5.2 輸出入差止による商標権侵害防止の方法
税関における輸出入差止(輸出入差止申立制度)とは
制度の概要とメリット
侵害商品が海外から国内に輸入される場合、税関に対し侵害品の輸入の差止申立てをすることができます。それは関税法において、商標権を侵害する物品が、輸入の禁制品とされているからです。また、平成18年の法改正によって、輸出の差止もできるようになりました。
そして、輸入差止申立制度を利用することにより、市場に侵害物品が出回る前、海外から輸入される侵害物品をいわば「水際」で排除することが可能となります。
また、この輸入差止の申立においては、輸入者を特定する必要はなく、侵害物品が市場に出回っていることの証明ができれば、海外から輸入された時点で侵害物品を排除することができるため、侵害物品の出所を特定できない場合も、この方法を使うことができます。
輸入差止申立ができる場合
輸入差止申立制度が認められるためには、以下の要件が必要となります。
権利者であること
商標権に基づく申立であれば、商標権者である必要があります。ただし、弁護士・弁理士等の代理人によって申立手続を行うこともできます。
権利の内容に根拠があること
商標権であれば、権利が登録されている必要があります。例えば、出願中の商標に基づいて、輸入差止申立てを行うことはできません。
侵害の事実又はおそれがあり、その事実を確認できること
侵害物品が日本国内に輸入されていること、またはそれが見込まれる場合です。侵害物品又はそのカタログ、写真等で確認できることが必要となります。また、弁護士・弁理士などの鑑定書を提出することもあります。
税関で識別できること
正規品と侵害物品を識別できる情報を税関に提供することが必要となります。
手続の方法
申立先
申立については、以下のいずれかの税関に行います。
- 手続をしようとする者の住所(法人にあたっては主たる事務所所在地)を管轄する税関
- 侵害品の輸出入が予想される税関官署を管轄する税関
税関は、函館・東京・横浜・名古屋・大阪・神戸・門司・長崎・沖縄の9つの管轄に分かれています。そして、権利者は、いずれか1つの税関を選んで輸入差止申立を行うことにより、日本全国の税関での輸入差止を求めることができます。
申立と申立後の流れ
申立書の作成と提出
「輸出入差止申立書」を作成し、税関に対して提出します。また、添付書類として、下記の書類が必要となります。
- 委任状(弁護士などの代理人を通じて手続を行う場合)
- 認証付きの登録原簿および公報
- 侵害物品のサンプル、写真、カタログまたは当該物品を図示したもの
- その他、必要に応じて以下のもの
- 権利侵害を証明する裁判所の判決書
- 権利の効力についての特許庁の判定書がある場合はその写し
- 弁理士や弁護士が作成した鑑定書、警告書
- 警告書または新聞等に注意喚起を行った広告等の写し
申立後の審査と受理
提出した申立書の内容について審査がなされます。その結果、申立が受理された場合、税関のウェブサイトで受理されたことが公表され、実際に税関取締が開始されます。
また、有効期間は輸入差止申立書の受理日から最大2年間で、権利者の希望する期間ですが、更新することが可能です。
輸入差止申立受理後の流れ~税関における取締の内容
認定手続
侵害物品と疑わしく物品が発見された場合、税関長によりその貨物が侵害物品であるかどうか認定する手続が執られます。この場合、税関長から、権利者側と輸出入者側の双方に、相手方の名称・所在地などを記載した「認定手続開始通知書」(認定手続を執る旨の通知)が送付されます。
通知に対し、輸入者が侵害品であることを争う意思を示さない場合は、権利者側は書類等を提出する必要はありません。他方、輸入者がこれを争う場合、権利者側で意見書等を提出します。
税関の判断
税関は、輸入貨物が商標権を侵害する物品であるか否かについて結論を出します。税関は、権利者と輸入者に対して「認定通知書」を送付して認定の結果と理由を通知します。
廃棄・積み戻し
認定手続きの結果、侵害品と認められれば、税関長により侵害物品が没収・廃棄され、または侵害物品を輸出入しようとする者にその貨物の積戻しが命じられます。
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