2019-01-29 著作権法の「引用」の要件
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
今回の事例 著作権法の「引用」の要件
知財高裁平成30年8月23日判決
A社は、148分のドキュメンタリー映画を製作し、映画館での上映やDVDの販売などを行いました。
同映画には、4箇所にわたり、合計34秒、テレビ局であるB社が制作した映像が使用されていました。しかしその映画には、当該使用部分やエンドクレジットを含め、B社の名称は表示されていませんでした。
そのため、B社はA社に対し、著作権の侵害を理由に、映画の上演や頒布などの差止を求めました。
これに対し、A社の反論は多岐にわたりますが、一つの反論は、著作物の「引用」に該当する、ということでした。
裁判所の判断
裁判所は以下のように判断しました。
・ ドキュメンタリー映画の場合、その素材として何が用いられているのかは映画の質を左右する重要な要素であるから、引用である場合にはその出所を明示する必要性は高い。
・ 画面比や画質の点において、映画本体と使用映像は一応区別がされているとみる余地もあり得るが、その区別性は弱い。
・ 本件の映画においてB社の映像を使用した方法は、「公正な慣行」に合致せず、著作権法32条1項が規定する適法な「引用」には当たらない。
解説
(1) 著作権法上の「引用」
著作権法に定める「引用」は、他人の「著作物」を許諾なく利用することができないという法の原則に対する例外の一つであり、著作権法32条1項で定められています。
しかし、この「引用」に該当するためには、著作権法上の要件を満たす必要があります。一般的には以下のような要件が必要とされています(論者によって整理の仕方は異なります)。
a 引用部分が公表された著作物であること
b 引用部分と自己の著作物の区分が明瞭であること
c 自己の著作物が「主」であり、引用部分が「従」であること
d 引用の必然性があること
e 出所を明示すること
f 改変など、引用部分の著作者人格権を侵害しないこと
(2) ビジネス上の留意点
ビジネスの場でも、他社の著作物を引用することは意外と多いかもしれません。
すなわち、出版社、報道機関、映画製作会社といった著作物を生み出すことを主たる目的とする事業はもちろんのこと、そうではない会社でも、プレゼンテーションを行う際に、他社や政府の著作物を引用するといった事情は当然にありえます。
また、製品分野によっては、販促資料(ウェブサイト)や商品の説明文で、学術論文などを引用する機会もあるかもしれません。
それで、上に申し上げた引用の要件を把握して適切に運用することは重要といえます。この点について注意を怠ると、今回の事例で、140分以上の映画であっても数十秒の違法な引用部分のゆえに差止請求が認められたように、引用と思っていた僅かな部分のゆえに自社の著作物の全部が使用できなくなるなどの大きなダメージを受けるおそれがあるからです。
なお、上で述べた「引用」の各要件の詳細は、以下をご参照ください。
https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/chosakuken/index/inyou/
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