システム保守契約のサンプルと留意点
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システム保守契約とは
システム開発が終了すると、多くの場合、開発したシステムの運用・保守について、ベンダ(受注者)とユーザ(発注者)で契約がなされます。
また、システム開発契約とは関係なく、システムの保守について委託契約がなされることもあります。
本ページでは、システムの保守契約・ソフトウェア保守契約(メンテナンス契約)を作成・締結する際の留意点についてご説明します。
システム保守契約作成・検討における留意点
システム保守契約と収入印紙
まず、システム保守契約に収入印紙の貼付は必要でしょうか。結論的にはその内容次第ということになります。
例えば、保守の内容に、システムのソフトウェアの不具合の修正や補修作業が含まれる場合には、これは「仕事の完成を約する請負契約」とされることが多いと解釈されます。
それで、この場合、単発的なものなら請負に関する文書(2号文書)に該当するとされ、契約金額に応じた収入印紙が必要となります(詳細は「システム開発・ソフトウェア・IT関連契約と収入印紙」をご覧ください)。
また、上のような業務が含まれ、かつ継続的に保守作業を行う基本契約であれば、継続的取引の基本となる契約書(7号文書)に該当することが多いと考えられます。
他方、保守の内容が、操作のサポートやアドバイス、バージョンアップ情報の提供等であれば、仕事の完成を約する契約ではなく、準委任契約となることが多いと考えられます。この場合、通常は印紙は不要と考えられます。
保守業務の範囲を明確にする
まず、保守業務の範囲を明確にする必要があります。例えば、保守契約において、単に「ベンダが本件システムの保守・運用を行う」とだけ記載されているとすれば、トラブルのもととなりかねません。
つまり、ユーザ側としては、システムのことならソフトウェアもハードウェアも保守料金の中で何でも保守してくれると考えるようになります。他方、ベンダ側としては、所定の保守料金で行えるのはこの範囲である、ということを頭に描き、「お客さんもこのことは分かっているだろう」と思い込んでしまいます。
そうすると、ユーザー側は、「システム会社は要望をやってくれない」と不満を持ち、他方ベンダ側は、「過剰要求だ」と不満を持つようになります。
そのため、以下のような事項をきちんと定めておくことは重要といえます。
- 保守業務の対象となるシステム・ソフトウェアの特定
- 保守業務の対象にハードウェア、OS、ミドルウェアなども含まれるのか
- 保守業務の具体的な行為
保守業務の具体的な行為を明確にする
保守業務の具体的な行為の例
保守業務の具体的な行為としては、以下のような項目が含まれるのか否かを検討することができると考えられます。
- システムのバックアップ
- システムの稼働状況・障害発生の監視
- ユーザへの操作指導
- ユーザからの問い合わせ対応
- トラブル発生時の原因の調査・切り分け
- トラブル発生時の修復
- ソフトウェアの補修
- ソフトウェアのアップデート版の提供
- ソフトウェアの機能改善・機能拡張
- データの保存、管理、バックアップ
トラブル発生時の原因の調査・切り分け・修復
トラブル発生時の原因の調査・切り分け・修復について考えますと、障害が発生した場合、その原因が必ずしも保守対象となるソフトウェアにあるとは限りません。第三者が提供したソフトウェアが関与している場合もありますし、ハードウェアや回線の問題であることもあります。
それで、まずは障害の切り分けが業務として位置づけられます。そして、障害の切り分けによって当該システムが原因であることが判明した場合、復旧、暫定的対応、補修といった各作業の中で、どこまでが所定の保守業務に含まれ、どこ以降が別途の契約や料金の範囲となるのか、といった点を明示します。
アップデート
システムが稼働するOSの更新への対応や、法令の改廃や事業環境の変化に伴うシステムやデータの更新が所定の保守業務に含まれるのか、別途の契約や料金の範囲となるのかを明示します。
保守対応の時間帯・方法を明確にする
また、保守業務の範囲として、保守対応の時間帯や方法なども明示する必要があります。
保守対応の時間帯については、通常の営業時間内とするのか、ベンダ側の営業時間を超えて、一定の時間を保守対応時間とするのか、といった点を明示します。また通常の営業時間内を原則としつつ、追加料金の支払で時間外対応も行う、という定め方もありえます。
保守対応の方法については、ユーザからの問い合わせについては、電話、電子メール、チャットなどの他の通信方法、ユーザの事業所へ赴いての保守対応が含まれるのか否か、といった点を明示します。
また、問い合わせ以外の技術的な対応については、ベンダの事業所からのリモートでの対応に限るとするか、オンサイト(ユーザの事業所へ赴いて)の保守対応が含まれるのか等を明確にします。
また、一部の業務について追加料金の支払で対応するという場合には、その旨と料金体系も明示します。
システム保守契約の主要条項とその解説
以下、顧客の事業所の端末で動作するソフトウェアの保守契約(ハードウェアを保守対象外とするケース)を例に取って、その主要な規定とそのポイントについて解説します。以下、クライアント=甲、受託者=乙が前提となっています。
なお、以下のサンプルはもっぱら主要条項の説明が目的ですので、網羅性・完全性・各条項の整合性については検証していません。それでこれを雛形(ひな形)として使用することはご遠慮ください。
契約の目的
規定例
第●条(保守業務の委託) |
条項のポイント
契約の目的として、保守業務の委託であることを明確にします。
また同時に、業務の性質を明示しておくことも重要といえます。一般に保守契約は準委任と考えられていますが、何らかの成果物の作成が絡む場合は疑義が生じますし、特に紛争時には相手から請負との主張が出るリスクがありますので、契約の性質を明示しておくことは重要といえるわけです。
ソフトウェアの特定
規定例
第●条(対象ソフトウェア) |
条項のポイント
保守業務の対象となるソフトウェアを特定します。定め方は様々ですが、上のサンプルのように、別紙において、ソフトウェア名、バージョン、オプションがあればオプションの内容、その他必要な事項を記載します。
また、契約期間中の更新版やバージョンアップ版が保守業務の対象となるのかを明確にしておくことも望ましいといえます。
保守業務の具体的範囲
規定例
第●条(保守業務の範囲) |
条項のポイント
前述のとおり、保守業務の具体的な行為をできる限り詳細に特定します。それは、曖昧な書き方による認識の違いが、相互の誤解や不信につながり、トラブルに発展するおそれがあるからです。
保守業務の実施場所
規定例
第●条(保守業務の実施場所) |
条項のポイント
前述のとおり、保守業務の範囲は具体的に特定します。そのうちの一つは、保守業務の実施場所です。この点を明確にしないと、ユーザ側は、何かあればすぐに自社に飛んできてもらえる、などと誤解する可能性があります。
また、ユーザーの事業所に主張する場合には所定の費用が別途発生することを明示しておくことは相互の認識の齟齬の解決に資するものとなります。
保守業務の対応時間
規定例
第●条(対応時間) |
条項のポイント
前述のとおり、保守業務の範囲は具体的に特定します。そのうちの一つは、保守業務の対応日・時間帯です。
また、時間外の対応の要否やその条件(追加料金など)について定めるケースもあります。また、月あたりの作業時間・人月の上限を設定するというケースもあります。
保守料金
規定例
第*条(保守料金) |
条項のポイント
当然のことですが、保守業務の対価となる料金について、明確に定めます。上の例は月額定額料金としていますが、そのほか、契約時に契約期間分を一括して定める方法、単価と工数を乗じる方法、作業内容ごとに定額の料金と定める方法、端末数に応じる方法、その他種々の定め方があります。
また、月額定額料金の場合、サンプルのように所定料金で対応する工数を定めることがあります。
また、保守業務時間外の対応を行う場合の料金も明示することは望ましいといえます。
契約期間
条項例
第●条(契約期間) |
条項のポイント
契約期間、更新の有無、方法などを規定します。
更新の有無や方法としては、自動更新にする、合意がない限り更新しないとするといった定め方があります。
契約期間については、長ければベンダ側としては一定期間の売上が確保されることになりますが、長すぎると長期間一定のサービスを提供する義務を負うことになり、将来の自体の変化に対応できないという意味で負担ともなります。
こうした要素を考慮したバランスの中で契約期間を定めることができます。
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