ソフトウェア使用許諾契約(代理店・販売店向け)のポイント

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ソフトウェアライセンス契約(代理店・販売店向け)の概要

代理店販売とソフトウェア使用許諾のスタイル

 ソフトウェアメーカーが自社のソフトウェアを販売する場合であって、特に顧客が企業・法人であるときは、メーカーが顧客に直接販売するほか、代理店や販売店の力を借りて販売することが少なくありません。

 この場合、販売したソフトウェアについては、ライセンス契約(使用許諾契約)が締結されますが、この場合、契約の締結には、二種類の方式があります。

 一つは、ソフトウェア自体の販売は代理店が行うものの、使用許諾契約そのものは、メーカーとエンドユーザーとの間で直接成立する、という方式です。もう一つは、メーカーが代理店に、サブライセンス権を付与し、代理店がそのサブライセンス権を使用して、エンドユーザーとの間でソフトウェア使用許諾契約を締結するケースです。

 通常であれば、前者(使用許諾はメーカーとエンドユーザーで成立する)のほうがメリットがあるといえます。それは、メーカー自身がライセンス条件をコントロールできることと、エンドユーザーの違反行為に対してメーカーが直接権利を行使できる点があるからです。

 他方、ライセンサブライセンス方式が取られる場合の例としては、対象となるソフトウェアが地域ごと又は顧客ごとにカスタマイズされて販売され、カスタマイズ部分の著作権が代理店・販売店に帰属するというスキームの場合があるかもしれません。

 この場合、カスタマイズ部分のライセンスと基本部分のライセンスの当事者が別となることを避けるために、基本部分についてサブライセンス方式が取られることがあるわけです。

エンドユーザーとの使用許諾契約の方式

メーカーとエンドユーザーとの直接契約の場合

 代理店が販売するソフトウェアについて、メーカーとエンドユーザーがどのようにして使用許諾契約を締結できるのでしょうか。主として以下のような方法が考えられます。

  • 代理店に対して、ソフトウェア使用許諾条項を予め提供しておき、代理店がエンドユーザーに販売する売買契約に、ソフトウェア使用許諾条項を別紙として添付する。
  • ソフトウェアのパッケージに、紙媒体で使用許諾契約を同梱し、使用時に使用許諾契約への同意を条件とする。
  • ソフトウェアをインストールする際などの画面にライセンス条件(使用許諾条件)を表示し、インストール前に同意を条件とする。
販売店とエンドユーザーとの契約の場合

 この場合には、メーカーと代理店でサブライセンス権付ソフトウェア使用許諾契約を締結します。そして、代理店とエンドユーザーの間でも、当該ソフトウェアの使用許諾契約(ライセンス契約)を締結することとなります。

 この場合の契約の形式としては、代理店とエンドユーザーの両者で押印する契約書の形にすることは少なくないと思われます。それは、代理店とエンドユーザーが、ソフトウェアの売買契約書を作成し押印することができる以上、サブライセンスによる使用許諾契約についても同様の形態を取ることが自然といえるからです。

 もちろん、売買契約とソフトウェア使用許諾契約を別契約としてそれぞれ印鑑を押す方法のほか、売買契約に、ソフトウェア使用許諾条項を別紙として添付して印鑑を1個で済ませることもできますし、ソフトウェアのインストールに画面にライセンス条件を表示する方法ができないわけではありません。

 もっとも、メーカーとしては、代理店にサブライセンス権があるからといって、代理店が勝手にライセンス条件を定めてエンドユーザーにライセンスすることを許すわけにはいきません。それで、メーカーとしては、代理店に対しては、エンドユーザーと締結する使用許諾条件(少なくとも重要なポイント)は指定・指示することが通常であると考えられます。

ソフトウェアの使用許諾契約と収入印紙

 ソフトウェアの使用許諾契約書に関連して「収入印紙を貼付しなければならないか」という質問を受けることがよくあります。

 この点、原則として収入印紙の貼付は不要と考えられます。ソフトウェアの使用許諾契約については、通常はソフトウェアの著作権といったいわゆる無体財産権がライセンスされるだけですから、印紙税法のいわゆる1号文書にいう「譲渡」に該当しません。また、ソフトウェアの使用許諾契約は、印紙税法の他の課税文書にも該当しないからです。

ソフトウェア使用許諾契約(代理店向け・サブライセンス権付)の規定ポイント

 以下、本ページでは、メーカーと代理店との間で締結されるサブライセンス権付使用許諾契約の主要なポイントについてご説明します。

 なお、以下のサンプルはもっぱら主要条項の趣旨・意図の解説を目的としています。それで、網羅性・完全性・条項間の整合性については検証していません。それで、本ページのサンプルを「雛形(ひな形)」として使用することはご遠慮ください。

ソフトウェアの特定

規定例

第*条(本ソフトウェア)
1 本契約において甲が乙に使用許諾するソフトウェア(以下「本ソフトウェア」という。)は、別紙Aに定めるソフトウェアとする。
2 本契約期間中、甲は乙に対し、本ソフトウェアの更新版及びバージョンアップ版を提供するものとし、本契約においては、これらも本ソフトウェアに含まれるものとする。
3 本ソフトウェアの仕様、動作環境(ハードウェアのスペック、OS、ソフトウェア環境、ネットワーク環境)、その他本ソフトウェアの詳細は、別紙Bに定める。

条項のポイント

 使用許諾の対象となるソフトウェアを製品名、型式、バージョンなどで特定します。契約書本文に定める方法もありますが、このサンプルのように、別紙において表形式とするほうが一覧性等の点でメリットがあるかもしれません。

 また、契約期間中の更新版やバージョンアップ版がライセンスの対象となる場合、この点を明示することも望ましいといえます。

再許諾権(サブライセンス)の規定

規定例

第*条(サブライセンス)
1 乙は、本契約期間中、本ソフトウェアの甲の代理店として、本ソフトウェアを販売する乙の顧客(以下「乙顧客」という。)に対し、本ソフトウェアを使用することを非独占的に許諾することができ(以下「サブライセンス」という。)、甲は乙に対し、サブライセンスの権利を非独占的に許諾する。
2 サブライセンスは、乙顧客が自己の事業に使用するために、1ライセンスごとに、当該顧客が管理する5台までのコンピューター端末にインストールし、かつ使用することの許諾とし、かつ、サブライセンスは譲渡不要かつ再々許諾不可とする。
3 乙は、サブライセンスに必要な範囲で、かつサブライセンスのライセンス数を超えない範囲で、本ソフトウェアをDVD-ROMに複製し、当該媒体を乙の顧客に貸与することができる(譲渡はできない)。この目的のために、甲は乙に対し本ソフトウェアが記録されたDVD-ROMを貸与する。同媒体の所有権は甲に留保される。

条項のポイント1〜サブライセンスの趣旨

 販売代理店がその顧客に、対象となるソフトウェアをサブライセンス(再許諾)する権利を付与する規定です。このサブライセンス権については、販売店を複数置く場合には非独占的なものとなることが通常でしょうが、特定の販売店に独占的な再許諾権を与えるケースもあります。

 例えば、代理店が、まだ日本市場にない海外メーカーのソフトウェアについて市場開拓しようという場合とか、メーカーが販売子会社を使用する場合などがあります。

条項のポイント2〜ライセンス条件の明示

 販売代理店がその顧客に付与できるサブライセンスの条件を明示しておく必要があります。

 加えて、ライセンス条件を定めます。具体的には、対象ソフトウェアをインストール・使用できる端末の台数や、必要に応じユーザー数を定めることもあります。

 また、対象ソフトウェアを社内ネットワークを経由した使用を認めるのか、この場合には同時にアクセスできるユーザ数を定めることもあります。

条項のポイント3〜代理店に複製権を与える場合

 また、上のサンプルでは、代理店に対してサブライセンスに必要な数量、ソフトウェアを複製する権利も付与しています。

 この場合、ライセンシーがどの程度の数量を複製したのかにつき、ライセンサー(メーカー)はどうすれば正確に把握できるか、は難しい問題があります。

 こうした場合、ライセンシーに、定期的に複製数の報告をしてもらうことが把握の手段の基本となりますが、その他、ライセンシーの会計帳簿に対してライセンサーが監査できる権利を定める、過少申告に対してペナルティを課すといった規定を定めることが考えられます。

条項のポイント4〜記録媒体を提供する場合

 また、対象となるソフトウェアを記録した媒体につき顧客への提供を許す場合、所有権について若干注意すべき点があります。すなわち、著作権法第47条の3第1項[条文表示]は、複製物の所有者(媒体の所有権を有する者)が、自らの利用に必要と認められる限度において、当該ソフトウェアの複製や翻案ができると定めています。

 この点、メーカーとして、エンドユーザーに対して対象ソフトウェアの複製・改変を一切禁止したいと考えるのであれば、ソフトウェア記録媒体の所有権はエンドユーザーには移転しないという点を明示することは重要といえます。

代理店自身による使用の許諾

規定例

第*条(使用許諾)
甲は、乙に対し、本契約期間中、本ソフトウェアについて、乙が本ソフトウェアの販売店としての事業に使用するために、1ライセンスごとに、乙が管理する5台までのコンピューター端末にインストールして使用することにつき、非独占的かつ譲渡不要な許諾をなす(以下「本許諾」という。)。

条項のポイント〜販売店の自己使用に対するライセンス規定

 代理店としては、当該ソフトウェアの評価、操作・使用方法の習得、顧客へのデモンストレーション、サポートなどの目的でソフトウェアを使用する必要があるため、代理店に対し、対象となるソフトウェアを使用する許諾についても明示することがあります。またこうした許諾は当然非独占的なものですが、その点を明示することが少なくありません。

使用料

規定例

第*条(使用料)
1 乙は、乙顧客に対して本ソフトウェアのサブライセンスをした対価として、甲に対し、1ライセンスあたり、かつ1年あたりの使用料を、サブライセンス期間開始日の5日前までに支払うものとする。本ソフトウェアのサブライセンス期間を更新したときも同様とする。使用料については、甲が別途定める料金表に基づくものとする。
2 乙は、前項の使用料を、甲が発行する請求書に基づき、甲が指定する銀行口座への振込送金によって支払う。振込手数料は乙の負担とする。
3 乙は、乙が乙顧客に対して本ソフトウェアのサブライセンスをしたときは、甲に対し、サブライセンス期間開始日の10日前までに、エンドユーザーに関する情報、サブライセンスに関する情報、サブライセンス期間開始日及びその他の情報を電子メールにて報告する。
4 甲は、第1項の使用料の支払を受けた後、ただちにライセンスキーを発行し、乙に通知する。
5 乙が乙顧客に対して請求する本ソフトウェアの使用料は、乙がその裁量で決定することができる。

条項のポイント1~使用料の定め

 本サンプルでは、サブライセンスしたソフトウェアにつき、代理店がメーカーに使用料を支払い、代理店は、自己が設定した使用料につきエンドユーザーから支払いを受けるというスキームに基づいています。

 この場合、代理店がメーカーに支払う対象ソフトウェアの使用料につき、料金算定の方法、対象期間(ある場合)、支払金額、支払期限等を定めます。

 料金算定の方法としては、消費者も含めて汎用的なパッケージソフトウェアで多く見られるような、期間を限定せずに定額の対価を定める方法もありますし、年単位等の使用期間ごとに支払いを受ける方法などがあります。

条項のポイント2~使用料請求の手順の定め

 サンプルでは、代理店がサブライセンスしたソフトウェアにつき、メーカーに報告し、さらにその報告に基づいてメーカーに使用料を支払い、メーカーからライセンスキーの発行を受けるという手順を記述しています。

 このように、使用料に関連し、サブライセンスを実行する手順も定めておくことができます。

サブライセンス条件の定め方

規定例

第*条(サブライセンス条件)
1 乙は、乙顧客に対して本ソフトウェアのサブライセンスにかかる契約(以下「サブライセンス契約」という。)を締結する場合、甲が予め書面で指定した許諾条件をサブライセンス契約に含めるとともに、当該許諾条件と矛盾し、若しくは齟齬する条件をサブライセンス契約に定めないものとする。ただし、乙が事前に書面で甲の承諾を得たときはこの限りではない。
2 前項にかかわらず、乙は、乙が甲に提供する、本ソフトウェアに付随して乙が開発したカスタマイズ又はプラグインについての許諾条件は、乙が自由に定めることができる。

条項のポイント~サブライセンス条件

 メーカーとしては、代理店にサブライセンス権があるからといって、代理店が独自にライセンス条件を定めてエンドユーザーにライセンスすることを許すわけにはいきません。それで、代理店に対して、エンドユーザーと締結する使用許諾条件について、所定のものを使用することを定めることは多いと思われます。

権利帰属

規定例

1 甲と乙は、本ソフトウェア、その一部及び付属ドキュメントにかかる著作権、及び本ソフトウェアで実施されている発明、ノウハウ、その他の知的財産権(以下これら著作権及び知的財産権をあわせ「知的財産権等」という。)が、甲に留保されることを確認する。本契約の締結によって、又はサブライセンスによって、本ソフトウェアの知的財産権等が、乙又は乙顧客に移転することはない。
2 前項にかかわらず、乙が乙顧客のために独自に開発したカスタマイズ部分又はプラグインの知的財産権等については、乙に帰属する。

条項のポイント

 対象ソフトウェアに関する著作権や、対象ソフトウェアの仕様に関して実施される他の知的財産権の権利帰属を明確にします。ソフトウェアはライセンス(使用許諾)されるものであって、代理店やエンドユーザーに権利が移転しないことは当然なのですが、重要な点でもあるため、あえて明示することが少なくありません。

 また、代理店が、顧客にあわせて対象ソフトウェアをカスタマイズしたり独自のプラグインを開発する場合に、カスタマイズ部分やプラグインの著作権をどちらに帰属させるか、という点も明示しておくことは有益と思います。

会計帳簿等の監査権

条項例

第*条(監査権)
1 甲は、サブライセンスに関する乙の報告内容の検証、又は本契約上の乙の義務の履行状況について監査又は検査する目的で、乙の事業所に立ち入り、会計帳簿、会計記録、帳票類、本ソフトウェア保存媒体、乙のコンピュータ端末上の記録を閲覧し、複製することができる。甲は、緊急な場合を除き、あらかじめ乙に通知するとともに、乙の通常の営業時間内において当該監査を行う。
2 監査により、乙が甲に実際に支払った使用料が、本契約に基づき支払うべき使用料に比べ過小である場合、サブライセンスの数量を越えて本ソフトウェアの複製がなされている場合、乙は、甲に対し、当該支払うべき使用料不足額の●倍に相当する違約金を支払うほか、当該監査に関して甲が要した費用を支払うものとする。

条項のポイント

 対象となるソフトウェアのサブライセンスに関し、販売店が対象ソフトウェアを何本複製し、何本サブライセンスしたのか等は、まずは販売店から提供される報告によって把握することになります。

 しかし、ライセンサーとしては、こうした明細書の正確性を検証する手段がないと、ライセンシーが不正確・虚偽の報告をしてもこれを発見することが困難となってしまいます。

 そのため、サンプルにあるような、ライセンシーの帳簿の検査とコピーの権限を定める、という例は少なくありません。

 また、検査の結果過少申告が発見され、それが一定割合以上の場合に検査費用の負担を課す、という規定もよく見られます。そうでないと、過少申告があった場合に不足分を支払えば足りるということになり、ライセンシーに「やり得」を許すことになりかねないからです。

禁止事項

規定例

第*条(禁止事項)
乙は、甲から事前の書面による承認を得ない限り、次の各号の行為を行ってはならないものとする。
(1) 本契約に定めるサブライセンスの権利を第三者に譲渡し、担保を設定し、その他の処分をなすこと。
(2) 本ソフトウェアの使用権を、本契約の定めによらず、第三者にサブライセンスし、その他、貸与、譲渡、リース、レンタル若しくは他の処分をすること。
(3) 本契約で許された場合を除き、本ソフトウェアの複製、改変、若しくはネットワーク上での配信をすること、又は逆アセンブル若しくは他の方法のリバースエンジニアリングを行うこと。
(4) 甲が公表を予定して定めたドキュメントによらず、本ソフトウェアの性能又は欠陥を公表すること。

条項のポイント

 必要と考える禁止事項を網羅的に列挙します。サンプルではサブライセンス権の処分、契約の定めに反するサブライセンス、リバースエンジニアリング等を禁止していますが、ほかに必要と思われる事項を盛り込むこともできます。

保証条項

規定例

第*条(保証)
1 甲は、本ソフトウェアが、甲の指定した環境において、別途甲が定める本ソフトウェアの仕様に従って稼働することを保証する。
2 乙が乙顧客にサブライセンスをなした本ソフトウェアが前項のとおり稼働しなかったときは、甲は、乙に対し、代替品を提供するものとする。ただし、乙が乙顧客に本ソフトウェアを納入した日から1か月を経過したときはこの限りではない。
3 以下に定める場合、甲は乙に対して、また乙顧客に対して、当該仕様不適合につき何らの責任も負わない。
 (1) 仕様不適合が、本ソフトウェアと他のソフトウェアとの組合せに起因する場合
 (2) 使用不適合が、ネットワーク環境その他の動作環境の不調に起因する場合
 (3) 本ソフトウェアを、甲が指定した動作環境又は動作条件とは異なる環境又は条件で使用した場合
 (4) 本ソフトウェアが、甲によらず、又は甲の承諾なく、改変、改造又は変更された場合
 (5) 前各号の他、甲の責に帰すことのできない事由・原因がある場合
4 甲と乙は、本条の規定が、本ソフトウェアの瑕疵、不具合及び保証に関する甲の一切の責任を定めたものでありることを相互に確認する。乙は、理由のいかんにかかわらず、甲が、使用料の返金若しくは他の金銭的責任を含め、本条以外には一切の保証をせず、かつ責任を負わないことを認める。

条項のポイント1〜瑕疵担保責任

 まず対象となるソフトウェアの保証の有無と範囲について触れる必要があります。この点、種々の考え方・ポジションがありますが、上のサンプルでは、一定範囲でソフトウェアの保証はする定めとし、仕様違反に限り、かつ納品後1か月、また責任は代替品との交換に限る、という限定を付しています。

条項のポイント2〜他の保証否認

 サンプルでは、4項で、契約書に明示された保証以外の保証を否認する旨を定めています。ソフトウェアを巡る紛争として、導入したソフトウェアの性能が期待どおりでなかったとか、使い勝手が悪かったといった主張がされることがあります。この規定にはこうした主張を防ぐ意味があります。

 


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