2020-06-02 医療機器の形態と不正競争防止法

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今回の事例 医療機器の形態と不正競争防止法

 知財高裁令和元年8月29日判決

 A社は、昭和59年から、「SBバック」という製品名で携帯用ディスポーザブル低圧持続吸引器を構成する各機器又はそれらの機器一式を製造し、販売しています。

 そしてA社は、平成30年1月頃から同種の製品を製造し販売しているB社に対し、B社製品がA社商品の形態と類似し、B社によるB社商品の製造販売が原告商品と混同を生じさせる行為であると主張し、不正競争防止法2条1項1号に定める不正競争行為であると主張しました。

 なお、A社の商品とB社の商品の写真は、以下のとおりです(左:A社)。

裁判所の判断

 裁判所は、以下のような趣旨の判断をし、A社の主張を認めました。

・A社商品の形態は、A社によって約34年間の長期間にわたり継続的・独占的に使用されてきたことにより、需要者である医療従事者の間において、特定の営業主体の商品であることの出所を示す出所識別機能を獲得するとともに、A社商品の出所を表示するものとして広く認識されていた。

・A社商品とB社商品の両商品は、消耗品に属する医療機器であり、販売形態が共通している。

・以上に鑑みると、医療従事者が、医療機器カタログやオンラインショップに掲載された商品画像等を通じてA社商品の形態と極めて酷似するB社の形態に接した場合には、商品の出所が同一であると誤認するおそれがある。

・B社の主張する、「バーコードで医療機器を特定して発注や在庫管理を行」うことや、「一増一減ルール」については、すべての医療機関でこれらが行われているわけではない以上、誤認のおそれは否定されない。

・よって、B社によるB社商品の販売は、A社の商品と混同を生じさせる行為に該当する。

解説

(1)「周知表示混同惹起行為」規制の趣旨(不競法2条1項1号)

 事業やビジネスを一定期間行っていくと、多くの場合、自社が販売する商品や提供するサービスについて、顧客からの信頼や品質が高いなどの評判が生まれます。

 実際多くの事業者にとって、このようにして形成される信用は重要であって、信用の獲得や維持に多くのコストをかけています。

 この点で「ブランド」は、事業者にとって信用の蓄積の「印」ともいえるものですが、ブランド以外の別の特徴が、顧客の間で知名度を持つ結果、商品やサービスの出所(製造者や販売者)を示す機能を持ち、かつ、顧客を引きつける力(顧客吸引力)を持つ、一種の独特な「印」のようになることがあります。

 このように、ある独特な「印」が、一定の知名度(「周知性」)を獲得し、特定の出所を示すものになったといえる場合、他者が、このような周知の「印」を無断で使用することは、不当な結果を生む場合があります。

 それで、不正競争防止法2条1項1号は、このような周知な「印」(商品等表示)が持つ出所表示の機能や顧客吸引力を保護することを目的としています。

(2)保護の対象となる「商品等表示」の例

 では具体的に、どのようなものが、不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」として保護の対象となりうるでしょうか。過去の裁判例において取り上げられたケースを中心に、具体例をご紹介したいと思います。

・ 商品そのものの形態

 今回取り上げた事例もその一つです。 その他有名なものとしては、 アップル社の「iMac」などがあります(東京地裁平成11年9月20日)

・ 看板・特徴的な店舗表示

 この点、有名な例としては、「動くカニの形をした看板」があります。

・ 商品の容器

 商品の容器やパッケージの外観が「商品等表示」になりうる、と判断した裁判例が複数あります(ミルク紅茶事件(大阪地裁平成9年1月30日判決)、黒烏龍茶事件(東京地裁平成20年12月26日判決)。

・ 店舗の外観

 裁判例は、店舗の外観も「商品等表示」になりえると認めています。ハードルは高いのですが、酷似した店舗の外観の使用を、実際に不正競争と認定したケースもあります( コメダ珈琲事件(東京地裁平成28年12月19日決定)。

 自社のビジネスにおいても、商標やブランド以外にも、他社にはない独特でユニークな特色があるかもしれません。 こうした特色について他者による模倣から守ることができれば、自社の商品の信用を維持し他者による不当なただ乗りを防止する大きな手段の一つとなるかもしれません。

 もちろん、ある「表示」が不競法によって保護されるためには、この表示が「周知」であるといった手間のかかる立証が必要なのですが、こうしたビジネス上の独自の特徴が法律上保護の対象となり得るということを知っておくのは有益と思います。

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