2023-10-23 取締役会決議のない特許権の譲渡

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今回の事例 取締役会決議のない特許権の譲渡

東京地裁令和5年4月12日判決

 特許登録原簿上、A社がB社に対し、発明の名称を「亜臨界水処理装置」とする特許権を譲渡したことになっていました。

 しかしA社は、取締役会決議がなかったこと、そしてB社がA社において取締役会決議がないことを知り、又は知ることができたから譲渡は無効であると主張しました。

 裁判所は、A社の取締役会における承認決議はなされておらず、B社は、同承認決議がなかったことを知ることができたといえるから、民法93条ただし書の規定を類推して、当該特許権の譲渡は無効であると判断しました。

 なお本件においては、B社の代表者がA社の代表者に、「取締役会決議等の社内決裁手続は取れているんでしょうね?」と尋ね、A社の代表者は、「実質的経営者であるCも了解しているし、社内手続も大丈夫だ。」と述べたという事実は認定しました。しかし、当該特許権がA社にとって重要な財産であること、B社において、A社が競合他社であるB社に対し当該特許権を無償で譲渡することはないと考えるのが通常であるといった事情から、B社はA社に対して取締役会議事録を提出させる等の確認を取ることができたのにしなかった、という事情を判断の根拠としています。

解説

1)取締役会決議が必要な事項

 取締役会設置会社では、取締役会は、一定の重要事項について決定しなければならないと定めています(会社法362条4項)。一部を挙げれば、以下のような事項が含まれます。

・重要な財産の処分及び譲り受け
・多額の借財
・支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止

 では、もし取締役会決議が必要な事項について決議がないまま行われた取引は無効となるのでしょうか。裁判例は、取引の安全を考慮して原則として有効と扱います。しかし、今回の事例のように、相手方が、決議を経ていないことを知っていたか、「知り得た」場合には、会社側は無効を主張できるとされています。

2)「知り得た」についての考え方

 どんな場合に決議がなかったことを「知り得た」といえるかは、事案ごとの事実関係に応じてケースバイケースで判断されます。本件では、前述のとおり、競業他社間で、かつ事業上重要な特許が無償で譲渡されたといった社会通念に照らして不合理な点があったため、裁判所としても、B社に対しては、A社の代表者の言明以上の高度な確認を求めたものと思われます。

 したがって、本件の判断を一般化することはできませんが、一つの事例として参考になるものと思います。

3)「重要財産の譲受」についての考え方

 本件では主要な争点とはなっていないものの、多くの裁判例で問題となる点として、ある財産が「重要な財産」に該当するか否かが問題となります。

 この点裁判例は、当該財産の価格、会社の総資産に占める割合、保有目的、行為の態様、会社における従来の取扱い等、を総合的に考慮して判断するとしています(最高裁平成6年1月2日判決)。

 とはいえ、「総合的に考慮する」という基準では法律専門家でも正確に判断することは容易ではありませんし、ましてや非専門家が日々の実務の中で適切に判断していくのは難しいといえます。

 この点例えば、東京弁護士会会社法部「新・取締役会ガイドライン」は、財産の処分・譲受についての「重要」該当性の基準として「会社の貸借対照表上の総資産額の1%に相当する額程度」(ただし無償の寄付などは0.01%、債務免除は0.1%)を提唱していますから、取締役会規則などによって基準を設ける上でも参考になるように思います。

 また、「重要な財産」該当性についていえば、不動産や重要な動産(製造設備等)などは比較的検討対象として気づきやすいものの、本件のような知的財産やノウハウといった無体物については、重要な財産に該当するのかの検討が見過ごされやすいかもしれません。この点でも留意が必要であると思われます。

お知らせ:The Best Lawyers in Japan 2024に選出されました

Best LawyersによるThe Best Lawyers in Japan 2024において、弊所代表石下雅樹弁護士が、”Intellectual Property Law(知的財産法)部門”に選出されました。

https://www.bestlawyers.com/current-edition/Japan

Best Lawyersによれば、同アワードは、”The Best Lawyers Purely Peer Review”(同地域・同じ法律分野内の弁護士による選出意見を集約して選出する調査手法)によって選出しているとされています。

なお、同部門で選出された他の事務所には、弁護士法人イノベンティア、森・濱田松本法律事務所、西村あさひ法律事務所などが含まれています。



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