2016-06-14 メンタルヘルス不調者の休職と復職の要件
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
1 今回の判例 メンタルヘルス不調者の休職と復職の要件
東京地裁平成27年7月29日判決
A社に総合職として雇用されたB氏は、約5年7か月予算管理業務に従事した後、平成22年4月に統合失調症の疑いと診断され、平成24年2月29日まで休職を命じる旨の休職命令に従い休職していました(なおその後、B氏はアスペルガー症候群と診断されました)。
そして、A社はB氏に対し、前記年月日をもって休職期間満了による自然退職となる旨を告知したところ、B氏は、休職期間満了時において就労が可能であったと主張し、休職期間満了後の賃金等を請求しました。
本件での大きな争点は、復職要件たる「休職の事由が消滅した」の意義をどう捉えるかという点と、B氏について「休職の事由が消滅した」といえるかという点でした。
2 裁判所の判断
裁判所は概略以下のように判断し、B氏の請求を認めませんでした。
● 「休職の事由が消滅した」とは、原則として、従前の職務を通常程度に行える健康状態、若しくは当初軽易作業に就かせればほどなく従前の職務を通常程度に行える健康状態になった場合をいう。
● また、職種・業務を特定せず締結した労働契約の場合、現業務について労務提供が十全にはできないとしても、現実的可能性がある他の業務について労務提供ができ、かつ、その提供を申し出ているならば、休職事由の消滅といえる。
● B氏については、上司とのコミュニケーションが成立せず、不穏な行動で周囲に不安を与えている状態である以上、予算管理業務で就労可能とは認めがたい。
● またB氏は職場復帰面談の際にソフトウェア開発業務の技術職への異動を申し出ているが、同業務であっても対人交渉は不可欠であり、B氏の精神状態では労務提供が不可能である。
3 解説
(1)私傷病休職制度とは
労働者の最大の義務は、労働契約に定めた労務の提供です。それで、従業員が私傷病(業務以外の理由で生じた病気や怪我)により労務の提供ができなくなれれば、本来は、会社が解雇してもやむをえません。
しかし、休職制度は、そのような場合でも、回復が見込まれるならば、ただちに解雇せず、会社に在籍させたまま一定期間勤務を免除する制度です。言い換えれば休職制度は、一定期間解雇を猶予する制度といえます。
(2)私傷病休職制度の内容・運用
休職制度は法律で定められている制度ではありません。ですので、会社が休職制度を採用するか否かは会社の裁量によります。
もっとも、私傷病で勤務できなくなったという従業員に対していきなり解雇することは無効とされるリスクが無視できないことを考えると、休職制度によって回復の機会を与えるというのは穏当な制度かと思います。
また、休職の内容、すなわち休職事由、休職期間の賃金支給の有無、休職期間の長さ、復職の要件、判断の手順などは、通常は就業規則において、会社の裁量で決めることができます。もっとも賃金については、「ノーワーク・ノーペイ」の原則に従い、休職期間は無給とする会社が多いと思われます。
ただし、賃金は無支給であっても、休職期間中の社会保険料は、会社負担分・本人負担分それぞれ負担義務が生じます。
また、休職期間満了時に復職の要件が満たされない場合、会社はあえて「解雇」する必要はなく、労働契約は当然に終了(自然退職)することとなります。
(3)復職判断の困難性とプロセス
私傷病休職における自然退職がどのような場合に有効となるかについては、本件で紹介した裁判所の考え方は裁判実務に沿ったものと考えられ、参考になると思われます。
そのほかの点として、本件では、A社がB氏に対し、産業医も交えた複数回の職場復帰面談を行ったり、また試験出社を実施したりと、さまざまな措置を取っていることが指摘されています。そして、裁判所は、面談や当該出社の際のB氏の状態も重要な要素として、復職要件たる就労可能性を判断しています。
それで、休職期間満了時の休職事由の消滅の判断にあたっても、会社が即断せず、従業員の復職可能性に配慮した慎重なプロセスを経ることや、そのプロセスをしっかり立証できる手段を確保することは、意外と重要なものではないかと思われます。
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