2019-05-14 特許の専用実施権と実施義務
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
今回の事例 特許の専用実施権と実施義務
大阪地裁平成31年2月28日判決
A社は、ちりめんの製造法に関する特許権者であり、B社との契約(本件契約)によって、同社に対して専用実施権を設定していました。
しかしA社は、B社が、当該特許を実施しておらず、実施義務などに違反したとして、損害賠償請求をしました。
裁判所の判断
裁判所は以下のように判断し、B社の実施義務の存在は認めましたが、実施義務違反は否定しました。
・ 本件契約には、B社の実施義務を定めた条項はない。
・ もっとも、B社が特許を独占的に実施する地位を獲得するのに対し、A社は自己実施や第三者への実施許諾ができないにもかかわらず、特許維持費用の支払義務を負うことになる。
・ 契約では、イニシャルペイメントがなく、ランニング実施料の金額も、B社が販売した特許製品の売上に応じたものであるから、A社は、B社が特許を実施しない限り実施料の支払を全く受けられない。
・ A社とB社のこうした状況を踏まえると、B社は、特許実施が可能であるのにそれを殊更に実施しないとか、実施に向けた努力を怠ることは許されず、信義則に基づき、特許を実施する義務を一定の限度で負う。
・ 本件の事情を考慮すると、B社の実施義務は、その時々の状況を踏まえ、特許の実施に向けた合理的な努力を尽くすことで足りる。
解説
(1)特許のライセンス~専用実施権
特許のライセンス(実施権)については、大きく分けて二種類があります。それは「専用実施権」と「通常実施権」です。以下それぞれを簡単にご説明します。
まず、専用実施権は、特許登録簿への登録によって発生します。そして、専用実施権を設定すると、特許権者ですら、その専用実施権の範囲においては特許を実施することができなくなります。また第三者に対する実施権の設定・許諾もできません。
また専用実施権者は、特許権者と同様に、特許権を侵害する者に対して、差止請求(侵害行為を差し止めること)や損害賠償請求をすることができます。
以上のとおり、専用実施権者は、その名称のとおり、特許権そのものに近い、非常に強力な権利が与えられます。
(2)特許のライセンス~通常実施権
他方、通常実施権は、登録を要さず、契約だけで発生します。
また、ライセンシーの実施権を独占的とするか、非独占的とするかは、契約で自由に定めることができます。また実施の場所も限定できます。
契約で定めれば、独占的実施権を許諾しても、特許権者が自ら実施することもできます。
さらに、ライセンシーがサブライセンスできるか否かも契約で定めることができます。
なお、専用実施権者とは異なり、通常実施権者は、特許権の侵害者に対して差止請求等をすることはできないと考えられています。
(3)実務上の留意点
他者に自社の特許をライセンスするとき、又は他者からライセンスを受けるときには、上のような各権利の性質を考えて、そして、自身のビジネスの目的やスキーム、考えられるリスクを考えて、適切に、どんな実施権を対象とするかや、ライセンスの条件をしっかりと考える必要があります。
一般的には、専用実施権は非常に強力な権利ゆえに、特許権者としては、自社の子会社など何らかの密接な関係がある会社でない限り、専用実施権の設定については相当に慎重な考慮が必要と思います。そうでないと、特許権者自身特許を持っていながら身動きが取れないような事態にもなりうるからです。
また、専用実施権にせよ、独占的通常実施権にせよ、他者に独占権を与えるのであれば、自社が不当に不利益を受けないような手当も重要です。
例えば、独占権を付与する代わりに権利金や初期にまとまったロイヤリティを定めるという方法がありえます。あるいは、最低ロイヤリティを定めることもありえます。
以上、ほんの一部の要素を考えましたが、特許ライセンスは、ビジネス上の契約の中でもとりわけ考慮すべき事項の多い、落とし穴も多い契約です。
それでライセンス交渉の段階から契約のドラフティングやレビューまで、弁護士や弁理士といった専門家のサポートを受けることは、投じる価値のあるコスト・手間といえるかもしれません。
弊所ウェブサイト紹介~特許法 ポイント解説
弊所のウェブサイトの法律情報の解説のページには、ビジネス・企業に関係した法律情報に関する豊富な情報があります。
例えば本稿のテーマに関連した特許法については、
https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/tokkyo/index/
にあるとおり、特許の出願からライセンス、紛争解決の方法まで、特許法に関する解説が掲載されています。必要に応じてぜひご活用ください。
なお、同サイトは今後も随時加筆していく予定ですので、同サイトにおいて解説に加えることを希望される項目がありましたら、メールでご一報くだされば幸いです。
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