2016-04-05 インターネットモール運営者と特許侵害

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1 今回の判例  インターネットモール運営者と特許侵害

知財高裁平成27年10月8日判決

 A社は、特定の貝殻を粉砕した炭酸カルシウム粉末とこれを焼成してなる酸化カルシウム粉末とが混合されていること等を特徴とする、洗浄剤に関する特許を有していました。

 そしてA社は、インターネットモールを運営するB社に対し、出店者が販売している同特許の侵害品(とA社が考える製品)である製品Xの販売等の差止を求めました。

 なおA社は、B社がモール運営者であって製品Xの販売者であると主張したほか、出店者と共同不法行為の責任を負う、等と主張しました。

2 裁判所の判断

 裁判所は以下のように判断し、A社の請求を退けました。

● B社のネットモールは、出店者が販売を行うものであり、売買は出店者と顧客の間でなされている上、取引の当事者が出店者であることが明確に表示されている。それで、たとえ製品Xがモール上に紹介されていたとしても、B社が自ら製品Xを販売しているとはいえない。

● A社は、B社が出店者とともに共同不法行為責任を負う等主張するが、これが出店者の販売行為を幇助するという趣旨であるとしても、「幇助」という行為は特許法に定める直接侵害にも間接侵害にも該当しない。

● よって、A社がB社に対して請求する、製品Xの販売の差止請求については、認められる余地がない。

3 解説

(1)インターネットで「場」を提供する事業者に関する問題点

 今回の判決では、インターネットモールにおいて特許権の侵害と主張される製品が販売されていた場合に、出店者のみならず、モールの運営者にも責任があるかが問題となりましたが、裁判所は結論的に請求を退けました。

 他方、本稿でも数年前に触れましたが、商標権侵害品のケースで、インターネットモールが、権利者から警告を受けたのに一定期間に適切に対応しない場合に責任を負う余地があると判断されたケースがあります(知財高裁平成24年2月14日判決。チュッパチャップス事件)。

 この点両判決は矛盾するという評価もありえます。他方、特許侵害の有無は判断が非常に難しく一見して侵害といえるケースは少ない(本件も結論的に製品X自体の特許侵害も否定している)のに対し、商標権侵害は、偽物やコピー品のように侵害判断が比較的容易なケースが少なくないため、モールの運営者の義務も異なっているのではないか、という根拠づけもあると思われます(筆者の私見)。

 したがって、本件の事例をもって、「インターネットモールの運営者は、権利侵害品の販売について何も対応しなくても責任を負うことはない」と考えることは短絡的に過ぎると思われます。むしろ、権利者から警告があった場合には、權利の性質や侵害品(と主張されるもの)の内容に応じ、対処すべきものはきちんと対処する、というスタンスは重要かと思います。

(2)第三者から侵害の警告・指摘を受けた場合のモールや掲示板運営者の実務上の対応

 では、第三者から権利侵害の指摘や警告を受けた場合を念頭に、運営者がどんな対応ができるでしょうか。以下、事前に行えることと、事が起きた際に行うべきことについて、若干の例を考えます。

 ア)事前の規約等の整備

 まずは、自社のリスク軽減と、有事の際の対応を可能とするという観点から、以下のような内容のうち、効果的・現実的と思うものを利用規約等において整備することが考えられます。

  i 自社商品が第三者の権利を侵害していないことを出店者が保証する旨の規定

  ii 運営者から請求を受けた場合、出店者が自社商品の権利侵害調査を行い、運
   営者に調査結果を書面で報告する義務を負う旨の規定

  iii 出店者の調査義務とは別に、運営者自ら出店者の商品の権利侵害調査を行う
   権限を有する旨、その結果、運営者が、自己の裁量と判断で、出店者ページや対
   象商品のページを削除し、又は表示の一時停止をする権限を有する旨の規定

  iv 出店者からの報告や運営者の調査の結果、侵害の疑いが拭えない場合、この点
   が解決されるまで、運営者が自己の裁量と判断で、出店者ページや対象商品の表
   示の一時停止をする権限を有する旨の規定

  v 運営者が紛争に巻き込まれた場合、運営者が出店者に対して、調査や対応に要し
   たコスト・支払った賠償について求償でき、出店者が補償する旨の規定

 イ)実際の警告・指摘があった場合の対応

 先に触れたとおり、権利侵害の指摘を受けた場合、モールや掲示板等の運営者は、権利の性質によっては、侵害を知ってから「合理的期間内」に、つまり迅速に対応することが必要となる、と判断されることがあります。

 この点前述の商標権侵害のようなケースでは、上のような対応は必要ではないかtと考えられます。他方、本件のような特許侵害の主張や、不正競争防止法違反の主張というケースでは、微妙なケースも多数ある中、運営者としてはどのように動くべきでしょうか。

 これについては、残念ながらすべてのケースに当てはまる最適解を一つに絞ることは難しいと思われますのが、以下のような選択肢を踏まえ検討すると有益かもしれません。

  (i) 侵害が確定するまではそのまま出店者による販売を許す。
  (ii) 一見して侵害と分かる製品以外は、そのまま出店者による販売を許す。
  (iii) 出店者から非侵害の旨の合理的な説明があれば、そのまま出店者による販
   売を許す。そうでない場合、侵害の有無が解決されるまで、掲載を停止する。
  (iv) 出店者によって、非侵害の旨の弁護士や弁理士の合理的内容の意見書が提出
   された場合のみ、そのまま出店者による販売を許す。それ以外の場合、侵害の有
   無が解決されるまで、掲載を停止する。
  (v) 一見して侵害ではないと分かる製品以外は、侵害の有無が解決されるまで、
   掲載を停止する。
  (vi) 侵害の有無が解決されるまで、一律掲載を停止する。

 以上の選択肢のどれがベストかは、現時点では様々な見解がありえます。しかし、モールのポリシー、法的リスク、コンプライアンスに対する姿勢、運用のしやすさ、コスト等を踏まえた経営判断のうえ会社としてのスタンスを決めることは、場当たり的な対応を避けられるという意味で運用上も望ましいかもしれません。



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