2017-01-10営業秘密の保護と秘密管理性

ここでは、弊所発行のメールマガジン「ビジネスに直結する判例・法律・知的財産情報」のバックナンバーを掲載しています。同メルマガでは、比較的最近の判例の紹介を通じ、ビジネスに直結する法律知識と実務上の指針を提供します。

学術的・難解な判例の評論は極力避け、分かりやすさと実践性に主眼を置いています。経営者、企業の法務担当者、知財担当者、管理部署の社員が知っておくべき知的財産とビジネスに必要な法律知識を少しずつ吸収することができます。メルマガの購読(購読料無料)は、以下のフォームから行えます。

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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。

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前書き

 本稿を執筆している弁護士の石下(いしおろし)と申します。2017年もスタートしました。本年もよろしくお願い申し上げます。

 前回も触れましたが、この度、レクシスネクシスジャパン株式会社が発行する「Business Law Journal」 2017年2月号付録の”LAWYERS GUIDE 2017″にて、弊所が紹介されました。

  http://www.businesslaw.jp/contents/201702.html

 同誌では、西村あさひ法律事務所といったビッグファームや中村合同特許法律事務所といった知財に特化した事務所など、ビジネスローにおいて実績を残している我が国の代表的な事務所が紹介されています。

 多くの企業の法務部や知財部が購入している雑誌ですので目にする方もおられるかと思いますが、機会があれば弊所の掲載ページ(54~55頁)をぜひご一読ください。

1 今回の事例 営業秘密の保護と秘密管理性

 知財高裁平成28年12月21日判決

 冠婚葬祭業や互助会事業を営むA社が、A社を退職して競合他社の職に就いたB氏に対し、A社の営業秘密である会員名簿を不正に使用しているとして、不正競争防止法に基づき、B氏が会員名簿記載の者に対してA社との互助会契約の解約等の勧誘を行うことの差止などを求めました。

 本件での争点は多岐に及びますが、本稿では、A社の会員名簿の「営業秘密性」に絞って取り上げます。

2 裁判所の判断

 裁判所は以下のように判断し、A社の請求を認めませんでした。

● A社は、会員情報の資料原本について、施錠した倉庫への保管やパスワードの設定等により厳重に管理していたと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
 
● A社は、営業活動の便宜のため、個々の担当者が会員情報をノートに転記し、また互助会の申込書の写しを保管することを許容しており、A社がこれらノート類について、いかなる管理措置を講じていたか不明である。

● B氏の退職時に、上記ノートの回収や廃棄を命じたとも認め難い。

● したがって、会員情報は、従業員等に対し秘密として管理されていることを明らかにする態様で管理されていたとは認め難く、不正競争防止法2条6項の「営業秘密」に当たるとはいえない。

● 仮に、資料原本がA社の主張する態様で管理されていたとしても、当該措置は実効性を失い、形骸化していたから、もはや秘密管理性は認められない。

3 解説

(1)営業秘密の3要件

 今回問題となったのは、不正競争防止法2条1項で禁止の対象となっている「営業秘密」の不正使用等の前提として、A社の会員情報が営業秘密に該当するか否かでした。

 確かに多くの企業にとって、顧客情報や技術上のノウハウといった営業秘密は、現代においては有形資産に勝るとも劣らない重要性を持つ企業の資産のコアともいえ、こうした営業秘密の保護は重要な課題です。それで、規程類を整備することに加え、不正競争防止法の活用を検討すべきケースは少なくないと思われます。

 この点、不正競争防止法上保護される営業秘密となるためには、以下の3つの要件が必要とされています。

 ア) 秘密として管理されていること(秘密管理性)
 イ) 事業活動に有用な情報であること(有用性)
 ウ) 公然と知られていないこと(非公知性)

 そして裁判上最も問題となるのは、ア)の秘密管理性の要件であり、本件でもそうであったように、原告側が敗訴する場合、秘密管理性がない、という理由が目立っています。そこでこの「秘密管理性」についてもう少しご説明します。

(2)秘密管理性の判断要素

 営業秘密の3要件のうち、中核的要件ともいえる秘密管理性について、判例は、当該情報へのアクセスの制限や秘密表示といった措置によって、客観的に見て従業員などが客観的に見て秘密として認識できるような態様によって管理されているか否かで判断してきました。

 もう少し具体的には、秘密管理性を判断するにあたっては、過去の裁判例は、以下のような管理状況を考慮してきました。

 (a)物理的管理
    施錠による管理
    施設への入退室制限
    秘密表示(マル秘といった表示)
    台帳による閲覧記録
    媒体の持出制限
    情報の返還や廃棄の管理

 (b)技術的管理
    ID/パスワードの設定・変更・付与者の限定
    情報の機密性に応じたアクセス権者の限定・設定
    情報が保存されるサーバやコンピュターの外部ネットワークからの遮断

 (c)人的管理
    秘密保持契約の締結
    教育や研修の実施
    業務委託先の秘密情報の管理

(3)ビジネス上の留意点

 以上のとおり、判例上「秘密管理性」が認められるためには、法律上の要件を意識し、客観的に見て、「その情報は営業秘密である」ということが明らかに認識できる程度の厳格な管理が必要であることを認識する必要があります。

 また、管理部署では厳格な一元管理がされているとしても、現場レベルでは秘密情報の自由なコピーや担当者による緩やかな保管が事実上許されているといった実態があるならば、こうした点が落とし穴とならないように管理の実態も掴んでおく必要があります。

 確かにこうした管理は日常的に手間やコストがかかるものではありますが、いざ営業秘密が不正使用された場合のダメージの甚大さを考えると、日常の数秒から数分の一手間が事故発生時に会社を守る、という意識を社内に浸透させることは重要であると考えます。

 もっとも、裁判例でも、秘密管理性の判断にあたっては、会社の規模や組織に応じて多少柔軟に考える場合もあります。それで、弁護士と相談しつつ、自社の組織・業務手順・情報の性質・リスクを考慮した、できるだけコストや手間を軽減し、実行しやすい方法を探ってみるのも手かもしれません。

4 弊所ウェブサイト紹介~不正競争防止法解説

弊所のウェブサイトの法律情報の解説のページには、ビジネス・企業に関係した法律情報に関する豊富な情報があります。

例えば本稿のテーマに関連した不正競争防止法については

  https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/fukyouhou/index/

において、不正競争防止法の各事項について解説しています。

ぜひ一度ご覧ください。

なお、同サイトは今後も随時加筆していく予定ですので、同サイトにおいて解説に加えることを希望される項目がありましたら、メールでご一報くだされば幸いです。
 
 

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