2024-04-23 取引契約の中の知財保証条項(1)
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
取引契約の中の知財保証条項(1)
知財高裁令和5年11月18日判決
A社とB社は、B社が製造する商品について売買基本契約を締結していました。
当該契約には、B社が、商品が「第三者の特許権、商標権等の工業所有権に抵触しないことを保証する。万一、抵触した場合には」、B社の「負担と責任において処理解決するものとし」、A社には「損害をかけない」という規定(以下「本件規定」)がありました。
そうしたところ、A社は、当該商品がC社の有する特許権に抵触し、A社が当該商品を販売することができなくなったとして、前記契約規定の債務不履行等に基づいて損害賠償を請求しました。
本件では、B社は、侵害の主張を否定する証拠や情報を集め、A社に提供していましたが、A社は、大企業に抵抗することはできないと判断し、C社から損害賠償請求を受けないことや取引先から在庫の補償が受けられることも考慮し、それ以上の販売事業の継続を断念したという事実がありました。
裁判所は、以下のとおり判断し、A社の請求を認めませんでした。
・本件規定に基づき、B社は、金銭補償義務に加え、A社が第三者から特許権等の抵触について侵害警告を受けたときには、B社の商品にかかる技術的な知見や権利関係等な情報を提供し、A社が情報不足により敗訴したり交渉上不当に不利な状況となって損害が発生することのないよう協力する義務を負う。
・B社が侵害の事実を争っており、B社から技術的な知見や権利関係等の必要な情報の提供が行われていたにもかかわらず、A社が、その経営判断により、侵害主張者との間で自己の不利益を受け入れて当該商品の取扱について合意した場合まで、B社がA社の損害を補償する義務を負うものではない。
解説
1)知財保証条項
本件のような商品売買契約だけでなく、ライセンス契約、開発契約などの契約において、目的物や成果物が第三者の知的財産権を侵害していた、ということがありえます。
そのため、これらの取引の契約書には、こうした事態を念頭に置いて、提供側が、提供物について第三者の知的財産権を侵害しないことを顧客に対して保証し、万一侵害が生じたときに一定の義務や責任を負うことを定める規定を置くことが少なくありません。これを「知財保証条項」ということがあります。
2)知財保証条項における規定の例
今回紹介した事例では、知財保証条項の規定がややシンプルであったこともあって、その解釈について争いが生じました。
この点やはり、有事の事態に契約書が機能するよう、知財保証条項においても必要な規定を設けておくことを検討できます。
本稿では、知財保証条項に含めることを検討できる代表的な条項をご説明します。
3)速やかな通知と防御の機会付与義務
第三者が知的財産権侵害を理由に権利主張をするとき、多くの場合、提供側ではなく、市場において表に出ている顧客側に対して権利主張がされます。そして、知財保証をする側(提供側)としては、自らがまったく関知・関与できない状態で顧客と権利者との間で交渉や訴訟が進んだり、解決に至ってしまうと、適切な防御の機会を失ってしまう可能性があります。
こうした事態を避けるため、提供側の立場としては、第三者からの権利主張が顧客側になされたときは、顧客が、速やかに提供側にそのことを通知をするほか、さらに、提供側に対して、交渉や訴訟において防御する十分な機会を付与するという義務を負う規定を設けることを検討できます。
今回は1つの例だけ取り上げましたが、次稿では、知財保証条項に含めることを検討できる他の規定の例についてご説明する予定です。
お知らせ:The Best Lawyers in Japan 2025に選出されました
Best LawyersによるThe Best Lawyers in Japan 2025において、弊所代表石下雅樹弁護士が、”Intellectual Property Law(知的財産法)部門”に選出されました。
https://www.bestlawyers.com/current-edition/Japan
Best Lawyersによれば、同アワードは、”The Best Lawyers Purely Peer Review”(同地域・同じ法律分野内の弁護士による選出意見を集約して選出する調査手法)によって選出しているとされています。
なお、同部門で選出された他の事務所には、アンダーソン・毛利・友常法律事務所、モリソン・フォスター法律事務所などが含まれています。
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