2017-02-28 フェイスマスクの意匠と意匠登録制度の基礎
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
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1 今回の事例 フェイスマスクの意匠と意匠登録制度の基礎
大阪地裁平成29年2月7日判決
A社は、美容用顔面カバー(美容フェイスマスク)の意匠権を有しているところ、一見類似する美容フェイスマスクを発売しているB社に対し、意匠権侵害を主張し、製造販売の差止、損害賠償の請求などをしました。
なお、A社意匠とB社製品は、言葉で説明するよりも画像を見るほうが分かりやすいと思います。具体的なそれぞれの商標・標章の画像は、以下のURLをご覧ください(左:A社意匠 右:B社製品)。
2 裁判所の判断
裁判所は主として以下のように判断し、A社の請求を認めませんでした。
● 美容フェイスマスクの用途、使用態様からすれば、女性を主とする需要者は、使用時の形状が顔にフィットする形態かどうかや、目、鼻、口部分の形状や耳かけの形状に注目する。
● 公知意匠でも、顔の輪郭に合わせて外側に凸となる曲線の形状をして、目、鼻、耳に孔があったり、鼻尖部が隆起する形状のものはすでに存在していたから、それだけでは新規な形態とは認められない。
● A社意匠とB社製品には以下のような違いがる。
<目部の孔> B社:両端が尖っている A社:横長楕円形
<鼻梁> B社:目部の孔から鼻尖部まで連続的に隆起し、頂点の折り込み線が鼻梁を構成
A社:なだらかに隆起して明確な鼻梁が認識できない
<耳・口> B社:耳部と口部の孔がハート型 A社:楕円
<全体的印象>B社:鼻筋の通った引き締まった顔立ちの印象
A社:のっぺりとした印象
● 以上から、両意匠を全体的に観察した場合、A社意匠とB社商品とは、需要者に与える印象が異なっており、両意匠は類似するということはできない。
3 解説
(1)意匠登録とは
本稿では、意匠登録制度の基礎的な知識について触れたいと思います。
意匠とは、製品のデザインのことであり、意匠登録を受けることにより、登録を受けたデザインを日本国内で独占排他的に使用することができます。言い換えれば、自社の登録意匠と同一又は類似するデザインを他社が使用することを差し止めたり、損害賠償の請求ができます。
意匠権の存続期間は、設定登録の日から20年であり、長期にわたって保護を受けることができます。
(2)意匠が登録を受けられる要件
もちろん、どんなデザインであっても意匠登録を受けられるというわけではありません。意匠登録を受けるために種々の要件がありますが、重要なものは以下の2点です。
(a)新規性
あるデザインが、これまで世の中で知られておらず、使用されていなかった「新しいデザイン」であることが必要です。もちろん、あるデザインの全部分が全く世の中になかったということではなく、既存のデザインに比べて新規な部分があれば、「新規性」は認められます。
(b)創作非容易性
あるデザインに新規な部分があり、その新規な部分が、既にあるデザインから容易には考えつかないデザインである必要があります。これを「創作非容易性」といいます。
既存のデザインから、容易に考えつくようなものを、ほんの少し手を加えただけで意匠権が認められてしまうと、かえって産業の発展を阻害してしまうというのが理由です。
(3)ビジネス上の留意点
意匠登録制度は、もっと活用されてよい制度ではないかと個人的には考えています。
例えば、容易にご想像のとおり、意匠登録は模倣品対策において重要な武器となります。特に優れたデザインほど安価な模倣品が出回るおそれが強くなり、放置すると自社製品やブランドの市場価値が下落したり、価格競争に巻き込まれたりしますが、こうした事態を防ぐことができるからです。
この点ある方は、「著作権で保護されるのではないか」「お金をかけて意匠登録する意味があるのか」と考えます。しかし、意匠登録の対象となるような工業デザインは、極めて例外的な場合を除き、基本的に著作権の保護の対象外と考えられています。
またある方は、「そもそも模倣自体許されない、違法ではないか」と考えるかもしれませんが、いったん市場に出て知られるようになった製品と同じ又は類似のデザインを採用することは、ただちに違法とは考えられていません
確かに不正競争防止法では、ある製品の販売開始後3年間は、その製品の形態の模倣が原則として禁止されますが、この場合、権利者は「故意に模倣した」という事実を立証する必要があり、この立証はハードルが高いのです。またこの場合、同一又は実質的に同一の製品は規制されますが、「類似」の製品は規制されません。
他方、意匠権侵害であれば、故意に模倣したかたまたま類似したかは関係がありません。当該製品が登録意匠と類似することを立証すれば足りますし、規制の範囲も「類似」に及びます。したがって、工業デザインを保護するための方法としては、意匠権は優れた手段であると考えます。
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