2016-11-15 共同著作物の取扱と留意点

ここでは、弊所発行のメールマガジン「ビジネスに直結する判例・法律・知的財産情報」のバックナンバーを掲載しています。同メルマガでは、比較的最近の判例の紹介を通じ、ビジネスに直結する法律知識と実務上の指針を提供します。

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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。

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前書き

 本稿を執筆しております弁護士の石下(いしおろし)です。いつもご愛読ありがとうございます。

 前書きは前回の続きです。これまで、健全な判断をする多くの経営者は、事前に専門家にコストをかけ契約書を整えることは、取引や事業に伴うリスクの回避・軽減のためには、自動車保険と同様の必要経費と見ているということを申し上げました。

 では、上の「リスク」にはどんなものが含まれているのでしょうか。前回申し上げた「契約書は中立ではない」に加えて、「同じような内容でも書き方で効果が異なる」ということも挙げられます。

 契約書の世界では、同じような内容でも、言い方によって効果が180度近く変わったり、表面上書かれている効果が実際は骨抜きになったりすることがあります。

 例えば、ある条項が、一見すると自社に有利な内容に見えることがありますが、実際裁判になったとき、その有利な条項の適用を主張するための事実の立証がきわめて厳しい、という場合があります。あるいは、一見自社に有利な条項ですが、いざ訴訟に勝っても現実的に執行ができない、という場合もあります。これらの場合には、結果的にはその有利な条項はほとんど意味をなさなくなる、ということになります。

 したがって、ある契約書の規定・書き方を判断するに当たっては、リスクを軽減するために「最終的に裁判になった場合通用するか」という、専門家ではないと判断が難しい視点が重要となってくるのです。

 なお、本稿の末尾には、弊所取扱案件として英文契約実務(IT・ソフトウェア編)についてご紹介しています。ご関心があればこちらもご覧ください。

 では、本文にまいります。

1 今回の事例 

 東京地裁平成27年10月26日決定

 A氏は、B社が発行する、判例を収録・解説した雑誌『著作権判例百選』の第4版の編者の一人です。第4版は113件の判決からなり、編者としてA氏を含めた4名が記載されて刊行されました。

 第4版は、掲載判決の選択・配列と執筆者の割当について、編者であるC氏と編集協力者D氏がまずリストを作成の上、他の編者の意見を求めながら原案(110件)を作成し、その後4名の編者らによる意見交換を経て最終的に113件にまとめられたものでした。

 そして、その後発行された同書の第5版には、A氏が編者・編集著作者として表示されないことが分かりました。そこで、A氏が、第5版は第4版を翻案したものであって、第5版の頒布等は、第4版の編集著作者であるA氏の著作権、著作者人格権を侵害するとして、差止の仮処分命令を求めました。

2 裁判所の判断

 裁判所は以下のように判断し、A氏の申立てを認めました。

● A氏は編者として表示され、編集著作者として推定されるうえ、編集段階のやり取りの中でA氏が編集著作者として参画したとの評価を覆す事情はない。

● 第4版は、C氏・D氏の選択・配列による原案を基礎とするものの、A氏を含む編者による修正等がされ、最終的に素材の選択・配列が確定されて完成したもので、A氏による素材選択には創作性もあり、第4版それ自体がA氏を編集著作者の一人に含む編集著作物となる。

● 第5版は、収録判決(85%)・執筆者(81%)・判決と執筆者の組合せ(72%)・配列順序(72%)の大半が第4版と一致することから、第4版の翻案に該当する。

● よって、第5版の頒布等により、A氏の著作権・著作者人格権が侵害される。

3 解説

(1)共同(編集)著作物とは

 本件では「共同著作物」が問題となっています。そもそも「共同著作物」とは何をいうのでしょうか。具体的には以下の要件を満たすものが共同著作物となると考えられています。

 ● 複数の者が創作に携わること
 ● 共同関係があること
 ● 単一の著作物について、各人の寄与を分離して個別的に利用できないこと

 他方、1冊の本について、甲が第1章を執筆し、乙が第2章と第3章を執筆したというような場合には、作品全体の創作に関しての共同行為がみられませんので、それぞれ独立した著作物が結合している「結合著作物」と考えられます。

(2)共同著作権の扱い

 このように共同で創作された著作物もそうですし、複数の相続人が相続した著作物についても、その著作権は共有となります。そして、著作権法における共有にかかる著作権の扱いは、以下のとおり若干厄介です。

 例えば、各共有者は、その持分を譲渡するなど、著作権の共有持分を処分する場合、共有者全員の合意を得る必要があります(65条1項)。

 また、共有著作権は、共有者全員の合意によらなければ「行使」することができないものとされています(65条2項)。その「行使」の一つに、著作権の利用許諾(ライセンス)があります。

 他方、著作権に基づく差止請求・損害賠償請求等は、各共有者が単独で行うことができます(117条)。本件は、A氏による差止請求だったため、A氏が単独で行うことができたわけです。

(3)実務上の留意点

 以上のとおり、著作権が共有となる場合、その扱いには大きな制約(特に全員の共有者の合意を要する場合)が加わります。そのため、今回の事案とは少し離れますが、実務上、契約等においてある著作物を安易に共有とすることは慎重に考える必要があります。

 例えば、ソフトウェア開発委託において、契約規定中、成果物の著作権の帰属について双方の主張が対立し、まとまらないということがあります。この場合、妥結案として、成果物の著作権を「共有」とするという案が用いられることがあります。

 しかし、単に「著作権は共有とする」と規定するだけにとどめ、他の規定を定めない場合には困ったことが起こりえます。例えば開発委託者は、開発したソフトウェアを第三者にライセンスしたいと思うかもしれません。

 ここで著作権法についての知識がないと、「共有なのだから自社で自由に使えるだろう」と考えてしまうかもしれません。ところが、受託者側から、「成果物の著作権は共有だから、第三者へのライセンスには自己の同意が要る」などと主張され、これが紛糾の種となるということがありえるわけです。

 ですから、仮に著作権を共有とするとしても、自社のビジネスを具体的に念頭に置いた上で、後々の成果物の利用に支障が生じないよう、他の条件を契約書にしっかりと定める必要があります。例えば以下のようなものが考えられます。

 ・当該成果物をどのように利用できるか
 ・複製のほか、改変や改良については単独でどこまで行えるのか
 ・また他者への利用許諾(ライセンス)ができるのか、できるとしてその条件は何か、
 ・著作権の共有持分の譲渡は可能
 ・一方が倒産した場合の共有持分の処理

 契約交渉においては妥協はつきものですが、それに際しては、生じうるリスクとビジネスへの支障をできる限り回避するような周到な方策を同時に考え、勝ち取れるよう交渉を行うことが実務上は重要であると考えます。

4 弊所取扱案件紹介~英文契約実務(IT・ソフトウェア編)

 近年では多くの企業が海外取引に積極的に取り組んでいます。海外取引・国際取引では英文契約はまさに自社を守る必須のツールといえます。

 また国内ビジネスであっても、海外企業の代理店になるとか、海外企業と取引する場合には英文契約の締結が必要となる場合が少なくありません。

 そして弊所では、英文契約業務に積極的に取り扱い、多くの企業の国際化を支援しています。

 これまで弊所が作成・レビューとして取り扱ってきた英文契約は多種多様ですが、今回は特にIT・ソフトウェア関係のものをピックアップすると、以下のようなものがあります。

  ・ウェブサイト利用規約
       (Terms of Service for Internet Website)
  ・ソフトウェア使用許諾契約書
       (Software Licensing Agreement)
  ・ソフトウェア・エスクロー契約書
       (Software Escrow Agreement)
  ・サービスレベル合意書(Service Level Agreement)
  ・アウトバウンドテレマーケティング契約書
    (Outbound Telemarkething Markething Agreement)
  ・電子出版契約書
       (Electronic Publishing Agreement)

 弊所では海外取引・国際契約をご検討の方のご相談を歓迎します。詳細は以下のURLをご覧ください。

取扱案件詳細~英文契約書実務

 
 

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