6.2 出版に関連した著作権法上の権利
出版権を中心とした出版に関わる問題
出版とは
「出版」とは、著作物を相当数複製し、公衆に頒布することです。出版作業には大きな手間と費用を要することから、出版を専門とする出版社が、著作権者と出版契約を結び、出版活動を行うという場合は広く見られます。
出版契約の概要
出版社(出版者)は、著作権者と「出版契約」を交わすことにより出版する権利を得ますが、契約の内容としては、以下のような様々なバリエーションがあります。
- 著作権者の持つすべての著作権を出版社に譲渡する場合
- 複製権等の必要な支分権だけを出版社に譲渡する場合
- 著作権者が著作権を持ちつつ、出版社に対して複製・頒布を許諾する場合
- 著作権者と出版社との間で出版権を設定する場合
そして、以下に述べるとおり、出版権の設定と出版の許諾契約では、権利義務の内容が大きく異なります。それで、契約においては、出版権設定か単なる出版許諾か、契約上明確にしておく必要があります。
それで、以下、出版権の概要について解説します。
出版権の内容等
出版権の設定
出版権の設定とは、著作権法79条1項に定められているもので、著作権のうち「複製権」を有する者が、当該著作物を独占的に出版する権利を第三者に設定することをいいます。なお、その著作物が質権の対象となっている場合には、その質権者の許諾も必要とします(79条2項)。
ただし、出版権を設定した場合も、最初の出版の日から3年又は設定行為によって定めた年数を経過した後、複製権者は、当該著作物を全集その他編集物として複製(出版)することができ、設定期間中に著作者が死亡したときは、全集等への複製が可能となります(80条2項)。
出版権の存続期間
出版権の存続期間は、設定行為によって設定することができますが、設定しない場合は「最初の出版の日から3年間」です(83条)
出版権の譲渡、処分の制限
出版権者は、複製権者の承諾がない限り、この出版権を譲渡し、または質権の対象とする(担保とする)ことはできません(87条)。
出版権者の義務
出版権者は、設定行為において別の定めをする場合を除き、原稿を引き受けてから6か月以内に出版する義務、慣行に従い継続して出版する義務を負います(81条)。
また、出版権者は、その著作物をあらためて複製しようとするときは(増刷、改訂など)、そのつど、あらかじめ著作者に通知しなければなりません(82条2項)。改めて複製する際、著作者は、正当な範囲内において、その著作物に修正又は増減を加えることができます。
出版権の消滅
出版権は以下の場合に消滅します。
- 出版権の存続期間が終了したときは当然に消滅します。
- 出版権者が、出版を6か月以内に行う義務に違反したときは、通知をもって消滅させることができます。
- 出版権者が慣行にしたがい継続して出版する義務に違反した場合、複製権者は3か月以上の期間を定めてその履行を催告したにも関わらず、履行がされないときも、通知をもって消滅させることができます。
- 複製権者である著作者が、その著作物の内容が自己の確信に適合しなくなったとき、その著作物の出版を廃絶するために、出版権者に通知してその出版権を消滅させることができます。ただし、当該廃絶により出版権者に通常生ずべき損害をあらかじめ賠償する必要があります。
出版権の登録
出版権については、次に掲げる事項は、登録しなければ第三者に対抗することができません(88条)。
- 出版権の設定、移転(相続その他の一般承継によるものを除く)、変更若しくは消滅(混同又は複製権の消滅によるものを除く。)又は処分の制限
- 出版権を目的とする質権の設定、移転、変更若しくは消滅(混同又は出版権若しくは担保する債権の消滅によるものを除く。)又は処分の制限
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