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2023-03-22 展示会での商品の展示と特許発明の新規性の喪失

ここでは、弊所発行のメールマガジン「ビジネスに直結する判例・法律・知的財産情報」のバックナンバーを掲載しています。同メルマガでは、比較的最近の判例の紹介を通じ、ビジネスに直結する法律知識と実務上の指針を提供します。

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今回の判例 展示会での商品の展示と特許発明の新規性の喪失

知財高裁令和4年8月23日判決

 A社は、「圃場を耕うんする作業機」に関する特許権を持っていました。この特許について無効審判請求をしたB社は、当該特許の出願前に、当該発明に関する耕うん機が展示会に展示されていたことから、当該発明は公に実施されていたものであって新規性がなく無効であると主張しました。

 特に問題となったのは、当該特許の発明のうち「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少し」という構成要件でした。

 裁判所は、ある発明が公知となったといえるためには、当業者がその製品を外部から観察しただけで発明の内容を知り得る場合はもちろん、外部からは認識できなくても、当業者がその製品を通常の方法で分解、分析する等によって発明の内容を知り得る場合を含むことを述べた上で、本件については、前記構成要件が外観のみから認識できる性質のものではないから、展示会で展示されていても、公知となったとはいえない、と判断しました。

解説

(1)特許発明の要件~新規性と公然実施

 特許を受けることができる「発明」には、「新規性」、言い換えれば今までにない「新しいもの」が含まれている必要があります。

 そして、ある発明の新規性がないと判断される一つの理由は「公然実施」というものです。具体的には、特許法29条1項2号にあるとおり、特許出願前に、当該発明が、日本国内又は外国で、公然に実施されたという事実がある場合です。

(2)公然実施となる例、ならない例

 ここで留意する必要があるのは、この「公然」とは、「知られ得る状況」にあれば足り、他者に現実に知られたか否かは問わないということです。

 例えば、分解しないと分からない商品の内部機構について特許を出願したとします。しかし、その出願前に、その商品を第三者に販売してしまったとします。このような場合、購入者が当該商品を分解した事実が実際にあったとしてもなかったとしても、「公然実施」として新規性は否定されることが原則です。それは、商品の購入者であれば、しようと思えば、商品をいつでも分解できるからです。

 他方、今回の例のような、展示会で商品は展示しても内部のメカニズムは秘匿する場合や、工場を見学させた際もその設備の中は見せず、見ることを禁止していたという場合には、内部機構や製造方法についての発明は公然実施されたとは判断されないことがと多いと考えられます。

(3)実務上の留意点

 もっとも、特許出願前に展示会で展示された商品などのケースでは、いざ侵害者が現れた場合、権利者が侵害者に対して侵害の主張をする際に、当該特許発明の有効性が争われる材料になってしまいますし、当該特許が無効となるリスクが上がることは事実です。

 そのため、外部からはすぐに分からない内部機構に関する発明であっても、特許の登録を受けたいと考えるのであれば、守秘義務のない第三者に展示するといった行為をする前に出願をするのが最善であることに変わりありません。

 もっとも、日本の特許法は、特許を受ける権利を有する者が自ら公然実施をしたような場合でも、一定期間内(現在は1年以内)に出願する限り新規性が失われないものと扱われる、新規性喪失の例外規定を定めています(特許法30条2項)。

 もっとも、この新規性喪失の例外が適用される期間や要件は、各国ごとに異なっており、米国は比較的緩い一方で、欧州諸国は一般に日本より厳しい制度となっているとされています。そのため、新規性喪失の例外規定を活用した出願をしなければならないとしても、特に海外での権利化も視野に入れるとするならば、各国の制度に合わせて出願を進める必要がある、という点について留意が必要といえます。

弊所代表弁護士が執筆に参加した書籍の出版のお知らせ

この度、弊所代表の石下弁護士が執筆に参加した「重要判例分析×ブランド戦略推進 商標の法律実務」(中央経済社刊)が発刊されました。

学術的、実務的の両側面から商標法とその周辺法の解釈・運用のポイントを解説し、30の重要判例についても事案の概要とその要点を解説する、企業のブランド戦略の一助となる実務書です。

弊所代表の石下弁護士は、重要判例の解説の一つを担当しています。

ご関心のある方は以下のサイトをぜひご覧ください。
https://www.biz-book.jp/isbn/978-4-502-43391-7



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