2014-01-07 契約締結上の過失と損害賠償

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1 今回の判例    契約締結上の過失と損害賠償

 

東京地裁平成25年4月16日判決

 不動産会社A社が所有・維持管理していた分譲地専用の水道施設について、A社とB社(工事会社)との間で当該水道施設の更新工事・維持管理のための契約締結に向けた交渉が重ねられました。

 B社は、当該工事についての設計を検討し、工事及び維持管理を実施するための準備をし、契約書を作成していたにもかかわらず、A社は交渉を打ち切る旨通告しました。

 それで、B社は、A社には契約締結上の過失があるとして、A社に対し、B社が契約締結を信頼したことにより受けた損害の賠償等を請求し、裁判を提起しました。

 

2 裁判所の判断

裁判所は、以下のように判断し、B社の請求を認めました。

  • A社の担当者がB社に対し「合意書の内容に不満はない」「社内に稟議書を提出をしたが社長のところで止まっている」等と発言していたこと、毎年の維持管理費の値引の可否について照会し、B社から提案された値引額について、社長の了承を得た旨告げたこと等の事実がある。
  • 上の事実から、契約の締結について正当な信頼をB社に惹起させるものであったと評価することができ、A社としても、B社が契約の締結が確実になされるであろうと信頼し、これを前提に行動するであろうことを認識すべきであった。
  • それで、B社には契約の締結について法的保護に値する正当な信頼が発生し、A社にはその正当な信頼を保護する義務があったから、A社による契約締結交渉の打切によってB社に生じた支出を賠償する義務がある。

 

3 解説

(1)契約締結上の過失とは

 ある契約を締結するか否かは、基本的には自由です。それは契約締結に向けた交渉に入った後も同様であり、両当事者の一方は、いつでも任意に契約を打ち切ることができるのが原則です。

 しかし、契約締結の交渉が進むにつれ、ある当事者の言動から、他方当事者が契約締結に対する期待・信頼を持つようになり、かつそのために相当の費用をかけて準備行為に入るという場合もあります。

 そしてそのように期待・信頼を持つことが、交渉の状況からして「法的保護に値する正当なもの」と認められる場合には、他方当事者は、そのような期待や信頼を保護する義務を負い、正当な理由なく契約締結交渉を打ち切った場合には、そうした費用を賠償する責任が生じる、というのが契約締結上の過失といわれる法理です。

(2)留意点1~賠償の範囲

 状況によっては、契約締結上の過失という法理に基づき賠償の請求を考えざるをえない事態も生じるかもしれません。ここで留意の必要があることの一つは、賠償が認められる損害の範囲が、専門用語では「信頼利益の賠償」に限られるという点です。

 この「信頼利益の賠償」とは、契約締結準備や履行の準備のために実際に負担した費用と考えられており、そこには、契約が締結され、履行されたなら得られた利益の賠償は含まれないと解されています。

 この点、判例の事案で具体的な例を挙げれると、以下のようなものがあります。

  • 契約締結交渉に要した交通費・宿泊費・通信費・人件費
  • 契約締結交渉を第三者に委託していた場合の報酬義務負担額
  • 土地の買受予定者が代金支払のため融資を受けた際の利息
  • 工事のための設計費用
  • 当該契約の履行のための人員募集費用
  • 弁護士費用(一定の範囲)
(3)留意点2~むやみな着手は慎重に

 もっとも、契約締結上の過失がどんな場合でも認められるというわけではなく、ケースによっては否定された裁判例もあります。ですから、特に受注側が、正式の発注前に、発注者の担当者の言葉を鵜呑みにして、かつ契約締結上の過失という法理に頼って、契約締結前にむやみに着手したり、大きなコストがかかる準備工事に入るというのは慎重であるべきです。

 仮に着手の準備をせざるをえない場合でも、発注側に対して、発注内示書といった書面をもらうようお願いしたり、その他できる限り交渉経過を証拠に残すといった対応が考えられます。また、着手の準備にどの程度のコストがかかるかについて、事前に発注者に書面や電子メールで伝えておき、内容を了知しておいてもらう、という対応もできるかもしれません。

 もっとも、経営上のリスク予測・想定としては、正式の発注前の準備行為のコストは、最終的には自己が負担する可能性を念頭に置いておくというのが妥当ではないかと考えます。



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