2017-03-14 定年後再雇用と待遇格差

ここでは、弊所発行のメールマガジン「ビジネスに直結する判例・法律・知的財産情報」のバックナンバーを掲載しています。同メルマガでは、比較的最近の判例の紹介を通じ、ビジネスに直結する法律知識と実務上の指針を提供します。

学術的・難解な判例の評論は極力避け、分かりやすさと実践性に主眼を置いています。経営者、企業の法務担当者、知財担当者、管理部署の社員が知っておくべき知的財産とビジネスに必要な法律知識を少しずつ吸収することができます。メルマガの購読(購読料無料)は、以下のフォームから行えます。

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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。

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前書き 論文掲載のお知らせ

 この度、弊所代表石下ら2名の弁護士で執筆しました「事業者名表示に代わる登録商標の表示」という論文が、日本知的財産協会(JIPA)が発行する「知財管理」誌2017年3月号に掲載されました。

「知的財産」誌 http://www.jipa.or.jp/kikansi/gaiyou.html

 同論文は、事業者名表示に代えて登録商標等を表示することができる旨規定している代表的な法令を解説し、商標の機能から若干の考察を加えるという、少し違った観点から商標制度を俯瞰するものです。

 日本知的財産協会は1000社近い企業が会員となっていますので、本稿の読者の皆さんの中にも、「知財管理」誌を手に取る機会のある方は少なくないと思われます。そのような機会がありましたら一度ぜひご笑覧ください。

1 今回の事例 定年後再雇用と待遇格差

 東京高裁平成28年11月2日判決

 A氏ら3名は、B社のトラック運転手として勤務しており、A社を定年退職後、契約期間1年の嘱託社員として再雇用されました。しかし、A氏らは、業務の内容は同じなのに正社員トラック運転手との間に約2割の賃金格差があるのは不合理であるとして、労働契約法20条を理由に訴えを起こしました。

 具体的には、A氏らは、無期雇用契約が適用される労働者であることの確認と、賃金の差額分の請求等をし、一審の東京地方裁判所は、A氏らの請求を認めていました。

2 裁判所の判断

 裁判所は主として以下の理由から、賃金格差は不合理とはいえないと判断し、地裁判決を覆してA氏らの請求を認めませんでした。

● B社が選択した有期労働契約は雇用確保措置として広く行われており、職務内容や職務遂行能力が変わらないまま相当程度賃金を引き下げることは広く行われている。

● 雇用確保措置の義務付けがされていること、企業が労働者全体の安定的雇用を実現する必要があること、在職老齢年金制度等の存在、定年後の再雇用が従前の雇用関係が消滅した上でなされることを考慮すれば、賃金の引下を行うこと自体が不合理とはいえない。

● A氏らに対する約2割の賃金引下は、同規模企業の平均減額率を下回るものであり、B社が本業において大幅な赤字となっていることも考えるとただちに不合理とはいえない。

● 労組との間で一定程度の協議が行われ、B社は一定の労働条件の改善を実施した。

3 解説

(1)労働契約法20条の概要

 労働契約法20条は、簡単に要約すれば、ある企業内に、無期雇用社員と有期雇用社員がいて、両者の労働条件の相違が、「期間の定めがあること」が理由となっている場合には、その相違は不合理なものであってはならない、という規定です。

 そして、この規定により不合理とされた労働条件は無効となります。結果として、原則として無期労働者と同様の労働条件となります。例えば、賃金に関する労働条件が無効とされる場合、企業は、無期雇用の従業員の賃金との差額分を支払う義務を負う結果となることがあります。

 そして、今回の事例では、高年齢者雇用確保措置としての定年後の再雇用であっても、労働契約法20条の適用の余地があることが明確にされました(ただし、これを前提に、地裁判決は差異を「不合理」と認定し、高裁判決は不合理性を否定しました)。

(2)ビジネス上の留意点

 定年後の再雇用の場合、賃金はカットされるものの、当該従業員が、定年前の業務と同じ業務に就き、同じ内容の職務を遂行するというケースは少なくないと思われます。この点、正社員との賃金の格差について「不合理」と判断されないためには、種々の考慮が重要となると思われます。

 この点、高裁判決と地裁判決では立場が異なっており、最高裁の判断がどうなるかは見えないところです。しかし、同一労働同一賃金の原則を政府が重視する方向にあることやリスクヘッジも考えれば地裁判決の見解も無視できないように思われます。それで、定年後は、安易に同一業務・同一職務を適用せず、同一業務でも責任を軽減したり、可能なら職種を若干でも変更するなどの検討を行うことは価値があるように思われます。

 また、通常正社員に適用される就業規則においては、会社が配置転換や転勤などを命じられるという定めがあることが多いと思われます。この点、定年後の再雇用については、可能かつ現実的であれば、転勤や配置転換(又はそのいずれか)を命じることはない旨を就業規則に定めることも、待遇の差異の不合理性を否定する一要素となるように思われます。

 また、賃金の減額幅については、可能な限り同規模の企業の取扱を調べて妥当なものとすることや、調整給などによる緩和措置、労働組合があれば制度の設計にあたって説明や協議を尽くすなどのプロセスを減ることも、無視できない重要な要素となるでしょう。

4 弊所ウェブサイト紹介~労働法 ポイント解説

弊所のウェブサイトの法律情報の解説のページには、ビジネス・企業に関係した法律情報に関する豊富な情報があります。

例えば本稿のテーマに関連した労働法については

   https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/roumu/index/

において解説しています。必要に応じてぜひご活用ください。

なお、同サイトは今後も随時加筆していく予定ですので、同サイトにおいて解説に加えることを希望される項目がありましたら、メールでご一報くだされば幸いです。

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