の機能の内容等に影響を及ぼすものであった場合等に、ユーザーに対し適時その旨説明して、要求の撤回や追加の委託料の負担、納入期限の延期等を求めるといった義務が発生することがあります(前記東京地裁判決)。

    ユーザによる変更要望への対応

     ユーザ側からの変更申入が不具合・障害の発生の可能性を増加させ、検収終了時期を大幅に遅延させ、個別契約の目的を達成できなくなる場合、ベンダがこれを告知して説明し、なおユーザが変更を求めるときは、これを拒絶する契約上の義務があるとされる場合があります(東京高裁平成26年1月15日判決)。

     他方ベンダ側が追加開発要望に対して納期が守れなくなることを説明し、ユーザから仕様凍結合意を取り付けたことをもって義務を果たしたと判断し、これを超えて、納期を守るためには更なる追加開発要望をしないようユーザを説得したり不当な追加開発要望を毅然と拒否したりする義務まであったとはいえない、と述べた裁判例もあります(札幌高裁平29年8月31日判決)。

    ユーザーが必要な決定ができるようにする義務

    契約締結前の説明義務

     ベンダには、企画・提案段階において、自ら提案するシステムの機能、ユーザーのニーズに対する充足度、システムの開発手法、受注後の開発体制等を検討・検証し、そこから想定されるリスクについてユーザーに説明する義務が発生することがあります(東京高裁平成25年9月26日判決)。

    開発開始後の工程中ユーザによる決定や解決をサポートする義務

     ベンダは、ユーザにおいて意思決定が必要な事項や解決すべき必要のある懸案事項等について、具体的に課題及び期限を示し、決定等が行われない場合に生ずる支障、複数の選択肢があるときは利害得失等を示した上で必要な時期までに決定や解決することができるようサポートする義務を負うことがあります(東京地裁平成16年3月10日判決)。

    開発進行上の重大な問題が生じたときの義務

     当初の想定どおり開発が進まず重大な問題が生じたとき、ベンダが、開発費用、開発スコープ、開発期間を抜本的に見直す必要があることについて説明し、適切な見直しを行わなければ、開発を進めることができないこと、その結果、従来の投入費用、更には今後の費用が無駄になることがあることを具体的に説明し、危機を回避するための適時適切な説明と提言などユーザの適切な判断を促す義務が認められることがあります(前記平成25年東京高裁判決)。

     

     


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