2014-02-04 商標の先使用権
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
1 今回の判例 商標の先使用権
東京地裁 平成25年11月28日判決
X社は、平成22年から23年にかけて、化粧品を指定商品とする商標「RAFFINE」(標準文字)、「RAffINE」(標準文字・ロゴ)を出願し、登録を受けました。
他方、Y社は、平成11年4月に京都府内で女性専門の育毛サロン「ラ・フィーネ」を開業し、平成13年4月頃から「Raffine」のロゴを使用して化粧品を販売していました。
そこで、X社がY社に対し、商標権侵害を理由に使用差止と損害賠償を求めたのが本件です。
2 裁判所の判断
裁判所は、Y社のロゴ「Raffine」がX社の商標「RAFFINE」に類似することは認めましたが、以下の理由でY社の先使用権を認めて、X社の請求を棄却しました。
- Y社は、X社の商標が出願されるより以前から「Raffine」のロゴを使用した化粧品の販売を開始しており、サロン「ラ・フィーネ」やヘアケア商品のパンフレット、タウン情報誌、テレビのスポット広告、市営地下鉄の吊り広告などで化粧品の宣伝をしていた。
- そのため、X社の商標出願時には、Y社のロゴ「Raffine」がY社の化粧品を表示するものとして、京都府とその近辺の女性消費者に広く認識されていた。
- したがって、Y社には商標の先使用権がある。
3 解説
(1)商標の先使用権とは
ある商標やロゴについて、自社で出願登録せずに長年使用しているとします。ところが第三者が、自社で使用している商標と同一又は類似の商標を出願し、登録してしまったとします。
この場合、その第三者から、その登録商標権に基づき、自社の当該商標の使用を止めるよう求められた場合、応じなければならないのが原則ですが、例外があります。つまり、当該登録商標が出願された時点で、自社の未登録商標が「周知」になっている場合には、「先使用権」という権利が認められ、引き続き自己の商標を使うことが認められるというものです(商標法32条(*))。
また、ここでいう「周知」とは、当該未登録の商標が、自社の商品やサービスを表示するものとして需要者の間に広く認識されていることをいいます。
(*)なお、先使用権が認められるための細かい要件がほかにありますが、本稿では省略します。
(2)実務上の留意点~周知性
先に述べた「周知性」についてもう少し詳細に申し上げると、この「周知」は、日本全国にわたって広く知られていることまでは必要なく、一地方において知られている場合でも構いません。今回取り上げたケースでも、裁判所は「京都府とその近辺の女性消費者」において周知、と認めたことからもこれは理解できます。
とはいえ、この周知性は、先使用権の要件の中で最も重要なものである反面、実務上一番立証が大変な要件ともいえます。
それで、周知性の立証のためには、あらゆる観点からたくさんの証拠を徹底的に証拠を収集する必要があります。
この点、過去の裁判例をみると、周知性の認定に際して考慮された事実・資料のうち主なものは以下のとおりです。
- 実際に使用している商標と、これを実際の商品やサービスに使用していることを裏づけるもの
- 使用開始時期と使用期間を裏づけるもの
- 使用地域を裏づけるもの
- 数量や営業の規模を裏づけるもの(売上高、販売数、店舗数)
- 広告宣伝の態様、回数及び内容を裏づけるもの(広告費の金額、宣伝広告の実物、数量・回数、広告地域、ウェブサイトのアクセス数)
- 当該商標や商品・役務の評判を裏づけるもの(新聞、雑誌、インターネットの記事等)
- 消費者・需要者に対するアンケート調査の結果
ですから、自社で長年使用しており今後も使用する予定のある重要な商標であれば、「先使用権」に頼って未登録のままにするよりもむしろ出願・登録することが、権利保護の確実性に加え、コストや労力の面からもずっと得策であるといえます。
また、何らかの理由で出願をせず(又はできず)、将来先使用権の主張が必要となるという場合には、日常の証拠の収集や蓄積が、いざというときにものをいうこととなります。それで、上のような周知性を立証するための資料を念頭に置きつつ、社内での情報の蓄積や共有に努めることが将来の成果につながるかもしれません。
参考ページ:商標法解説 https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/shouhyou/index/
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