2018-01-09 ライセンス契約の申出通知と不正競争防止法
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今回の判例 ライセンス契約の申出通知と不正競争防止法
東京地裁平成29年8月31日判決
発明の名称を「ユーザ認証方法およびユーザ認証システム」とする特許を有するA社は、B社のソフトウェアをC社のシステムに使用する、B社取引先のC社に対し、当該ソフトウェアが、A社の特許の使用に当たるため、C社に対してライセンス契約の締結を申し入れる書状を送付しました。
これに対し、B社は、A社の特許は無効理由があるから、当該特許を侵害する旨の書状をB社の取引先に送付することは、B社の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知の行為であるとして、こうした行為の差止と損害賠償の請求を求めました。
裁判所の判断
● A社が、C社に対してライセンス契約の締結を申し入れる書状を送付したことは、C社のシステムの使用が特許権の侵害であることを理由としてライセンス契約の締結を求めるものである以上、A社の製品の一般的な販促文書であるとはいえず、B社ソフトウェアの使用が特許権を侵害する旨を指摘する文書であると解する。
● A社の特許は進歩性がなく、無効理由があるから、前記書状の内容は「虚偽の事実」の告知に当たる。
● A社は、複数の弁理士に特許権侵害の鑑定を依頼するなどしてC社のシステムの利用が特許権侵害であると確信した上で前記書状を送付したと主張する。しかし、特許の無効理由について調査した事実が認められないから、特許権侵害の有無について十分な法的検討をした上で当該書状を送付したと認めることはできない。
● よって、A社の行為は、競争関係にあるB社の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知する行為であって、不正競争防止法2条1項15号所定の不正競争に該当する。
解説
(1)不正競争防止法と信用毀損行為
不正競争防止法2条1項15号は、競争関係にある他人の信用を毀損する虚偽の事実を告知するなどの行為(信用毀損行為)を不正競争行為としています。
その具体的な要件は以下のとおりです。
a 争いとなっている両者間に競争関係にあること
b ある事実について告知又は流布行為があること
c bの事実が虚偽であること
d bの告知又は流布が他人の営業上の信用を害すること
そして、実務上この信用毀損行為が問題となりうる典型例は、本件のように、自社が特許権を持っていて、競合他社の製品やサービスがこの特許権を侵害しているように見える、という場合です。そして、当該競合他社自身ではなく、その販売先や取引先に対して、当該競合他社の製品が特許侵害品である、ということを告知することによって、こうした取引先や販売先が特許権侵害やトラブルに巻き込まれることを恐れて取引を中止したり縮小したりする効果を狙う、ということは誰でも容易に思いつくものです。
しかし、こうした告知を行った後、結果的に、裁判で特許権の侵害が否定されたり、又はその特許権が無効となった場合、この告知が不正競争行為として、逆に特許権者が責任を問われる場合があるわけです。
この点、特許権者としては、特に競合他社が自社からの警告を無視したり応じなかったりするような場合に、長い時間のかかる裁判よりも、ある意味で「即効性」のあるこうした手段を求めたいという気持ちは分かるのですが、基本的にはこうした「告知」は、できる限り避け、訴訟などの正当な手段を活用するほうが無難であるといえます。
(2)「違法性阻却事由」
他方、最近の裁判例は、ある「告知」が、「正当な権利行使」の一環としてされたものであると認められる場合には、違法性が阻却される(つまり不正競争行為としての責任を負わない)と判断する傾向にあります。
この点、どんな場合に「違法性が阻却」されるのかは、様々な要素が絡みますので詳細は省略しますが、一つの要素は、特許権侵害訴訟を提起するために通常必要とされる事実調査及び法律的検討をすれば、事実的、法律的根拠を欠くことを容易に知り得たといえるのに、あえて警告をしたかという点が挙げられます。
この点本件では、A社は、告知先のC社の製品が自社の特許権の権利範囲にあることについては、複数の弁理士の鑑定を取ったようですが、A社の特許権に無効理由があるか否かまでは鑑定意見を取っていませんでした。
それで、仮に自社が特許権者として、競合他社の取引先にあえて何らかの告知をする場合、最低限まずは、自社の特許に無効理由がないことや、当該取引先の行為が特許権侵害であることについて複数の専門家のきちんとした意見を書面で取ることは必須ではないかと思います。
ただし誤解のないように申し上げると、こうした鑑定意見の書面さえ取れば「告知」してよい、という意味ではありません。専門家と相談しながら、違法性阻却事由に関する他の判断要素を十分に考慮して慎重に判断していくことは欠かせないと考えられます。
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