株主総会の議事・議決

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株主総会の議事進行の基本

株主総会の目的を把握する

 株主総会の運営を考えるにあたっては、不必要に難しく考える必要はなく、株主総会を開催する目的を把握して、これを達成させるために必要なのは何か理解することが基本となります。

 この点で、株主総会の最大の目的は、総会で議決すべき事項について、議案を可決することにあります。その目的を念頭に、基本的な議事の流れと行うべき基本的事項を遂行すればよいわけです。

議事進行の流れ

 一般的には、株主総会は以下のとおり進行します(以下は一括上程方式)。なお、具体的なイメージは、株主総会の議事進行例(シナリオ)をご参照ください。

 (1)議長による開会の宣言
 (2)事務局より出席株主数と株式数の報告
 (3)議事進行上のルール・発言の機会の求め方等についての出席者への説明
 (4)監査報告
 (5)報告事項の報告
 (6)議案上程
 (7)質疑応答
 (8)決議事項を諮る
 (9)終了宣言
 以下、個別の論点についてご説明します。

会場設営の問題

第二会場を準備する場合

 何らかの事情で出席株主数が想定外に増加をする可能性が考えられる場合、第二会場を用意しておくことという手段が取られることがあります。

 そして、第二会場の株主の質問を受ける場合、質疑の円滑性や他の株主からの可視性等を考慮して、質問する株主が第一会場へ移動して質問するよう段取りを組む会社が多いと考えられます。

 この場合には、リハーサル等で第二会場からの質問がなされたケースについて準備しておく必要があります。そうでないと、株主総会の現場で、質問する株主の誘導に手聞取るなどの障害が発生することがあります。

議長は誰がなるか

 株主総会の議事進行は、議長によって行われます。議長については通常は定款で定められていますが、多くの定款では代表取締役(又は社長)と定められていると思われます。

 定款で議長が指定されていなければ総会で選出された者が議長となって議事を進めます。

報告事項の報告

事業報告

 取締役は、事業報告の内容を定時株主総会に報告しなければならないと定められています(会社法438条3項)。それで、事業報告ついては報告事項となります。

 また、報告事項の報告については、近年では、スライドとナレーションを利用し、出席株主にわかりやすく説明する会社が増えています。特に、報告事項については分量も多くなりがちで、読み聞違って誤った報告事項の報告がなされないようにするために、ナレーションを利用することは有益かもしれません。もっとも、報告事項のうち重要な点や「対処すべき課題」等、議長が自らの肉声で語るべきと判断するケースもあると考えられます。

計算書類

 計算書類については、会社法は、定時株主総会の承認を受けなければならないとされています(会社法438条2項)。したがって、会社法の原則からは、計算書類については報告事項ではなく決議事項となります。

 しかし、会計監査人設置会社においては、一定の場合には、株主総会の承認は不要となり、計算書類を株主総会に報告すれば足ります(会社法439条、会社計算規則135条)。具体的には、会計監査人の会計監査報告の内容に無限定適正意見が含まれていること、監査役会又は監査委員会の監査報告に、会計監査人の監査の方法又は結果を相当でないと認める意見がないこと、監査役会又は監査委員会の監査報告に付記された内容に、会計監査人の監査の方法又は結果を相当でないと認める意見がない場合等の各要件がすべて満たされる場合です(具体的には会社計算規則135条参照)。

 したがって、この場合には報告事項となります。

連結計算書類

 事業年度の末日において大会社であって金融商品取引法24条1項の規定により有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない会社は、連結計算書類を作成しなければならないと定められています(会社法444条3項)。連結計算書類とは、連結貸借対照表、連結損益計算書、連結株主資本等変動計算書、連結注記表です(会社法444条1項、会社計算規則61条1号)。

 連結計算書類は、会計監査人設置会社においては、監査役(委員会設置会社にあっては、監査委員会)及び会計監査人の監査を受けなければなりません(会社法444条4項)。一方、会計監査人設置会社が取締役会設置会社である場合には、監査を受けた連結計算書類につき、取締役会の承認を受けなければなりません(会社法444条5項)。

 そして、監査を受けた連結計算書類、取締役会の承認を受けた連結計算書類は、その内容と監査の結果を定時株主総会に報告しなければならないと定められています(444条7項)。

報告事項とナレーション等の活用

 また、事業報告や連結計算書類の内容については、近年では、スライド・映像とナレーションを利用し、出席株主にわかりやすく説明する会社が増えています。

 この方法は、無味乾燥な書面を読み上げることに比べ、株主にとってはわかりやすいといえます。また、法的観点から見ても、分量も多く数字の羅列が続く報告事項を、読み誤って誤った報告事項の報告がなされるなら株主総会の取消事由ともなりかねませんから、こうしたリスクを避けるという観点からもナレーションを利用することは有益かもしれません。もっとも、報告事項のうち重要な点や「対処すべき課題」等、議長が自らの肉声で語るべきと判断するケースもあると考えられます。

議案上程

議長による議案上程

 決議事項の上程については、ナレーションに委ねず、議長が読み上げる例が多いと考えられます。

 この点、議長が議案の重要な部分を読み間違った場合、誤った内容で決議が成立したと主張されかねません。それで、事務局がチェックし、読み違いを議長に伝え、直ちに訂正できる体制整えておくことは重要と考えられます。

議案の上程方法~一括審議方式と個別審議方式

 議案(決議事項)の上程と審議の方式には、一括審議方式と個別審議方式があります。

 一括審議方式とは、議案全てを一括して上程して審議を行った後に、採決のみを順次行なう方式とされています。つまり、全議案を一括で提出し、全議案についての質問、動議、その他全ての発言を受け、その後は採決のみを行います。他方、個別審議方式とは、個別の議案ごとに、議案上程、審議、採決を行なう方式です。

質疑応答・株主の発言機会

株主からの質問への対応

株主の質問権と役員の説明義務

 取締役、会計参与、監査役及び執行役は、株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、当該事項について必要な説明をしなければなりません(会社法314条本文)。そしてこの説明義務を果たさないと、株主総会の取消事由となる場合があります。

 つまり、一般に、取締役、監査役には、株主総会において株主から説明を求められた事項につき説明をする「説明義務」があります。他方、株主には「株主の質問権」があるわけです。

回答を要しない質問

 他方、嫌がらせとしか思えない質問が出る可能性があります。どのように対処したらよいでしょうか。以下のような質問には、答える必要はありません。

議案に関しないとき(会社法314条ただし書き)

 総会での説明義務、質問権の趣旨は、議案について株主が判断するための材料を提供するためです。したがって、この議案と無関係な質問には答える必要がありません。

株主の共同の利益を著しく害するとき(会社法施行規則71条2号)

 株主総会は公開の議場で行われます。それで、企業秘密に属する事柄、例えば、研究開発中の製品に関する機密情報に属する質問、生産コストや販売原価などの営業機密に属する質問等に答える必要はありません。

回答に調査を要するとき(会社法施行規則71条1号)

 調査を要するような質問は、事前に書面で提出しなければなりません。事前の質問の提出がなく、総会で質問が突然調査を要する質問が出た場合、答える必要はありません。

株主が当該株主総会において実質的に同一の事項について繰り返して説明を求める場合 (会社法施行規則71条3号)

 同じ質問に繰り返して説明する必要はありません。

その他、説明しないことに正当な事由のあるとき(会社法施行規則71条4号)

 上記のほか、質問がもっぱら議事の妨害を目的としてなされたような場合など、答えないことに正当な理由がある場合も、回答する必要はありません。

株主からの動議への対応

 株主総会において、株主から動議が出された場合に、どのように対応すべきでしょうか。

 動議とは、出席した株主・その代理人、又は出席役員が提出することができるもので、議案の修正動議と、議事進行に関する手続的な動議があります。

 議案の修正動議については、まず、総会で株主が提出できる動議は、招集通知に記載されている議案または議題の修正にとどまり、新たに議題を提出することはできません。また、招集通知及び株主総会参考書類の記載内容から株主が一般的に予見し得る範囲を超えるような動議を提出することもできないと解されています。

 例えば、最終決算の承認、利益処分案の承認が議題とされていた総会において、取締役解任の動議がされても、招集通知に記載されていない以上、決議を行うことはできません(決議取消の理由になる。ただし、総会に株主全員が出席しているときは可能)。

 それで議長としては、議案の修正動議が出された場合、そもそもその「動議」が原案に対する意見なのか、動議なのかを当該株主に確認の上、「動議」である場合、これが提出可能な修正動議か否かを見極める必要があります。

 もっとも、この見極めは必ずしも容易ではないことを考えれば、実務的には、動議を提出した株主等に修正提案の趣旨説明等をしてもらい、動議の採決についても原案の採決の際に行うこと、原案を先に採決することを議場に諮り了承を経た上で、先に原案を可決し、動議を否決する扱いとすることが現実的な対応と思われます。

 また、議事進行に関する手続的な動議としては、議事に諮るべき動議と議長の裁量で決定できる動議があります。例えば、議長不信任の動議、調査役選任動議、延期・続行の動議、 会計監査人の出席要求動議等は、議事に諮るべきものと解されています。その他のものは、基本的には、議長の裁量で議事に諮ることをしない、という判断も可能です。

 もっとも、議長としは、手続的動議が出された場合、審議に付するかどうかを総会に諮った上で、賛成多数の場合、当該動議を審議するという手順が現実的かと思われます。

 なお、動議への対応の具体的なイメージは、こちらをご覧ください

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