3.1 商標ライセンス契約における留意事項~解説商標法
III-1 商標ライセンス契約における留意事項
自社において他社の商標のライセンスを受ける場合、又は他社に自社の商標をライセンスする場合の注意事項にはどんなものがあるか、本稿ではそのアウトラインをご説明します。
弁護士に相談し、作成してもらうのが最善
ライセンス契約は、一般の契約と異なり、検討しなければならない事項は非常に多く、落とし穴も多い契約です。ですから、多少費用がかかっても、弁護士に相談し、また、弁護士に作成してもらうことが最善でしょう。
契約当事者(ライセンサーとしての適格)
相手方のライセンサーとしての適格をまず確認しなければなりません。例えば、商標権が共有の場合、他の共有者の同意なくしては、ライセンスを供与できませんし、また、第三者に専用実施権を設定した後は、設定行為で定めた範囲内において、他の者に、重ねてライセンス供与ができません。また、上記のほか、相手方が、第三者との間で独占的ライセンス契約を許諾していないか、また、第三者に対して担保設定等をしている事実がないかを確認します。
契約当事者(ライセンシーの範囲)
ライセンシー側では、許諾を受ける会社の範囲が、契約当事会社のほか、親会社、子会社、関連会社を含めるのかを検討します。
ライセンスの態様
専用実施権か、独占的ライセンスか、非独占的ライセンスかを確認します。専用実施権を与える場合、ライセンサーは、自己で当該商標を使用できなくなるので注意が必要です。
独占的ライセンスの場合で、すでに先発の非独占的実施権がある場合には、ライセンサーは、ライセンシーに、先発の前記非独占的実施権を承認してもらう必要がありますし、他方、ライセンシーは、先発の非独占的実施権の有無を確認する必要があります。
また独占的実施権を与えるものの、ライセンサーが、自分で当該商標を使用したいと思う場合には、自己使用権の留保条項を記載する必要があります。
実施範囲・態様
対象商品・サービスの内容・範囲をチェックします。また、商標を使用して何を行えるのかについて、制限が必要であればそれを明示します。
さらに、ライセンシーが、当該商標のほか、 自己の商標をも使用できるのかも定め、使用できる場合には、どのような形で使用しなければならないかを定めないと、ライセンスを受 けた当該商標とライセンシーの自分の商標が区別なく使用され、当該商標の信用・名声・価値が低下しかねませんので注意が必要です。
また、これと関連し、ライセンサーは、ライセンシーに、当該商標を使用する場合、これがライセンスを受けたものであることを表示すべき義務を負わせることも検討すべきです。
品質保証約定
ライセンサー側としては、当該商標を付した製品の品質保証基準の約定を含めることにより、ライセンシーが粗悪品を製造することによるイメージダウン等を防止することができます。
例えば、商品の品質基準を特定したり、見本の提出、検査対象方法時期、原材料・部品の購入先の指定、下請の制限、立入検査条項などを含めることが検討されます。また、当該商標を使用して広告をする場合に、原稿を検査する規定を設けることも検討に値します。 特に、商標ライセンスでは、商標法53条との関係で、ライセンサー側には厳格な管理が求められます。
実施の時期、数量
実施の開始時期、ライセンス期間、数量制限(最大数量の制限、最低数量の制限)、地域制限等もチェックします。
再実施権
再実施権に関する条項を検討します。ライセンシー側にとっては、グループ企業、子会社、販売代理店などの第三者を通じた使用が必要であれば、再許諾権を付与する条項を挿入することを検討します。
ライセンス対価の支払い
ライセンス対価(イニシアル又はロイアルティ)の条項も、慎重な検討が必要です。
ロイヤルティの料率及び計算方法
ロイアルティ(実施料)の決め方は様々ですが、以下、代表的なもののみ記載します。
販売額ロイヤルティ 販売製品価格に対する一定割合で決定されるロイヤルティ。実務上、広く用いられている。
対物ロイヤルティ 単位あたりの実施製品に対する固定額で決定されるロイヤルティ。すなわち、販売のみならず、製造、使用などの実施行為の対象製品に対し、適用される。
定額ロイヤルティ 実施許諾の対価を、一定額で決定する方法。
最低ロイヤルティの有無及び金額
一定の時期、売上にかかわらず、最低限支払うべきロイヤルティの金額を定める場合があります。この場合、適用期間、最低ロイヤルティの金額のほか、ライセンシー側としては、最低実施料支払の免責条項を挿入するよう努力することが必要です。
ロイヤルティの発生時期
この点が不明確ですと、後日問題となる可能性があります。
ロイヤルティの報告と支払
ロイヤルティの報告に関して、記載内容、報告時期について検討します。ロイヤルティの支払方法も明確にします。
ライセンサーの帳簿閲覧、検査権
ライセンサーが、検査権を保持しようとする場合、契約中にその条項を入れる必要があります。また、ライセンシーに帳簿の備付義務を負わせる必要もあります。
商標権が無効となった場合の過去又は将来のロイヤルティの処理
過去に支払った分について不返還の合意が可能です。
侵害者との関係
まず、当該商標が、第三者の有する商標権を侵害 することが明らかになった場合に、ライセンシーのライセンサーに対する報告義務を課す条項を入れることができます。また、商標の使 用が不可能になった場合に、ロイヤルティの免除、減額、延期ができる旨の条項、解約権を行使できる条項も含められます。
他方、第三者がライセンスにかかる商標を侵害した場合のための条項として、権利侵害を行う第三者を発見した場合、ライセンシーがライセンサーに報告を行う義務を定めたり、ライセンサーの侵害調査に、ライセンシーが協力する義務を定めることがあります。
第三者に対するライセンサーの権利行使の義務を定める場合、訴訟費用、弁護士費用の分担の問題、取得した金銭の分配の問題、義務違反の場合の措置についても検討する必要があります。
秘密保持
秘密保持の対象の範囲をどこまでとするか(ライセンス契約 締結の事実又はその条件まで含めるか)、秘密保持の主体として、当事者、役員、従業員、子会社、下請者、販売店、原材料購入先等を 含めること、秘密保持の期間を検討します。
契約の変更、更新、終了
中途解除の条項として、解約事由の内容、解約権行使の方法、当該商標を付した在庫品をどうするのか、イニシアル(一時金)の返還の有無などを検討します。契約期間満了による終了の場合も同様に、在庫品の処理を検討します。不可抗力による履行不能の状態が生じた場合の措置も定めます。
その他の注意事項
以上のほか、準拠法、紛争解決の方法として、裁判とするか仲裁とするか、裁判の場合の管轄裁判所、仲裁の場合の仲裁機関を検討します。
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