2021-06-10 事業譲渡と譲渡人の競業避止義務
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今回の事例 事業譲渡と譲渡人の競業避止義務
東京地裁令和3年1月8日判決
北海道を中心に食品用機械の製造、販売、メンテナンス等の事業を営むA社は、A社の取締役B氏が設立したC社に、A社の「関東事業部」の事業を譲渡しました。譲渡契約には、「A社は、譲渡日後10年間は、C社の事業と競合する同種の事業を行わない」旨の規定がありました。
ところがA社は、その後、旧関東事業部の顧客に、当時休止状態だった「関東産機事業部」を再開する旨の案内状を出し、関東産機事業部の事業を再開しました。それでC社は、当該事業の差止と、損害賠償を求めました。
裁判所は、本件の事実関係を詳細に認定し、A社の行為の実態は競合事業に当たるとして、A社による契約違反を認めました。
解説
事業譲渡はM&Aの一つの方法としてよく用いられる手法です。しかし、事業譲渡をした会社が、譲受人と競合する事業を始めるならば、事業譲渡の意味は大きく減殺されます。そのため、譲渡人による競業を防ぐ必要性は高いといえます。
まずこの点、会社法第21条には、譲渡をした会社が競業することを禁止する規定があります。しかし、会社法上の競業避止義務は、期間が20年と長いものの、場所的範囲が原則として「同一の市区町村とその隣接市区町村の区域内」となっており、事業の範囲も「同一の事業」と定められています。
それで、会社法21条は、インターネットで場所の制約なく事業が行えるようになった現代に合っておらず、使いにくい規定でもあります。
そのため、実務上、事業譲渡契約においては、会社法21条の規定に頼るのではなく、事業の実態に合った内容・範囲で、譲渡人に対する競業避止義務条項を盛り込むことが広く見られます。
実効性のある競業避止義務を定めるに当たっては、無闇に長くするよりも現実的な長さの年数にするとともに、場所的範囲も自社のビジネスに合ったものとすることが重要です。また、いざ違反と思われる行為がなされたときに、競業といえるか否かの判断が容易にできやすくなるよう、競業の内容や範囲の定義をできるだけ明確にすることも重要なことです。
さらに、万一違反が生じた場合の手段や効果(損害の定め方や違約金も含め)も検討できます。
M&Aについては落とし穴もいろいろありますから、事業譲渡契約その他M&Aの契約においては、M&Aの専門家の助けも借りて、基本合意から契約締結まで、細心の注意を払って進めることが重要と思います。
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